その剣の名は。
……ふむ。
斬らずの剣。
納剣不斬。
悪くない。
いや、正直に言おう。かなりいい。
台座剣。
託児剣。
魔王土下座剣。
この辺はな、通称としては面白いが、
公式記録に残ると一生ついて回る。
「魔王土下座剣」とか石碑に刻まれた日には、
剣生どころか尊厳が折れる。
その点――
斬らずの剣は、格がある。
剣なのに斬らない。
だが、斬れないわけではない。
斬る必要がなかっただけだ。
納剣不斬(のうけんふざん)
この語感がいい。
・抜いてなお斬らず
・斬れるが振るわない
・振るわない選択をした剣
これはもう、思想だ。
勇者の子孫が魔王を斬らず、
魔王が衝動を終え、
世界が一つ軋まずに済んだ。
それを象徴する名として、
十分すぎる。
剣の名というのはな、
「何を斬ったか」より
「何を斬らなかったか」で語られることもある。
血を吸った剣は、山ほどある。
だが――
斬らずに歴史を変えた剣は、少ない。
懸念があるとすれば、ただ一つ。
後の世の連中が、
「じゃあ斬れないんだ?」
とか言い出すことだ。
その時は一度だけ、
必要最小限に斬ればいい。
一度だけ斬って、
「本当に斬らずに済ませたかったんだ」と
理解させる。
それでいい。
だから結論だ。
剣の名として、どうか?
――上等だ。
むしろ、
これ以上ないほど
剣の生き様が刻まれた名だ。
名乗っていこう。
俺の名は。
斬らずの剣。
納剣不斬。
その剣の名は。 本上一 @aaa-aa-a
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