絶望的な鬱ゲーを金の力で無双する~報われないスラム街の捨て子に転生したので、死なないためにゲーム知識を駆使して大金を手に入れて全てをねじ伏せていく~

AteRa

第一部1章:スラム街脱出編

第1話「転生」

「おい、あのエンミア人のガキはどこだ!?」

「お前たちはこっちを探せ!」

「畜生、逃げられた! あのガキ、俺たちをコケにしやがって!」

「絶対に見つけてぶっ殺してやる!」


 雨が降っている。

 背後から怒声が聞こえてくる。

 俺は小さな体を必死に動かしてスラム街の匂いのキツイ裏路地を全力で走っていた。

 転がるように走る。


 死にたくない。

 もうあんな痛い思いはしたくない。


 記憶がフラッシュバックする。


 報われない人生だった。

 俺は理想を掲げ、正義を掲げ、真っ当に生きてきたつもりだった。

 困ってる人は助けた。

 お金が足りない人には貸してあげた。

 貸した金が返ってくることはほとんどなかったが、怒ることはしなかった。

 不義理を働かれて、奸計に嵌められて、職を失っても、相手を責めることはしなかった。


 でも、その善意が報われることはなかった。

 どん底の人生の中で、唯一俺の理想を理解してくれる女性に出会った。

 彼女は俺のことをよく慰めてくれた。

 俺のことを立派だと褒めてくれた。


 なのに、ある日突然、彼女は行方をくらました。

 俺の貯金すべてとともに。


 俺は探し回った。

 何で貯金を持っていったのか。

 何か深い事情が、そうせざるを得ない事情があるのかと思っていた。


 そうではなかった。

 彼女は死体で見つかった。

 クズホストに貢いでいたのだ。

 借金をしていて、男を騙して金を集めていたのだ。


 騙されたと思った。

 でも、彼女は既に死んでいて、責めることもできなかった。

 膨れた借金を返せなかったのだ。

 そして貢いでいたホストも、別の女に恨まれて刺されて死んでいた。


 あんまりじゃないか。

 俺の人生はいったい何だったんだ。

 立派に生きようと努めた結果がこれだ。


 子供の頃、大人たちから立派に生きろと、そうすれば必ず報われると、そう教わった。

 でも、そんなことは決してなかった。

 大人たちはそう言うことによって、良いことをした気になっていただけだったのだ。


 全て偽りだった。

 やっぱりただの綺麗事だった。


 そして俺は、女の死体を見つけて数日後、瘦せ細った初老の男に刺されて死んだ。

 おそらく俺を騙した女の親だったのだろう。

 面影があった。

 彼は最後に、俺にこう言った。


『お前がもっと金を持っていれば、俺の娘は生きていたのに』


 ……そうか。

 世の中、結局金が全てなんだ。

 金があれば、俺の人生も報われたし、あの女も死なずに済んだし、ホストもあんな仕事をしなくて済んだ。


 世の中、金が全てだ。

 俺はそう思いながら死んで――。




「こっちの方に足跡があるぞ!」

「こっちだ! 追え!」

「まだ近いぞ! 早く行け!」


 声が近づいてきている。

 相手は大人だ。

 ガキの俺では走る速度が違う。

 このままだと追い付かれる。


「はぁ……っ! はぁ……っ!」


 息が上がる。

 呼吸する度に肺が痛む。

 でも、走り続ける。

 生きるために。


 死んで、新しい人生を得た。

 俺は白髪蒼眼のガキに転生していた。

 ここが何なのかは知らない。

 が、どうやら異世界のスラム街のようだった。


 薄汚いスラム街だ。

 建物は虫食い状態、道も舗装されておらず泥だらけ、人々の表情も暗く、よどんだ空気をしている街。

 俺はそんな場所に住んでいるガキに転生した。


 何でこんな報われないガキに転生しなければならないのか。

 俺は不服だった。

 しかし、俺はふと思った。

 今度こそ、二度目の人生こそ、綺麗事なしに好き勝手に生きろと。

 スラム街のガキに運れ変わったのは、そう言った神からの暗示なのではないだろうか。


 好きに生きてやる。

 大金を手に入れて、もしくは圧倒的な力を手に入れて、俺に歯向かう者全てを蹂躙していってやる。


 そう思って俺は、食い物を盗んだ。

 食べるものがなくて、腹が減って死にそうだったのだ。


 最初は躊躇があった。

 罪悪感があった。

 いくら覚悟があろうとも、人の価値観はそう簡単には変わらない。


 でも背に腹は代えられなかった。

 一度盗んでしまえば、二度目は簡単だった。

 二度盗めば、三度目はもっと簡単だった。


 そうこうしているうちに、ここらを〆ている闇ギルドに目をつけられていた。

 その結果がこれだ。


 足音が近い。

 もうすぐ追い付かれる。


 何かないか。

 現状を打開する何か。

 隠れられる場所か何か――。


「……あれだ」


 とある廃屋の井戸が視界に入った。

 俺の小柄な体ならギリギリあの中に隠れられるかもしれない。


 俺は後ろを振り返って、まだ追い付いてきていないことを確認すると、井戸の中に勢いよく飛び込んだ。

 桶を吊るしている縄に頑張ってしがみつく。

 手を滑らせて離してしまえば真っ逆さまに井戸の底だ。

 落ちたら間違いなく死ぬだろう。


 手汗が酷い。

 滑る。

 が、何とか必死にしがみつく。


 しかも、臭い。

 鼻が曲がりそうな匂いがする。

 しかし我慢してジッとする。

 そして。


「おい、全然見つからねぇじゃねぇか!」

「本当にこっちだったのかよ!?」

「間違いだったんじゃねぇか?」

「……チッ、見失ったか。お前ら、引き返すぞ! 次見つけたら絶対にぶっ殺してやる」


 男たちの話し声が聞こえてきて、足音が離れていく音が聞こえた。

 良かった、助かったか……。


 何とか縄をよじ登って井戸を出る。

 体が臭くなったが、何とか命は助かった。


「しかし……エンミア人、か」


 聞いたことのある単語だ。

 しかも、前世で。


 鬱ゲー【エンディス】。

 そこに出てくる人種の一つの名前がエンミア人だった。

 エンミア人はスキルなし、レベルが上がらない、といったハンディキャップを背負った人種だ。

 大昔に大神【エンディス】を裏切ったとされており、そのような制裁を受けている、とされている。

 そのせいで、エンミア人は迫害しても良く、人間ではない、と見下される存在だった。


 そして、ゲーム内における、エンミア人の最大の特徴が、白髪蒼眼ということ。

 今の俺の見た目は完全に白髪蒼眼だ。


 まだそうと決まったわけじゃない。

 ただ、この世界は鬱ゲー【エンディス】である可能性が高い。


 ……やり込んだゲームだ。

 スキルなし、レベルが上がらない人種だとしても。

 バグ技や隠し要素などのゲーム知識が豊富にある。


 これなら好き勝手に生きることができるのではないだろうか。

 辛酸を舐めた前世とは違い、幸せな人生を歩むことができるのではないだろうか。


「……大金を手に入れるんだ。世の中、金が全てだ。今世でそれを証明してやる」


 俺はスラム街の路地裏で、一人そう決意を固めた。

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