全てが90点のハイスタンダードの世界王者、SNSを始める。

ecolor

第0話 Singularity

Adaptation・Struggle、略してASと呼ばれるゲームは西暦2050年に発表・発売され、瞬く間にゲーム業界を蹂躙していった。

それまでゲーム業界が生かし切れずに技術だけが点在していたVRという拡張性、創造性に富んだコンソールをASは極限まで使い尽くし誕生した。

発表された年のゲームオブザイヤーを獲得、次の年にはプロシーンの誕生と世界的な流行、そしてあまりにもうまく作られたプログラムを利用した様々な趣味・嗜好製品の開発と販売による一般層の獲得。

よってASを含むASを利用したVR製品を合わせた1ヶ月の平均アクティブユーザーは10億人を超え、ASは、かつて欧米諸国のサッカーが全国民の日常の一部だったように、世界的な規模で日常の1部になった。

ASは後世の研究者に「これまで、そして今後類を見ることが無いであろう、人類にとっての特異点」と評されることになる。

プロは世界的な知名度・富を獲得し、トッププロのSNSのフォロワー数を見たら1億人越えは当たり前。

トッププロの名前は全世界どこでも老若男女問わず知っており、神の様な扱いをされる。

よって、プロ・アマチュア含む競争は激化。

数多もの天才が挑み、挫け、プロシーンから去っていく中で、「怪物」だけが残っていく魔境と化した。

国ごとにリーグが存在し、1年に一度の世界大会を目指し、研鑽を続ける。

かつての「怪物」も新世代の「怪物」に打ちのめされる新陳代謝が激しい競技、それがAS。

そしてASが世界的なゲームとしての地位を確固たるものにした2053年には生まれた。

その十年後、彼はわずか10歳でプロデビューをし、神童ともてはやされた。


「十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人」という言葉がある。

それは、早熟の天才が青年期に掛かったところで挫折し、業界から消えていく様を揶揄したものだ。


しかし彼は違った。

初年度から国内個人戦で3位、次の年には優勝、世界個人戦でもTOP8入りを果たす。

その後2年似たような結果を残し、プロ5年目に差しかかった時にとあるチームに所属し、リーグへの参戦をする。

チームの名は「ATLAS」、国内リーグでも1~3位の辺りに居続ける強豪。

そしてATLASは彼を迎え入れてから次の年、長期的な王朝を築くことになった。

1年目、準優勝。

2年目、優勝。

3年目、優勝。

4年目、優勝。

5年目、優勝。

これまで数多の人間がどのチームが最強と議論してきた。

ATLASはその議論を根本から破壊し、1強、王者として君臨し、人々はどのチームがATLASの次に強いかを離し始めるようになった。

彼は、そのATLASで中核を担っており、幾たびのメンバー交代が成されても、彼だけは残り続けた。

よって彼は、GOAT、史上最高の地位を獲得するに至る。

ATLASに入ってからの5年間も、個人戦で2回の優勝を果たしており、議論の余地はなかった。

彼の名はSAW。

本名天塚奏。

彼は2053年、埼玉県にて生まれ、捨てられ、孤児施設へと預けられ………


「凄いな、このwiki。俺の事知りすぎだろ。」


そして俺はAR機器を利用して網膜に投影されたwebページを閉じて、ソファから立ち上がる。


「こんなwikiが日本語であと7個…世界には有能な暇人が多いな。」


そして、キッチンに移動し、冷蔵庫を開けて1Lで税込み298円の牛乳をパックから直飲みする。


「………さてそろそろしに行くか…」


俺はベッドへと寝転がり、現行の最新機種であるサングラス型ダイブデバイスを装着して、


「ダイブ」


デフォルトで設定されたままの、意識を仮想現実へ送り込むキーワードを呟く。

耳元でデバイスの静かな駆動音と共に数秒待つと、これまで幾百幾千と経験した眠気のような、しかし眠気ではないと誰でも断定できる感覚が襲ってくる。

それに逆らうことなく、目を閉じる。


「スタート」


俺の意識はそこで一瞬シャットダウンし、再び戻ってくる。

そして、目を開けると。


北には高層ビルが立ち並ぶコンクリートジャングル。

西には現代にはもう現存していない緑あふれる樹海。

南には城下町が立ち並び、人間ではない生物が闊歩するファンタジー。

東にはどこまでも広がる宇宙空間。


俺が立っている場所である一般的な小学校の校庭サイズの円形のフィールドを中心として、四分割されるように設定された世界が現れる。

俺はSAWではないアバターとなってこの世界に降り立ち、呟く。


「今回のランダム鯖ルーレットは大分バラエティに富んでるな……」


そして即興で形成した垂直に棒を生成するスキルを発動する。


「古典的だが、」


棒は俺から向かって右、つまり方位的には北に倒れる。


「迷って時にはこれに限るな。」


俺は駆け出し、ビル街を飛び回るためにスキルを2種類創造。

作ったスキルは視界内の物質に磁力を持たせる能力と自分に磁力を持たせる能力。

能力を用いて自分を弾き飛ばし、引き寄せて縦横無尽に駆け回る。


「さあ、俺が考え付かない、見たことない能力を見せてくれ、世界。」


同じくビル街を飛び回ったり、路上を歩いたりする人々ダイバーを観察しながら、俺は呟いた。


俺は求めつづける。

最強になるためのかけらを。

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