第4話 色色
疲れた...
止めどなく流れてくる感情に心が悲鳴をあげているのが聞こえてきた。とりあえず不本意にクビになったバイトのスケジュールをスッと消していく。必然と何もない日が増え、今週は土日にコンビニバイトがあるだけだ。あとは面会と刈谷さんとのご飯だが、面会は今週のうちに行こうと思う。なぜなら胸のつかえを早く取りたいからだ。「ご飯は刈谷さんに決めてもらおう」オレは暇人だからいつでも大丈夫。むしろオレが決めるなんておこがましい。早速、刈谷さんにメッセージを打つ。内容を決めるのに小一時間かかった。慣れていない証拠だ。不慣れななか頑張って考えて送るのだから多少は許してもらおう。一仕事終えた気分で冷蔵庫の中からみかんのチューハイを取り出し、惣菜の唐揚げで一杯した。
何もないのに早く目が覚め、二度寝をキメようとした時、ケータイにメッセージがきていることに気づいいた。一瞬で目が冴え内容を確認し、ご飯が月曜日であることを忘れないようにすぐさまスケジュールに書いた。それと了解のメッセージも送った。柄にもなく星のスタンプを添えてしまい自分でも気持ち悪いと思った。浮かれているのだろう。今までの人生で初めての家族以外とのご飯なのだからテンションも上がる。高揚したそのままの勢いで病院に行こうと思い、支度を始める。とはいえ薔薇のアウターとケータイ、財布くらいだ。あっという間に支度をして家を後にする。鍵をかける時、退去日が来月であることを思い出し、病院の帰りに不動産屋をチラ見しようと頭にメモした。
ボロい階段をカンカン降りていき、黒の自転車で病院に向かう。風を切って走り、十分程度で辿り着く。受付で「ーさんのお見舞いです」と伝え、病室を教えてもらう。エレベーターで三階まで上がり、ナースセンターに先ほどと同じ内容を伝える。部屋まで案内されるなか徐々に緊張しているのが分かってきた。心臓が突き出てきそうなほど鼓動する。勢いで来たことを後悔している。廊下の端まで歩き、「ここ三〇九号室です」と教えてもらった。扉を開けるのに勇気が試されているみたいだ。さながら勇者がリトライして挑むラスボスの扉を開ける時みたいに。
時間がかかったが覚悟を決め、ゆっくり扉を開けた。そこにはベッドに寝ている「ーさん」がいた。長い黒髪に今にも折れそうなほど細く黒髪のせいか透き通るような白い肌をしていた。不謹慎だが少しドキドキしてしまう。そっと近づき声をかける。「ーさん、体の方は大丈夫?」すると、こっちに顔を向け「すけとん、来てくれたんだね。ありがとう」あだ名で呼ばれ、やはり彼女は高校の同級生だと確信した。「ーさん、ー高だよね?」母校の名前を伝えると、コクリと頷いた。すると、「私のこと覚えてる?」そう聞かれ、申し訳ないが記憶に無かった。「ごめん。分かりません。」AIみたいな答えを返してしまった。「そうだよね。だって私、すけとんと話したことないの」「ならどうして?」「正直に言うとずっと前から片想いしてたの」あまりのカミングアウトに頭が真っ白になる。この展開は予想の斜め上だからだ。「話したこともないのにどうして?」「私、美術部でモデルになる人を探したの。色んな人を見て、描いてきたけどどれもパッとしなかった。なぜならみんな色を持ってたから。そんな時一人で窓際で本を読んでいたすけとんを見て勝手ながら描かしてもらった。一目惚れだった」オレがバカなのか言っていることの意味が分からなかった。「すけとんは繋がりを持たない、誰にも染まらない白色だったの。そう見えた。描いてて楽しかった。何色にでもなれる白色は魅力的だった」確かに、オレは友だちもいなかったし一人の方が楽だったからずっとそうだった。それをこんなに表現されたことに驚いている。「一目惚れする要素がどこにあったの?」「自分の魅力に気づいてないんだよ。すけとんは純粋で真っ白なんだから。それに喜んでくれたでしょ?」「なんのこと?」「かわいいでしょ?"スケルトン"で"すけとん"このあだ名私がつけたんだよ」鳥肌がたった。このあだ名は知らない間にクラスに広まっておりオレを呼ぶ時は決まってみんな、すけとんって呼んでいた。それの名付け親が目の前にいる。「ありがとう。確かに少し気に入ってたよ」素直に認めて感謝を伝えた。その時の彼女の表情は忘れないほど美しい笑顔をしていた。正直見惚れていた。「あと、私とすけとんの合作見てくれた?」なんのことか分からず戸惑いの顔を見せる。「見てないの?残念だなぁ。わざわざすけとんがどこでバイトしてるのか調べて絶好の瞬間を選んで私の白い服とすけとんの真っ白な心に真っ赤な色を描いたのに」そう言ってあの時着ていた服をオレに見せてきた。吐き気がした。後ろに倒れこみ、ーさんはおかしな人だと認識した。でも服を見たときなぜか手に刺した時の生温かい感触が蘇ってくる。認めたくないがオレもおかしな人なのかも知れないと思ってしまった。勢いよく部屋から飛び出して病院を後にする。気持ちが悪く帰りは自転車を押して帰ることにした。その道中ケータイが鳴り響いた。正直人と話す気分ではないが番号を見るとバイト先のコンビニからだった。シフトの穴埋めなど緊急の用事かも知れないので電話に出る。「新田くん、急で申し訳ないのだが今日限りでクビにすることになった」びっくりした。「なんでですか?」噛み付くように声を荒げて問い返す。「新田くん、まだ知らないの?SNSで君、大変なことになってるだよ」オレは調べた。するとオレが彼女を刺している様子がネットで拡散されていた。あの時誰かに撮られていたのだ。気が付かなかった。オレはすっと電話を切った。ゆっくりと落ち着いて内容を見るとオレは殺人者扱いになっていた。「加工じゃないよね」「これがマジだったら殺人の瞬間じゃんww」「撮影者の度胸に眼福」「噂では逮捕されてなくてまだ街に潜んでるらしいよ」「こえー」「早く自首しろよ、殺人者」
どこの誰とも知らない奴に言われようのないことを言われていた。「そりゃバイトもクビになるわ」おそらく引越しのバイトもこれが原因だろう。オレを傷つけないよう人員削減にした店長の優しさだろう。自分でも驚くほど涙は出ず、すっと心に入ってきた。ーさんに例えるならオレの真っ白な心が黒色に侵されていく瞬間だろう。
死んだ...
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