【現代落語3】メルカリ太鼓(火焔太鼓)

【現代落語】メルカリ太鼓

登場人物

甚兵衛(じんべえ):リサイクルショップ巡りだけが趣味の、うだつの上がらない夫。

妻:しっかり者で口うるさい妻。


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妻 「ちょっとあんた! またそんなガラクタ抱えて帰ってきて! いい加減にしなさいよ!」


甚兵衛 「ガラクタとはなんだ。これはハードオフのジャンクコーナーで見つけた掘り出し物だぞ。リズムゲームの専用コントローラーだ」


妻 「コントローラーって……こんなデカいのが? まるで和太鼓じゃないか。しかもボロボロで薄汚れてるし、叩くとドンだのカッだのうるさいんだよ!」


甚兵衛 「そこがいいんじゃないか。たぶんこれ、ゲームセンターで使われてたやつの部品か何かだ。500円だったし、つい」


妻 「うちは狭いんだからね。こんな太鼓みたいな邪魔なもの、すぐに捨ててきておくれ!」


甚兵衛 「捨てるなんてとんでもない。そうだ、とりあえずあれだ、フリマアプリに出して様子を見よう。『メルカリ』なら、物好きな誰かが買うかもしれねえ」


妻 「はいはい、勝手にしなさい。どうせ『いいね』すらつかないまま、手数料と送料で赤字になるのがオチだよ」


甚兵衛 「うるさいねえ。見てろよ。……えーと、写真はこう撮ってと。『詳細不明、巨大太鼓型コントローラー、ジャンク品』……よし、出品!」


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(場面転換:数分後)


甚兵衛 「おい、おい! 大変だ!」


妻 「なによ大声だして。売れたのかい?」


甚兵衛 「まだ売れてねえが、通知が止まらねえんだ! 出品して3分で『いいね』が100件ついた!」


妻 「はあ? あんた、値段いくらにしたんだい?」


甚兵衛 「とりあえず1000円だ」


妻 「1000円なら買う人もいるだろうよ」


甚兵衛 「違うんだ、コメントを見てくれ。『これは1000円で売っていいものじゃありません』『幻のプロトタイプです』『リズムゲームの金字塔、あの"太鼓の祭典"の開発初期ロケテ板じゃないですか?』……なんかすごいことになってるぞ!」


妻 「ええ? あの有名な太鼓のゲームの? 本物なのかい?」


甚兵衛 「わからねえ。でも、『オークション形式にした方がいい』ってマニアからアドバイスが来てる。……おい、これ取り消しできるか? 一回取り消して、オークションサイトに出し直すぞ!」


---


(場面転換:オークション終了間際)


甚兵衛 「ハァ、ハァ……。おい、見ろよこの数字」


妻 「……い、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅ、十万!? あの汚い太鼓が十万円!?」


甚兵衛 「まだ上がってる! 海外のコレクターと思わしきIDが入札してきた! 二十万、三十万……おいおい、五十万を超えたぞ!」


妻 「あわわわ……。あんた、夢じゃないだろうね? 五百円が五十万って、千倍じゃないか!」


甚兵衛 「俺の目に狂いはなかったろう! ほら言ってるそばから六十万! 七十万! ……おい、どこまで行くんだこれ」


妻 「ちょっとあんた、心臓に悪いよ。早く終わっておくれよ」


甚兵衛 「あと1分だ! ……おおっ、ここで新規入札! 一気に百万!」


妻 「ひゃ、百万ーッ!?」


甚兵衛 「決まった! 落札価格、百万円だ!」


妻 「あんたーーっ! すごいよ! えらいよ! 見直したよ! 普段は粗大ゴミだと思ってたけど、今日は『人間国宝』に見えるよ!」


甚兵衛 「現金なやつだなあ。……いやあ、しかし驚いた。まさかあのジャンク籠の中に、こんなお宝が眠っていようとはな」


妻 「よかったねえ。これで新しい冷蔵庫も買えるし、旅行も行けるじゃないか」


甚兵衛 「ああ。……でも待てよ。こんなに儲かるなら、柳の下にどじょうは二匹いるかもしれねえ。また明日、ハードオフに行って他のジャンク品も買い漁ってくるか」


妻 「やめときなよ。そんなに上手くいくわけないだろ。あんたね、あまり欲をかいて調子に乗ってると……今に『バチ』が当たるよ」


甚兵衛 「心配すんな。バチならほら、この太鼓の付属品のが2本ある」


おあとがよろしいようで。

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