短編集
アルタイル
何気ないもの
「寒っ」
ブルっと震えた身体。文字が書けそうな程白い息をはぁっと吐く。
「ヒートテックでも来てくるべきやったなこれ」
母親に登校する際言われたが面倒なので来てこなかった自分を戒めるように聞こえないひとりごとをぼやく。
「うっす!おはよっ!元気しとるか?雅人!」
大きな声で左肩をバシッと叩く背広の体つきがアスリートのような男が僕の進行方向を遮っている。
「おはよう、晃弘。相変わらず寒そうな格好やな」
そう返事をしながら晃弘の右側を歩く。
晃弘は防寒具をひとつもつけていない身軽な格好だった。
「まぁ走ってきたさかい、あったまってむしろ熱いまであるわ」
よくみると確かに汗はかいている。息はきらしていないが。
「ところで雅人は寒そうやな!走ってけえへんかったんか?」
「なんで走らなあかんねん、遅刻しそうでもないのに」
ネックウォーマーに顔を埋めながら応える
「いや待てよ、お前走ってきたゆうたな?」
「ゆったな」
「やばいってお前、フルマラソンでもしてきたんか?」
唖然とする俺に対し全く間違ってないさも当然のようにいる晃弘
「おかげでローファーみてみ、ガバガバやでぇ」
「『ガバガバやでぇ』、ちゃうねん!なんの影響受けたんか知らんけど、百歩譲って走るのはええわ、でも登校時にすることちゃうやろ、あんさんはTPOをお知りにならないようで?」
左手でお手本のようなツッコミをビシッと入れる。
「昨日テレビでさ、駅伝やっとってそれ見て俺も負けてられへんってなったんよ」
こいつは馬鹿だ。しかも脳を筋肉でやられているタイプの。いわゆる脳筋だ。
「ええんちゃう?なんでか息きれてへんし」
「箱根めざすわ!区間新記録おれがとる!」
「ええんちゃう?知らんけど」
頑張りやぁと適当にあしらう俺だが、晃弘は本気で”やってやる!”という気迫で目を輝かせていた。
「そういえばさぁ、TPOって何??トイレットペーパー??」
「今更!?もしトイレットペーパーならOはなんやねん!」
ズッコケそうになりながらも高校の正門に着くのであった。
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