記憶の剣、沈黙の街

キョウ

第1話 女子高生、修学旅行のバスにて

夢を見た。血の香りが全身を覆うような血生臭い不快な夢だった。

燃え落ちる城壁、仲間の叫び、血に染まる大地。

私は剣を握り、目前の敵に向かって猪突猛進していた。

「自由を、友愛を守れ!」

声を張り上げた瞬間、鋭い痛みが胸を貫いた。

 視界が赤に染まり、世界が遠ざかっていく。

目が覚めた瞬間、そこはバスの中だった。

バスの窓から差し込む冬の陽射しが、制服の肩を温めていた。

「あれ・・・?夢なの・・・?」

周りを見渡すと、友達同士ではしゃいだりゲームをしたりで騒々しかった。

先ほど見た夢とのギャップで眩暈さえした。

ふと横から声がした。

「どうしたの?雫石しずく。なんか顔色悪いじゃん?」

ちらりと横を見ると私の友人,石矢真理がいた。

小学生からの腐れ縁で、何かするにも真理といっしょだった。

クラスの中ではお調子者で、冗談好き。趣味は写真撮影。

私のかけがえのない友人である。これまでもそしてこれからも。

「別に・・・。なんでもない。ただ、変な夢みただけ。」

「変な夢?どんなどんな!?」

そういって私の顔を覗き込む。瞳の奥は好奇心でいっぱいだ。

「いわないよ。あんたに関係ないでしょ?それに、ちょっと記憶薄れてきたし。」

「えーー!別にいいじゃん、雫石と私の仲なんだからさ。ちょっとだけ!ね、お願い!」

「だから、いわないって・・・」

「おーい、みんな聞いてくれ!これからの日程について説明するぞ!」

そう大声を張り上げたのは引率の神楽先生だ。

神楽先生は、私たち2年の担任の先生であり教科は歴史を担当。

生徒思いで温厚だが、いやにルールに厳しい。

京都や奈良などの歴史に詳しく、観光地の解説を熱心にする。

「・・・よーーし、静かになったな!みんな知ってると思うが、これからこのバスは京都の2条城に向かう。2条城についての説明はこれから、バスガイドの須藤さんが行ってくれるのでちゃんと聞いとくんだぞ!2条城に到着した後は、東大手門 → 唐門 → 二の丸御殿 → 二の丸庭園 → 本丸庭園 → 天守閣跡 → 東大手門の順で巡ってもらう。そこで2条場がいかに日本の歴史において重要な場所か君たちに味わってほしい。2条城を巡った後は、2条城周辺のホテルにチェックイン。チェックイン後にまた、ロビーで明日の日程について説明する予定だからそのつもりで!まあ言うまでもないことだが現地には他のお客さんもいるから、あんまりはしゃぐなよ?」

そこまで言うと、神楽先生はふうっと息を吐きバスの座席に腰を下ろした。

真理を横目で見ると、窓から見える京都の古めかしい街並みをデジカメで撮影していた。表情は、とてもうれしそうだった。

「ねえ、見てよ雫石!京都のこの街並み最高ーー!!」

「テンション高っ。...まあ、真理が楽しそうでよかったわ。」

「雫石、一緒に写真撮ろうよ!京都の街並みバッグにしてさ!!絶対映えると思うんだよね!」

「別にいいけど、そのデジカメの空き容量大丈夫?本命の2条城を撮れるメモリあるんでしょうね?」

「あ・・・。やばいかも。」

「え、ちょっと待って!じゃあ雫石のスマホで撮ろうよ!」

真理は慌てて笑いながらデジカメを振ってみせる。

周囲のクラスメイトも「またかよ〜」と笑い声を上げ、バスの中は一気に賑やかになった。 

笑い声に包まれた車内は、まるで遠足の延長のように賑やかだった。

 窓の外には京都の街並みが流れ、観光気分に浸る生徒たちの声が重なる。

先ほど見た悪夢のことなど忘却の海に沈んでいった。

「皆さま、右手にご覧いただけますのが世界遺産・二条城でございます。」

マイクの反響音がした。顔を上げると、バスガイドの須藤さんが立ちながら2条城について説明していた。

「江戸時代初期、徳川家康が京都御所の守護と将軍上洛の宿泊所として築いたお

城で、その後は大政奉還の舞台となった歴史的にも大変重要な場所です。

正面の唐門は、極彩色の彫刻が施された豪華絢爛な門で、当時の権威を示す象徴とされております。

また、二の丸御殿の大広間では、徳川慶喜が政権を朝廷に返上した大政奉還が行われました。

庭園も見どころでございます。池泉回遊式ちせんかいゆうしきの二の丸庭園は、四季折々の美しさを楽しめるように設計されており、

春には桜、秋には紅葉が大変美しく、多くの観光客を魅了しております。

それでは、あと30分ほどで2条城に到着します予定ですので、今しばらくお待ちくださいませ。」

丁寧に説明し終わると、一礼しバスのガイド席に座った。

周りを見渡すと、みんなの表情がワクワク、好奇心でいっぱいのようだった。かくいう私も、内心ワクワクしていた。「楽しみだな・・・。2条城。」

ぽつりと呟いた。そこで待ち受ける大いなる運命が待ち受けているとも知らずに。


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記憶の剣、沈黙の街 キョウ @kyoheikonnshinn

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