その名はミッチー
まこわり
【一話完結】その名はミッチー
あたしの名は
ある日、私たちのクラスに転校生が来たんだ。
* * *
ある日の朝礼、教壇の前で一人の女子高生が自己紹介を始めた。
「初めまして、
担任の先生が教室を見渡す。
「
普通、人数分の机しかない教室にそんなに都合よく、席が
「あたし、
「……よろしく。リナッピ……」
「さっそく、あだ名で呼んでくれるんだ? じゃあ、あなたも今日から『ミッチー』ね」
「いきなり? 距離感バグってませんか?」
「おい! そこまだ朝礼中だぞ!」
「へいへい」
* * *
昼休み。
「ねえねえ、ミッチーはどこから転校してきたの?」
「言ってもすぐ忘れちゃうよ?」
「そうなんだ」
(ちょっと距離詰めすぎちゃったかな? あんまり根掘り葉掘り聞くのも嫌われちゃうかな?)
自他ともに認める陽キャの
「ところでミッチー、今日の放課後暇? よかったら、私の友達と一緒にカラオケ行かない?」
「カラオケ?」
「うん、行ったことあるでしょ? 高校生の思い出作り」
「思い出か……、うん、行く」
* * *
放課後、理奈と未知は校門でクラスが別の理奈の友達が来るのを待っていた。
「やっと来た。やほー、こっちこっち」
赤髪でショートカットの女の子と、金髪をツインテールにしている女の子だった。
理奈が三人を紹介した。
「紹介するね。こちら、うちのクラスに転校生してきた
それから、こっちの赤っぽい髪のコが
「誰がヤンキーですの!」
「うそ、本当は、お嬢様」
理奈が三人の間に入ることによって、
* * *
たっぷり遊んだ帰り際、未知は三人にお礼を言った。
「今日はありがとう。とっても楽しかった」
理奈が答える。
「な~にそれ、なんか今日が最後っぽい言い方。これから卒業までいろいろ思い出作りしようね」
「でも、私、影薄いから、明日になったらみんな忘れちゃうよ」
「そんなことあるわけないじゃ~ん」
「そうですわ」
「そうだよ。また明日ね」
* * *
次の日、教室で理奈は未知に声をかけた。
「おはよう~」
未知は驚いた顔をして挨拶を返した。
「おはよう……」
「昨日はカラオケ楽しかったね~」
「うん」
理奈は、いつも遅刻ギリギリに登校するので、すぐに朝礼の時間になった。
担任による出欠確認が始まった。
「よ~し、出席確認するぞ~」
席の配置を見て担任が出欠状況を確認していると、何かわからないことがあったかのように、眉間にしわを寄せた。
「
「はい」
未知は手を上げて返事した。
担任は未知の姿を確認して、自分自身を納得させるように言った。
「ああ、転校生だね」
周りの生徒も「転校生だったのか」などと、まるで未知のことを今日初めて見たかのような発言をしている者がいた。
(先生しっかりしてよね~。それに、ミッチーが自分のこと『影が薄い』って、言ってたの本当だったんだ)
理奈はクラスでは目立つ存在なので、今の未知が忘れられている状況が理解できなかったが、そういう人もいるんだ程度にしか思っていなかった。
理奈はこっそりスマホで
『悲報、ミッチー担任にすら忘れられる。かわいそうなミッチーを今度はマックに連れて行こう!』
『朝礼中じゃありませんの? 意味不明ですわ』
『ミッチーて誰? 誰かの新しいあだ名?』
(うそ? 二人してあたしを騙そうとしている?)
一時間目は社会の選択科目で教室移動だった。
理奈と未知、
理奈は
「もう、二人ともひどいよ~。私を騙すつもりでも、ミッチーが文字見てたら傷つくじゃん」
「だから、ミッチーって誰?」
「え、ミッチーって、私の隣の……」
「新しいリナッピの友達? こんにちは」
「そういうことでしたのね。いきなりミッチーと言われても、わかりませんでしたわ。よろしくお願いしますわミッチーさん」
ふと、理奈が未知のほうを見ると未知は下を向いて、肩を震わせている。
「ちょっと! 泣いちゃったじゃん! いくらミッチー本人が『影が薄い』って言ったからって、これはやりすぎよ!」
「何が?」
「どこがですの?」
未知が理奈に話しかけた。
「いいの、リナッピこれが普通よ。それに私、泣いてなんかいないよ。嬉しくて笑いがこみあげてるだけだよ」
「え」
理奈が未知の方を見ると、突然周りが真っ暗になった。真っ暗闇の中、なぜか未知の姿だけがはっきりと見える。
「私の名は未知。みんな私のことを知ることはないの。ずっとずっと、未知のままなの。でも、やっと見つけた私のことが既知になるトモダチ」
「どういうこと? ここはどこなの?」
「ここがどこか、わからない? わからないでしょ? これが『未知』だよ。誰も知らない、誰にもわからない世界。さあ、リナッピ、これからこの未知の世界を二人だけの既知の世界に作り替えようよ」
「キチ……」
「そう、既知の世界を作るんだよ。ずっとず~っと、永遠に、私たち二人だけで……この世界は未知でいっぱいだよ」
「い……」
理奈は座り込んで涙を浮かべている。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
理奈の悲鳴は誰にも知られることはなかった。
その名はミッチー まこわり @makowari
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