マヌケな天使と憑きたくない悪魔

ぽんつく地蔵

第1話 天使、罠にひっかかる

 太陽が傾いた天空の、茜色の優美な逢魔が時のことである。

 当日は黎明時間から地界冥府であるヘゲンナより地上の人界へ出没中であった悪魔は、街外れに新しく建設されたバロック様式の正教会へと出かけた。朝間からなにをしていたのかというと、父なる神に見捨てられたていたらくな罪深き人間を見つけては、悪魔の悪魔によるさらなる背信にみちびくための悪魔らしい誘惑の常套句をささやいて心底イジメていたのである。


 そして今、三日ほど前にとある罠を仕掛けておいたので、それを回収しに行くのだ。


 ちなみに、悪魔のエネルギー源と言うは、心に隙間のある人間に憑依してこの生命力を吸い付くすことで、ひいては煩悩に苦しませるによってなりわいとするのである。さもなくば、エデンに対抗するための霊力が衰えてしまうのだ。

 こうしてわざわざ罠を仕掛けたのは、ここ最近身の丈に合った、憑依するのにほどよい人間をなかなかハンティングできなかったからで、マヌケな人っ子一人おとしめたらば強引に憑依するつもりでいたのであった。


 さて、悪魔がようやく正教会にたどり着いたころには日もとっぷりと沈んでいた。悪魔の活発化する、闇夜の到来である。

 果たして、罠にハマった人間は、女か男か、はたまた赤子か老人か、堕落の程度やいかほどに。さようなふうに、むくむくと妄想を膨らませて心身はずむ気分で、正教会の前に一本堂々とそびえ立つ巨木へ近づいた。

 仕掛けた罠の様子を遠目から見るに、これは誰かが見事にひっかかっている。


 これは、大成功である。


 さらに近づいてよくよく見ると、巨木の枝に麦藁色のローブをまとった紳士がひっかかっている。


 これは、大物である。


 さらにまじまじ見つめると、その紳士の背中には純白としてかがやきたる立派な双翼が生えている。加えて、そのアッシュブロンドの頭頂には、いばらの花冠をかぶっている。

 これは、天使である。


 どうしたことかこれは、女か男かにあらず、はたまた赤子か老人かにあらず、堕落の程度やいかほどにとも言われぬ、まぎれもない天使である。

 悪魔の仕掛けた単純な罠に、見事ひっかかったのは天使であった。

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