未怪物コレクターノイマン

あいうえお

第1ページ 呪いの歩道橋

 何処かの細道、一人の青年が二足歩行の太った化け猫を追っている。


「ノイマン! そっちに化け猫が行った!」


「オデ! 逃ゲル! 逃ゲル!」


 そうして細道から街の大通りに出ようとしたその時、一人の少年が立ち塞がる。


「コレクションブック1Pページ……稲荷……!」


 手に持つ本から狐が出てくる。


「キツネ! マズイ!」


 化け猫はキツネに食われると、魂だけの状態になると、男の持つほんの中に吸い込まれていく。


「コレクションファイル10Pページ、化け猫登録完了……!」


「やったな! ノイマン!」


 青年はノイマンと肩を組もうとするとその手を払い除けられる。


「なんだよ! ノイマン!」


「てめぇアルゴ……今回なんにもしてねーだろ……」


「しょうがないじゃないか! だって妖怪捕まえんのは僕の業務じゃ無いんだからさ!」


「そんなん捕まえんのは基礎能力だ……」


「あのぉ〜……お取り込み中でしたか……?」


 今回の依頼人が、覗き込むように2人の事を見ている。手には茶菓子の入った袋を持っていた。


「いえ! 大丈夫ですよ!」


「本日は、成仏ありがとうございました……あの子、この辺で愛されていた野良猫で……こちらはささやかながらお礼です……」


 深々と頭を下げているその顔から、少し涙が零れていた。その涙を拭き、顔をあげると依頼人は去っていった。



 何処かの雑居ビルの二階に、アルゴ除霊屋と窓に書かれた事務所がある。


 そこに2人は帰ると、すぐにノイマンはさっき貰った茶菓子を食べようと袋を奪い取ろうとすると、アルゴとの引っ張り合いになった。 


「早く食わせろ……!」


「ダメだ……! ノイマン……!」


「なんで……!? この菓子は仕事をキッチリした俺のだろ……?」


「ノイマン……! 今それ食ったら……! 晩御飯食えなくなるだろ!」


 袋が破け、中の茶菓子の箱が外に出た。


「あっ……!」


 スライディングして飛び出た箱を掴もうとした時、インターホンが鳴ると、事務所の扉が開く。


「アダッ! いってて……!」


 スライディングの勢いが止まらず、壁に頭がぶつかった。


 茶菓子の箱を奪い取ると、ノイマンは勝手に開けて、茶菓子を食い始める。


「あの……? 大丈夫ですか……?」


 そう言って茶菓子を食うノイマンをチラッと見た。


(子供……)


