AIに完全に任せたAI小説実験
nco
村上春樹初期+KEY+アスカ
その町には夏が居座っていた。駅前の時計は止まったままで、時刻を知りたい人は自分の腕を見るしかなかった。学校はまだ使われていたが、放課後になると音が消えた。坂道の先には河原があり、風が吹くと草は同じ方向に倒れた。
部室の鍵は古かった。回すたびに引っかかる音がした。それでも毎日かけた。理由はなかった。ラジオは壊れかけで、音楽が途中で途切れることが多かった。
彼女はいつも強い足取りで入ってきた。ノックはしなかった。制服の着方はだらしなかったが、本人はそれを気にしていないようだった。こちらを見る目は鋭く、部屋に誰もいないときでも、その視線は弱まらなかった。
「暑すぎ。ここ、エアコン壊れてるでしょ」
「最初からなかったと思う」
「最悪ね。ほんと最悪」
彼女は椅子に乱暴に腰を下ろし、水筒を机に置いた。中身はスポーツドリンクだった。音がやけに大きく聞こえた。
「で、今日は何するわけ?」
「特に決めてない」
「はあ? 信じらんない。あんた、それでよく平気ね」
そう言いながら、彼女はラジオのつまみを回した。雑音が増え、少ししてピアノの音が入った。彼女はすぐに手を離した。
「その音、嫌い」
「じゃあ消す?」
「別に。嫌いなだけ」
放課後の時間は長く、短かった。同じ会話が何度も繰り返された。彼女は強い言葉を使ったが、声はいつも少しだけ震えていた。指摘することはしなかった。
ある日、彼女は人形を机の上に置いた。誰かが忘れていったものだった。耳が片方欠けていた。
「これ、捨てないで」
「理由は?」
「理由が必要なわけ? ほんと頭悪い」
夕方になると、空はオレンジ色になった。彼女は窓の外を見て、腕を組んだ。
「ねえ、あんたさ」
「なに」
「私がいなくなっても、ここ来る?」
質問の仕方は雑だったが、視線は外れなかった。
「たぶん来る」
「……ふん。意味わかんない」
彼女はそのまま黙った。風が吹き、セミの声が途切れた。ラジオはまた雑音に戻った。
次の日、彼女は来なかった。次の日も、その次の日も来なかった。部室に入ると、人形は机の上にあった。水筒はなかった。傘もなかった。
しばらくして、彼女がここに長くいられなかった理由を知った。誰かが言ったのか、ラジオで聞いたのかは覚えていない。納得はしなかったが、疑問も持たなかった。
夏は終わり、町は変わらなかった。鍵は引っかかり続け、ラジオは壊れかけのままだった。坂道を下り、河原に立つと、草は同じ方向に倒れていた。
「ほんと、最悪な町」
彼女が言いそうな言葉を思い出したが、声は聞こえなかった。
それでも、部室の鍵はかけた。理由はなかった。
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