地球人SHOW

銀河猿

プロローグ

残業が終わったのは、午前一時を少し回った頃だった。

「お疲れさん。今日は昨日より長かったな」

社内のエレベーターを待っていると、

いつも夜間巡回をしている警備員が声をかけてきた。

俺は肩をすくめる。

「ほんとですよ。もうこれ以上の残業はごめんです」

冗談めかして言うと、警備員は小さく笑った。

「気をつけて帰れよ。最近、変な噂もあるしな」

「変な噂ですか?」

聞き返すと、警備員は少し声を落とす。

「未確認生物の目撃情報が増えてるらしい。

 郊外とか、人気のない場所でな」

「UMAってやつですか?」

「さあな。監視カメラにノイズだけ残ってるって話だ」

俺は鼻で笑った。

「映画みたいですね」

「だよな。まあ、信じる奴はいない」

そう言って、警備員は俺が来た方向へ歩いていった。

エレベーターが到着し、

乗り込もうとした――その瞬間。

空気が、軋んだ。

音もなく、風もない。

それなのに、空間だけが歪んだような感覚。

次の瞬間、視界が白く反転した。

床が消え、

身体が宙に投げ出される。

叫ぶ暇もなかった。

目を覚ますと、金属の床に転がっていた。

天井は異様に高く、

どこまでも続くような曲線を描いている。

「……ここは……どこだ……」

身体を起こして周囲を見渡す。

黒人、白人、アジア系。

子どもから老人まで、無秩序に集められた人間たち。

百人前後はいるだろうか。

泣いている者。

怒鳴っている者。

混乱している者。

ただ、呆然と立ち尽くす者。

その中心で、巨大なモニターが点灯した。

映し出されたのは、

人の形をしていない“存在”。

暗くて輪郭しか分からないが、

地球上の生物ではないことだけは理解できた。

《レディース・アンド・ジェントルマン》

《初めまして。地球人の皆さま》

《混乱なさるお気持ちは、十分理解しております》

《しかしながら、ここは皆さまが知る地球ではございません》

ざわめきが、徐々に静まっていく。

《私どもは、皆さまを害する目的でお呼びしたわけではございません》

《あくまで――観測と娯楽のためでございます》

「……ふざけるな」

誰かが呟いた。

《地球人という種族は、実に興味深い存在です》

《恐怖に晒されたとき、皆さまは協力なさるのか》

《それとも、互いを切り捨てるのか》

《私どもは、その“選択”を拝見したいのです》

一拍置いて、宇宙人は続けた。

《こちらがご用意いたしました企画の名称は》

《――地球人SHOW》

《誠に恐れ入りますが、皆さまには》

《一週間、生存していただきます》

《ルールは極めて単純でございます》

《――死なないこと》

《それでは、地球人SHOW最初の出演者の皆さま》

《どうぞ、素晴らしい“ショー”を》

モニターが消えた。

次の瞬間、再び視界が白く反転する。

そして俺たちは、

広大な収容所へと投げ出された。

――こうして、

地球人SHOWは開幕した。

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