「ダイジョウブ! ダイジョウブ! なんか依頼があってここにきたんだよね?」


 依頼人の女の子を、リビングのソファーに案内して座らせる。


「じゃあ、名前……! 僕の名前はアルゴ! 隣の子供は助手のノイマン!」


「私の名前は……三橋杏果みつはしきょうかです……」


 ソファーに座った時から青ざめた顔で周りをキョロキョロと見回している。


「……? えっと……どうしたのかな? 何か怖がってる……?」


「ここって……悪霊が来ますか……?」


「来ないけど……?」


「じゃあ……! あの窓から覗いている顔はなんなんですか……?」


 2人は後ろをむくと、黒い人型のシミがそこにはあった。


「あぁ……! これはノイマンがイタズラで付けた汚れ……怖がらせてゴメンね?」


 そういうと、何か三橋は安心した様な顔になる。


「私も……早とちりしてすいません……」


 頭を深々と下げられて、アルゴは少し戸惑ってしまった。


「いいよいいよ! 幽霊被害は、結構メンタルがやられるからね……! それじゃあ、何があったのか話してみて?」


「あの……三丁目の歩道橋の噂、知ってます?」


「……三丁目の歩道橋の噂は良く聞くよ……もしかして……そこに何かが居たの……?」


 三橋は何か図星をつかれたような顔になって顔を俯けた。


「あそこの歩道橋の少女の幽霊に睨まれて……あれから私は憑かれたんです! ずっと、その少女は私の背後にずっと居るんです!」


「……わかった……! それじゃあ今日あの歩道橋に僕らが行ってくるよ! 君はこの御札を今日一日中、肌身離さず持ってて!」


 そうして、色の違う3枚の御札を渡した。


「なんで3枚あるんですか……?」


「これはどこまで近づいて来たかを確認するための御札なんだ! 緑が少し焦げたら100m以内に、黄色が少し焦げたら10m以内、赤が焦げたら1m以内、ってな感じ!」


 御札をギュッと握り、少し不安そうな顔をする。


「大丈夫! 何かあれば僕らが行くよ!」


「……ありがとうございます……!」


 その言葉に救われて、少し目から涙が零れた三橋は、荷物をまとめると、事務所から出ていった。


 雑居ビルの外に出ると、三橋の持っている緑色の御札が、少し焦げた。


「……このシミ、どう思う……? ノイマン?」


 その人型のシミは、何か炭のようなもので書かれている。


「こんなにハッキリ出るっつー事は、少し厄介な事になりそーだ……!」



 午後17時30分頃、夕日が出る時刻、2人はあの噂が出ている歩道橋に行くが、確認する限り普通の歩道橋。下の道は車通りも多く、人の通りも多い。


「こんなとこで、幽霊なんて出んのかな……?」


「なーにやってんだ、変態!」


 そうやってアルゴは双眼鏡で歩道橋を覗いていると、ノイマンに殴られる。


「何すんだよ!」


「そんなチンケな双眼鏡如きで、ユーレイなんて見れる訳ねーだろ!」


 双眼鏡を奪うと、地面に叩きつけて破壊する。


「あーっ! 何すんだよ! もしかしたら見えたかも知れないのに!」


「へいへい、そーだなそーだな。」


「なんだよその反応!」


 双眼鏡の壊れた欠片を拾っていると、その上にノイマンが座ってくる。


「なぁ、1つ聞きたいことあるんだがいいか……?」


「まず俺はお前に降りて欲しいんだけどいいか?」


「あの歩道橋の噂ってなんだ?」


「お前! 知らないで話を受けてたのか!」


 アルゴは立ち上がると、ノイマンは仰向けに倒れてしまう。


「歩道橋の噂ってのは、この辺に都市伝説で、10年前に起きた交通事故で死んだ女の子が、誰かを探し回るために悪霊になったって噂なんだ!」


 アルゴは歩道橋を見る。


「この歩道橋は……その交通事故が起きてから建てられたんだ……」


「なるほど……ンで、その幽霊は誰を探してんだ?」


「それは都市伝説だから知らないけど……」


「わかった……じゃあお前はその交通事故の詳細を調べてくれ……」


「ちょっとまってよ! お前はどーすんだよ!」


「俺はやらなきゃいけねーことがあんだよ……」


 仰向けで倒れている状態から立ち上がると、ノイマンは事務所に戻っていく。


「……ちゃんと依頼人がピンチになったら来いよ!」


「わーってるよ!」


(その後、僕は図書館に行って、当時の新聞から都市伝説となった事件の詳細を調べていた。)


 事件詳細

 2015年8月23日日曜日午前10時45分頃

 事故当日市民プールに行こうとしていた当時7歳の女の子、福本美晴ふくもとみはるが、友達を庇う形で居眠り運転のトラックに跳ねられ全身強打による即死という物だった。


(都市伝説になるには十分な事故……だけど……そんな思いだけじゃ、あの事務所の結界を破れるだけの力を得るとは思えない……!)


「……まさか!」


 そうやって、考えていると1つだけ何かが頭の中に思い浮かぶ。


 そうして、事務所に走って行くと、机の上に住所が書かれた髪が置かれていた。



(御札はまだ、緑以外一切焦げてない……)


 あれから3時間、家に帰ってきても、一切緑以外が燃える事がない御札をみて安心と少し恐怖を感じていた。


 部屋の窓に何かぶつかった音が聞こえ、外を見るとノイマンが居たため、急い御札を持って外に出る。


「よぉ……! 札は焦げたか……?」


「あの……! なんで私の家が……!?」


「お前に説明しても信じねーからいいんだよ! ンで? 札はどーなってる?」


 御札を見せると、黄色の御札も焦げ始めていた。


「なんで……? さっきまで緑だけだったのに……!?」


「ククッ! よーやく来たみたいだな……!」


 そうしてノイマンの方向を向くと走ってくるアルゴがいた。


「……もしかして……あの人……?」


「んな訳ねーだろ! 札見ろ! 札!」


 御札を見ると、どんどん赤の札も焦げていく。


 視線のする方向を見ると、白いムカデのような身体に少女の顔がくっ付いていた。


! そいつ連れて逃げろ!」


「……! 行くよ! 三橋さん!」


 三橋の手を引き、その場から逃げていく。 


 あの化け物を場所を中心に、結界が展開され、あの事故現場と同じ場所がそこには写った。


……コレクションブック1P《ページ》! 稲荷!」


 狐がその本から出てくるが、すぐに振り払われて倒されてしまう。


「……まじか……!」


 いきなりクラクションがなり、横を向くと白いトラックがノイマンに向かってくる。


「アブネーな、お前はよ……!」



 三橋とアルゴの2人は、走って繁華街の方まで来ていた。


「……あのっ! どこまで行くんですか!?」


「多分! こっから行った方が近道だ!」


 向かった先は、あの交通事故が起きたあの場所だった。


「君……! あの交通事故と……! いや! あの都市伝説の子と関係あるんだろっ……!」


 そう言うと、三橋は膝から崩れ落ちると、顔を塞ぎ泣いていた。


「私……! あの時からずっと……! ずっと……! 後悔してたんです! 私のせいでって! それであの場所がいつの間にか心霊スポットになって……! ずっと……! 謝りたかった!」



