地球人SHOW
銀河猿
プロローグ
残業が終わったのは、午前一時を少し回った頃だった。
「お疲れさん。今日は昨日より長かったな」
社内のエレベーターを待っていると、
いつも夜間巡回をしている警備員が声をかけてきた。
俺は肩をすくめる。
「ほんとですよ。もうこれ以上の残業はごめんです」
冗談めかして言うと、警備員は小さく笑った。
「気をつけて帰れよ。最近、変な噂もあるしな」
「変な噂ですか?」
聞き返すと、警備員は少し声を落とす。
「未確認生物の目撃情報が増えてるらしい。
郊外とか、人気のない場所でな」
「UMAってやつですか?」
「さあな。監視カメラにノイズだけ残ってるって話だ」
俺は鼻で笑った。
「映画みたいですね」
「だよな。まあ、信じる奴はいない」
そう言って、警備員は俺が来た方向へ歩いていった。
エレベーターが到着し、
乗り込もうとした――その瞬間。
空気が、軋んだ。
音もなく、風もない。
それなのに、空間だけが歪んだような感覚。
次の瞬間、視界が白く反転した。
床が消え、
身体が宙に投げ出される。
叫ぶ暇もなかった。
*
目を覚ますと、金属の床に転がっていた。
天井は異様に高く、
どこまでも続くような曲線を描いている。
「……ここは……どこだ……」
身体を起こして周囲を見渡す。
黒人、白人、アジア系。
子どもから老人まで、無秩序に集められた人間たち。
百人前後はいるだろうか。
泣いている者。
怒鳴っている者。
混乱している者。
ただ、呆然と立ち尽くす者。
その中心で、巨大なモニターが点灯した。
映し出されたのは、
人の形をしていない“存在”。
暗くて輪郭しか分からないが、
地球上の生物ではないことだけは理解できた。
《レディース・アンド・ジェントルマン》
《初めまして。地球人の皆さま》
《混乱なさるお気持ちは、十分理解しております》
《しかしながら、ここは皆さまが知る地球ではございません》
ざわめきが、徐々に静まっていく。
《私どもは、皆さまを害する目的でお呼びしたわけではございません》
《あくまで――観測と娯楽のためでございます》
「……ふざけるな」
誰かが呟いた。
《地球人という種族は、実に興味深い存在です》
《恐怖に晒されたとき、皆さまは協力なさるのか》
《それとも、互いを切り捨てるのか》
《私どもは、その“選択”を拝見したいのです》
一拍置いて、宇宙人は続けた。
《こちらがご用意いたしました企画の名称は》
《――地球人SHOW》
《誠に恐れ入りますが、皆さまには》
《一週間、生存していただきます》
《ルールは極めて単純でございます》
《――死なないこと》
《それでは、地球人SHOW最初の出演者の皆さま》
《どうぞ、素晴らしい“ショー”を》
モニターが消えた。
次の瞬間、再び視界が白く反転する。
そして俺たちは、
広大な収容所へと投げ出された。
――こうして、
地球人SHOWは開幕した。
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