ネットに疎い俺の青春ラブコメストーリーはバズりから始まる。

山﨑山々

第1話 

「なあ。これってもしかして三鷹だったりする?」


 クラスメートの一人が嬉々として、俺にスマートフォンの画面を見せてくる。


「え、なんだ急に?」


 わけも分からずその画面を覗き込むと、動画が再生された。それはどこからどう見ても俺、三鷹晃一そのものである。


「え、ああ、俺みたいだな。というか俺だ」


「お前めちゃくちゃバズってるじゃん。6万いいねってなかなか付かねぇんだぞ」


 興奮気味に語る彼に、俺はただ目を丸くする。

 6万いいねの意味が俺にはわからないが、彼に言わせると凄いことらしい。


「なんで俺、こんなに見られてるんだ?」


「いや、なんでって、それはさぁ」

 彼はチラっと遠くを見る。


「お前がうちのクラスの立川麗奈さんを、王子様のごとく助けてしまったからじゃん。それがネットで大バズリしたからじゃん」


 その瞬間。

 クラス中は待ってましたとばかりに、ヒューヒューと指笛を鳴らして囃し立てた。


「もー、麗奈は恥ずかしがり屋さんなんだから、からかうのはやめてあげてよねー」


 女子の一人がニヤニヤしながら声を上げる。


「うぅ、そ、それは違う、くて……」


 咄嗟に否定する甘栗色の髪をしたセミロングの立川麗奈は、意味ありげに顔を真っ赤にさせている。


「ほーら、三鷹くんのところ行ってきなよ。色々と話すことがあるんでしょ」 


 立川は無言で頷き、俺のところに近づいてくる。


「あ、あのさ、三鷹くんに話したいことがあって。少しお時間をくれませんか?」


 彼女は周囲にからかわれながらも、俺に対して礼儀正しく頭をぺこりと下げる。


「ん、ああ。構わないけれど」

 俺は平静を装う。


「ここだと恥ずかしいので、外で話しましょうか」


 立川に促され、俺たちは教室から出る。その最中も俺たちはからかわれ続けた。

 一体なにが始まるのかわからないが、俺は立川の後ろを足早に追いかける。

 そして一階の昇降口へと辿り着く。


「ふぅ、ひとまずここなら大丈夫そうですね」


「みたいだな」


 あたりには誰もおらずしんとしている。改めて二人きりになると妙に緊張してしまう。


「では改めて。先週末は駅で絡まれたところを助けてくださり、本当にありがとうございます」


「いやいや、そんな。別に全然気にしなくて大丈夫だから」


「ううん、気にしますよ。私たちネットで晒されちゃったんですから。あの迷惑系配信者は生配信をしていたので、そこに臆せず駆けつけてきてくれた三鷹くんには感謝しかありません」


「あー、確かにそんな感じだったな」


 そういえば、と立川の話を聞いて一連の流れを思い出した。

 確かあいつら生放送企画がなんとかとか、ポイントがどうとか、そんな自分勝手なことばかり言っていた気がする。

 そしてそいつらに絡まれていた立川麗奈を、俺が助けたというのが今回の騒動の経緯である。


「三鷹くんはそういうのは全く怖くないんですか?」


「いや、別に特になにも思わんが」


 俺はSNSなんて見ないから、そういう感情は特に湧かない。ちなみに俺はガラケーだし、そんなよくわからんサイトにはアクセスすらできないしな。

 ともかくそれらの情報を知りようがないのだ。


「私はすごく怖かったです」

 立川は俯きがちに暗い声のトーンで呟く。


「まあ、そう思うのは当然だよな」


「……はい。だから私、覚悟を決めました。——絶対に開示請求します」


 先ほどまでの様子とは打って変わって、決意に満ち溢れている。


「か、かいじせいきゅう?」


 俺はそのあまり聞き慣れない言葉に、呆然とするほかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る