短編集
nco
クリスマススペシャル 風呂ンダースの犬
ネロロは、年老いたネコラッシュを拾い、育てていた。拾ったというより、拾われたのは自分のほうだったのかもしれない。ネコラッシュはいつも、必要なことだけを見ていた。皿が空けば鳴き、夜が深くなれば眠った。それ以上のことは、何も要求しなかった。
おじいちゃんが死んだのは、冬のはじまりだった。部屋の空気は、その日から微妙に軽くなった。重たいものが抜け落ちたというより、支えが一本消えた感じだった。ネロロは、春画のコンクールに落選した。封筒は薄く、文面は丁寧で、理由は書かれていなかった。理由は、だいたいいつも書かれない。
噂の撮影現場で有名なプールがある、と誰かが言っていた。夜になると警備が甘くなるらしい。ネロロは特に準備もせず、そこへ向かった。冬の水は冷たく、照明は青白かった。水面は静かで、何も反射していないように見えた。
ネロロはプールに入った。入水という言葉が、現実よりも少しだけ大げさに思えた。水は、考えていたよりも柔らかかった。
少し遅れて、ネコラッシュもやってきた。どこから入ったのかは分からない。ただ、そこにいた。ネコラッシュは、ためらいもなく水に入った。動物は、理由を必要としない。
「ネコラッシュ、疲れただろう」
ネロロは言った。声は水に吸われて、短くなった。
「僕も疲れたんだ。なんだか、とても眠いんだ」
ネコラッシュは返事をしなかった。返事をしない、という点で、いつも通りだった。
その頃、ネロロのエロ漫画を読んだコミックエルオーの編集者が、彼を探していた。線が素直で、間の取り方が良かった。欲望が前に出すぎていない、というのが決め手だった。編集者は、電話をかけ、住所を調べ、夜の街を車で走った。
プールでは、撮影の名残のローションが水面に浮いていた。光を受けて、奇妙にきれいだった。ネロロとネコラッシュは、そこで発見された。二人とも、生きていた。理由は特にない。ただ、そうなった。
その後、ネロロは晴れてエルオー誌で連載を任された。タイトルは「ロ◯ホもだち」だった。大きな意味はなかったが、覚えやすかった。ネコラッシュは、締切の横で眠った。
その漫画を読んだある批評家ヒガシヒロキが、こうツィートした。
「立った立った! 僕のクララが立ったよ! エレクション!」
クリスマスは、特別なことが起こらなくても、勝手に過ぎていった。ネロロはコーヒーを飲み、ネコラッシュは丸くなった。世界は相変わらず、少しだけ不親切で、しかし完全には冷たくなかった。
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