探訪、私の知らない道
とりま とりね
さんぽって楽しいよね
ふと、(散歩に行きたい)と思い立ち街をぶらぶらと歩く。
日が差しこむカフェテラス。
商店街の威勢のいい売り文句。
とことこと街の景色を眺めるのどかな日曜日の昼前ほど、気持ちのいいものはないだろう。
ハーッと息を吐き、白くなったメガネを拭く。
寒空と太陽の温かさが身に染みる。
てくてくと、行く先も知らずただ歩く。
交差点を気ままに曲がり、車1台でギリギリの幅のアスファルトを歩いていたら、知らない道があった。
ここの道は何度か通ったことがあったはずだが、ここに道があった記憶がない。
きっと小さな存在を気にも留めていなかったのだろう。
でも見つけてしまった。こういう未知なるものってワクワクするんだよ。
折角の何もない日だ、入ってみようじゃないか。
松や竹の木漏れ日を感じながら、小道の脇にある家々を観察する。
伝統的な建築法で作られたモダンな日本家屋。
こういう家を見ると縁側でお茶を飲みたくなる。
かと思えばファンタジーに出てきそうな洋風の怪しげな狭そうな家。
ドアからひょっこり魔女が出てきそうだ。
それとも煙草を吹かした探偵だろうか?
そんなことを考えていたら、ふと物音がした。
びっくりして思考を中断すると、そこには……
ケンタウロスがいた。
……いや、なんで?
何で狭小住宅にケンタウロスが住んでいるんだ。
もっと住みやすい家があったよね?
ドアも開けにくいでしょ?
……てかそもそもケンタウロス!?
ケンタウロスって実在したのか……。
足がめちゃくちゃ馬だし、四つの足を持っている。
これで人間って言われたら逆にどんな趣味だよとツッコんでしまいそうだ。
思わず私は
「あ、あの!」
と声を出してしまった。
ケンタウロスは、
「あ、はい」
となんか普通に返してきた。
まじか、ここだと流石に
「ギャ、人間だ!?」
ぐらい驚かれるんじゃないかと思ったけど、「あ、はい」ですか……。
まあ日本の都市部に住んでいれば当然と言えば当然か。
話しかけたはいいものの、沈黙が流れる。
私はこの空気が耐えられず、ついに口を開いた。
「もしかして……ケンタウロスさん、ですか?」
「あ、はい。ケンタウロスですが。」
「失礼ですが、ケンタウロスって、実際したんですね……。
ちなみにお名前は?」
「健田 兎呂巣、です」
さっと名刺を差し出した。
ジャパニーズ・サラリーマンスタイルで私も名刺を差し出してしまう。
これがシャコージレイだ。これを怠ることはスゴイ・シツレイに値する。
ふむふむ、下半身が馬でも会社で働いているのね。多様性だ。
……って、名前もケンタウロスかい!
しかもケンタウロスなのに名前に「兎」が入ってんじゃねーか!
殺伐としたスレにでも現れるんかね君!?
「お名前も……ケンタウロスなんですね。」
「それはよく言われます。」
「なぜ日本にお住まいで?」
「えーと、日本は八百万の神や妖怪がいるでしょう?
環境が我々にも生きやすいので、最近世界中で人気の移住先なんですよ。」
理由がファンタジーの世界観だった。
……え?
いやちょっとまって、やっぱりあなた空想の生物ですよね!?
未知なる生物を前にして、私は冷や汗を流した。
きっと鳥肌も立っていただろう。
「あぁ、そうなんですね。ご迷惑をおかけしました。
回答していただきありがとうございます。」
私は社交辞令を頑張って記憶の底から引っ張りだし、返答をこなした。
ケンタウロスはどこかに出かけていき、私は無事に未知との遭遇を対処してみせたのだった。
そして私は先へと進んでいく。
ちょっとしたアンティークを扱っていそうな店やスナックやバーのような店も見えた。
しかし今はそういう気分ではない。
また訪れる機会があれば見に行ってみたいところだ。
横丁なようなものが見えると、角から雪男が現れた。
……雪男か。
ケンタウロスに比べればインパクトが薄いな。
……雪男!?
またはイエティやビッグフットとも言われる。
彼らは我々の2倍ほどの背丈を持っているのでカツアゲでもされたら全財産どころか借金してまで献上してしまいそうだ。
よく考えたらさ、日本で生きづらいでしょ君!
ドアはちっこいし、夏は暑くて冬は寒い。
熱中症が心配だよ?
近所に住むおばちゃんみたいなおせっかいをかけたくなったが、ケンタウロスの前例を学んでいる私はさすがに声をかけるのはやめておくことにした。
こちらへ向かってくる雪男に会釈をする。
雪男は会釈を返し、何事もなく歩き去っていった。
さらに先へと進んでいくと、小さな池があった。
(ここで休んでいこうかな。)
さっきまで散々変な生き物たちと会ってきた。
流石に精神的にも疲れてきたところである。
近くのベンチに腰を下ろし、のんびりしていた。
ぼんやりと池を眺めると……なんかの背びれ、もしくは背中のようなものが見えた。
これって、サメじゃないか!?
てっきり真水だと思っていたが、まさか海水なのだろうか……。
慌てていたら、水がゴオゴオとうねりをあげる。
(これなら、す◯屋のすき焼き食っとけばよかった……)
死を覚悟したが、いつまで経っても襲われることはなかった。
そっと目を池へと向けると……
ネッシーがいた。
あらかわいいじゃない。
ってネッシーじゃねえか!
体長およそ10m。推計だが井の頭池ほどの大きさしかないこの池にネッシーがいるではないか。
あるいはの◯太の恐竜か!?どちらにせよこれはヤバい。
ネッシー……ならぬメ◯ロッシーを撮ることもせず私は逃げ出すことにした。
ずっと先、交わっているであろう道路まで全速力で走る。
途中になんかが横切った気がする。
たぶん体長50cm、めちゃ早く飛んでいた。
これって……ツチノコじゃね?
走って何分経っただろうか、なんとか日の光も見え、視界が開けた。
私は恐ろしい首長竜のようなものから逃げ延びたのだ。
ぜえぜえと息を吐きながら、ふと後ろを振り返る。
そこに小道はなかった。
(了)
探訪、私の知らない道 とりま とりね @toriaezu_tori
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