夏には必ず会いにきて

@zyuzyousaibou1209

 待っているから


僕はスマホをポケットから取り出し、LINEを開く。2件の通知が来ていた。僕の親友、天田朝春(あまだあさはる)からだ。朝春とは幼稚園からの仲だ。そして小・中学校を共に過ごしてきたかげがえのない人だ。僕は素早く指を動かしてメールの内容を確認する。


【大事な話がある】

【いつもの公園で待ってる】


端的な言葉だけ書かれた内容だった。僕は無料で使える了解スタンプを送る。その後、学ランの上に青と紺色のグラデーションマフラーを巻き、家を出る。3分程度で公園に着いた。周りを見渡すとベンチに静かに座っている朝春の姿が見えた。その姿はなぜか哀愁が漂っていた。僕は静かに駆け寄り、話しかける。


「それで、大事な話って?」


突然声をかけたせいか、朝春の体は少し跳ね上がり、こちらを数秒凝視していた。


「びっくりしたわー。まじで今心臓ドキドキしたわ」


「あはは、そんなにびっくりしたの?」


「まあな。とりあえず隣に座ってくれ」


言われた通りに僕は座る。お尻から冷たさが波紋のように伝播する。体を朝春の方に向け、瞳をじっと見つめる。朝春は一回深呼吸をして話始めた。


「実はな………第一志望受かったんだ」


「え!!おめでとう!!」


「おう!夕にそう言ってもらえると嬉しいわ」


朝春は満面の笑みで返してくれた。でもすぐに真剣な顔つきになった。


「………だからな」


「……………うん」


「これからは…………もう気軽には会えない。俺が行く高校、他県にあるのは知ってるだろ」


「去年の春から言ってたもんね」


「そこは本当に遠い。日本からアフリカまでの距離と同じくらい」


「流石に誇張しすぎ」


「誇張か……俺からすると本当にそう感じるんだ。夕と離れるとな」


「それは僕と離れたくないっていう意味と受け取ってもいい?」


「いいよ」


「わかった。ちなみに取り消しはできないからね」


「問題ない」


会話に間が出来始めた。10秒くらい時間がたった後、朝春が喋り始めた。


「寒いな」


「確かにね」


「夕日、沈んでいるな」


「星が見れるようになってきたね」


「…俺がいなくなったら寂しいか?」


「寂しいよ…………ん?あれ?え!」


「へぇ〜やっぱり夕も寂しいんだな」


まんまと誘導されてしまった。自分の馬鹿さに呆れてしまう。急いで僕は言い訳を始めた。


「いや!今のは間違い!」


「ほんとかぁ?」


恥ずかしくて顔がとても熱い。冷たい風が吹いるが、この熱は奪えないと思う。


「なぁ夕」


突然、朝春はゆっくりと僕の冷たい手を握った。優しさに包まれるということを身に染みてわかった。掴んでくれた手はとても暖かい。


「俺たちは小さい頃から一緒にいた。遊ぶにしても、登下校するにしてもだ。そして感情も共有してきただろ」


「…………」


「俺は夕の本心を聞きたい。だから全部聞かせてくれ」



「後悔しない……?」


「しない」


「じゃあ……言うね」


深呼吸して、大きな声で言う。


「なんで他県に行っちゃうんだよ!この糞バカ。顔にドブ水ぶちまけるぞ!」


「言い過ぎだろ」


「言い過ぎなんかじゃない!今そんくらいの気持ちで喋ってる!ほんと……なんでなの?」


涙が少しずつでてくる。そしてすぐに頬を伝って流れ落ちる。


「寂しいって思うなら行くなよ!僕と同じ高校に来いよ!」


心の中にある黒くモヤっとしたものを全て吐き出す勢いで喋る。


「一緒に映画館行こうよ!またラーメン食べに行こうよ!」


「うん」


「でも……やっぱり朝春がしたいことを邪魔したくない。あっちでしっかり楽しんでほしい。だからしっかりと見送りたい」


「……」


「それが今僕が思っている気持ち」


真っ直ぐに朝春の目を見つめる。朝春の目には僕はどんな風に映っているのだろうか。いや、考えるのはやめよう。どうせ酷い顔になっているからだ。


「聞かせてくれてありがとうな」


朝春は優しい眼差しで見てくれる。すっと引き込まれてしまいそうだ。


「長期休みのときには必ず会いに行くよ」

 

「……待ってるからね。だから夏には必ず会いにきてね。約束だから」


「わかった」


「会いに来れないときは、僕から迎えに行くからね」


「それは嬉しいな」


「寮で起きたお話とかたくさん聞かせてね」


「ああ、面白い話し用意しとくから期待しとけよ」


空を上げるといつのまにか暗くなっていた。月明かりは強く、他の星たちも輝いている。僕たちは立ち上がり、歩き始める。


「それじゃあ今のうちにたくさん思い出作ろうぜ。卒業まで時間はたっぷりあるからな」


「いいよ。朝春となら忘れられない思い出作れそう」


「夕は何したい?」


「とりあえず……今日の夜はオールでゲームしよ」


「じゃあ負けた方はガリガリ君1個奢りな」


「オッケー。やめるとか無しだからね。土下座とか一発ギャグとかしても遠慮しないから」


朝春と僕はくだらない話をする。ずっとこの時間が流れてほしいと思う。けど無情にも止まってはくれない。だから僕は待つ。この幸せの日が来るそのときまで。
















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