C型血の少女は、誰も救わないと決めた
52Hzのくじら
第0話
人が死にかけているのを見ても、私はもう助けない。
そう決めている。
冷たい言葉だと、自分でも思う。
でも、それは覚悟だ。
私が生き延びるために、必要な選択だった。
救わなかった命の数を、私は数えない。
数えたところで、意味がないからだ。
助けた命が、必ずしも正しい結果を生むとは限らない。
――それを、私はもう知っている。
放課後の校舎は、いつもより静かだった。
部活の掛け声も、下校する生徒たちの笑い声も、少し遠い。
私は一人、廊下を歩いていた。
教室に忘れ物を取りに戻る、それだけの理由だった。
その時。
階段の踊り場から、鈍い音がした。
何かが、落ちた音。
人の体が、床に叩きつけられる音。
一瞬、足が止まる。
反射的に、そちらを見てしまう。
倒れていたのは、同じ学校の生徒だった。
顔色は悪く、呼吸は浅い。
誰が見ても――危険な状態だと分かる。
普通なら、ここで叫ぶ。
助けを呼ぶ。
駆け寄る。
でも私は、しなかった。
心臓が、痛いほどに脈打つ。
足先が、冷たくなる。
それでも、私は動かなかった。
――助けない。
胸の奥で、その言葉を繰り返す。
理由は、ひとつじゃない。
過去の出来事。
失ったもの。
そして、私の中に流れている“血”。
けれど今は、考えない。
考えれば、きっと手を伸ばしてしまう。
だから私は、視線を逸らした。
一歩。
また一歩。
倒れた生徒から、距離を取る。
背中に、何かを投げつけられたような感覚がした。
罪悪感かもしれない。
恐怖かもしれない。
それでも、私は振り返らなかった。
――これは、私が選んだ生き方だ。
人を救わないと決めた少女が、
それでも生き延びようとする物語。
ここから、始まる。
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