冬のスケジュール
なかむら恵美
第1話
電話をするまでもない。
三軒先に、住んでいる。直接ゆくがいい。
「明日、車出して欲しいんだけど」
兄への通達。
「えっ?いいけど。まぁ、入れよ」
甘酒でも、下戸の兄が唯一、飲める酒の類いだ。
「だと思って、持って来たわよ。チョコレート」
安物だけど、チョコレートを肴に甘酒を飲むのが兄の好みだ。
炬燵もキチンと、なっている。
炬燵台には、新聞紙が何枚か重ねられ、置かれている。汚れても、丸めて棄てればいい。
「蜜柑も食う?」
冷蔵庫から4つ手に取り、兄が炬燵の座に座る。
相も変わらず、奇麗になってはいるけれど、義姉がいた時程ではない。
「乾杯」
甘酒の肴はチョコレートと蜜柑だ。
別居中の兄は今、一人暮らしも同然である。
離婚調停になるかも知れない。
「で、なったらどうするの?」
「どうするって。別に俺が悪いんじゃねーもん。勝手に向こうが不倫して、
勝手に荷物をまとめて出て行って、勝手に今、実家だかどこだかにいるんだから」
「実るのかしらね?その不倫」
「さーね。お遊びで終わるんじゃね?プレイボーイとしているらしいから」
「そっか、、、」
我が身にグイと来た。
布団干しが面倒臭くて、たまらない。
食洗器があれば、食器洗いも楽になる。
洗濯機も、乾燥機つきがいいなぁ~っ。
ぐちゅぐちゅ兄が言って来る。
「だったら買えばぁ。明日。〇×電機が行き先だから」
甘酒を煽る。口の中が、チョコレートと蜜柑の匂いだらけだ。
「1つぐらいなら、買ってもいっかぁ」
半ば、できあがっている。
「1つぐらい」と言ったが、本当だろうか?
家電に関して、かなりシビア。その場のノリでは決して買わない。
「本当に?本当に1つぐらいは、買うつもり?」
ちょいとばかりに斜(しゃ)として見る。
「うん。けど、開店と同時に入店。用だけ済ませ、さっさと帰って来る」
「え~っ。目の保養タイムはないの?」
「ないない。冬は早くに終わっちゃうからねぇ。午後の3時で結構、暗いし。
大変なのよ、スケジュール」
頬杖をつき、更に兄は言って来た。
「○×電機だろ。あそこって開店と同時に入った客には、全て10%オフ券を配ってるんだ」
<了>
冬のスケジュール なかむら恵美 @003025
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます