第2話


 鐘の音が鳴る。


 荘厳な石造りの城。

 所々に竜の美しい装飾がある広い廊下を、幼い足取りで歩いていた。


 かつん……。


 音がして、メリクはそちらの方に歩いて行く。

 入ったことのない部屋に入って行き、軽やかに階段を更に降りて行く。


 扉を開いて、

 その姿を見た瞬間、胸が凍り付いた。

 一枚の絵を見上げる、第二王子の憂うような横顔。

 彼は物音に気付いたのか、こちらを見た。


 黄金の双眸で見据えられた時、メリクの魂の底から恐怖が吹き出して来た。



「ごめんなさい!」



 幾重にも重なった拒絶の記憶が、一つの大きな意志となって降り注いで来る。



「ごめんなさい! もう、グインエル王子には僕は絶対近づきません!

 二度とここには来ないし、名前も呼びません! 

 リュティスさまの聖域には、僕は絶対近づかないから許して下さい!

 決してもう、グインエル王子にもリュティスさまにも近づかないから…………」



 必死に懇願する。

 許してほしい、と。


 ここで許されなければまた繰り返す。

 排撃しかされない、あの生を。



 足音が近づいて来る。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 祈るような仕草で、メリクは幾度も謝罪を口にしていた。


 幼い翡翠の瞳から、涙があっけなく零れる。



 二度と、繰り返したくない第一の生。



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