 事故当日


「早く早く! プール埋まっちゃうよ!」


「待ってよ! 美晴ちゃん!」


 そう言って三橋は、青信号を走る美晴の背中を追っていると、居眠り運転している白いトラックが、そこに向かってきていた。


 横を向くと、もうそのトラックは目前まで近づいていたが、もう間に合わないしもう戻れない、そんな時に、目の前に居た美晴が手を引っ張り、入れ替わるように、美晴がトラックの前に居た。


「美晴ちゃん!」


 そのままトラックにはね飛ばられ、手足が曲がった状態だった。


 トラックは壁に勢いよく大きな音を出してぶつかる事で止まった。


 そのまま周りの家から大人達が出てきて、その現場を通報した。



 泣いている三橋に向かって、アルゴは手を差し伸ばす。


「まだ間に合う……! あの子の魂は! まだ成仏していない! まだ! その気持ちを伝えられるんだ!」


 三橋はその手を握り、あの場所へ戻って行くと、目の前には巨大な黒い壁があった。


「……覚悟はいい? 行くよ!」


 そう言ってその壁に触れて中に入っていくとノイマンが傷だらけになりながらも、戦っていた。


、遅かったな……!」


「こっちは準備に時間がかかるんだ……」


 ノイマンはそれを聞いて向かって行くが、横から来るトラックにすぐ跳ね飛ばされてしまった。


「……ノイマンさん!」


「コンナノ! 二度トヤラナイカラナ!」


 上空に吹っ飛ばされたノイマンの姿は、どんどん変わっていき、太った化け猫が代わりに出てきた。



 アルゴと別れて、事務所に戻るとコレクションブックを出す。


 「コレクションブック10Pページ化け猫」


「ナンダ! オマエ!」


 化け猫は警戒して毛が逆立っている。


「お前……街の猫だったんだろ……? ならこいつの家わかるか?」


 三橋の顔が写っている写真を見せると嬉しそうな顔になる


「ソイツハ、オレニヨク餌ヲ与エテクレタ、覚エテル、覚エテル」


「じゃあここに此奴の住所書いて欲しいのと、俺とこの本に化けてこの本の力を引き出せ」


「オマエ……! ナニ言ッテンダ……?」


「化け猫だろ? んな事もできねーんじゃ、化け猫とはいえねーなぁ……」


 そう言うと化け猫は机を叩き、机の上にあった資料が宙を舞う。


「……ワカッタ、ヤッテヤル……!」



「……いつも……! ヒヤッとする事しやがって! ノイマン!」


 あの美晴の背後には、ノイマンがそこにはいた。


「コレクションブック2Pページ大蛇……!」


 本からツボが出てくると、そこから雑居ビルと同じくらいの大蛇が出て来て、呪いの姿になった美晴を丸呑みした。


 しばらくすると、あの本の中に、蛇と共にもうひとつの影が本の中に入っていく。


「コレクションブック11Pページ大百足、登録完了……!」


 ただそんな本の中に入らなかった、1つのしろい何かが、三橋の方に向かってくる。


 三橋は恐る恐る触ると、美晴の記憶が頭の中に入ってくる。それは美晴の魂だった。そのままその魂を抱きしめる。


「……ずっと、謝りたくて……あの日からずっと……! ……ごめんね……! ごめんね……! あの時! 私が……!」


「いいの……杏果ちゃんがね? 生きてくれればそれでいいの……」


 それをアルゴは見ていると、ノイマンに服を引っ張られる。


「ここからはお前の仕事だ、アルゴ……まさか、情が湧いたとか言わねーよな……」 


「わかってる……」


 三橋の方へ向かっていき、その魂に触れる。


「ごめんね……」


 その顔は少し泣きそうな顔だった。


「……何? するんですか?」


「身の三悪禊ぎ祓いし魂よ、その魂を御仏に……」


 そう言うと、その魂はボロボロと崩れていき、形がどんどんなくなっていく。結界の壁もどんどん壊れていき、現実に戻っていく。


「なんで……!? なんで……!?」


「これは……しょうがない事なんだ……」


 拳をギュッと握ると、三橋の方を見る。


「でも……! もう何も害は無いんでしょ! だったら……!」


「それをしちまったら、おめーは、これからアイツのせいで死ぬ奴らを見殺しにしたんだぞ。アイツが居たとして、これから何人、何十人、何百人と死んでいく……それを見殺しにできる覚悟があるんだったら、戻してやってもいい……」


「あの子に関する都市伝説がある限り……あの子はあの姿になり続けるんだ……それにこれ以上放置したら、どんどん強くなって人をいつか殺してしまう。」


「……」


 アルゴは下を俯く三橋の肩を叩く。


「ただ……言うのは、思い出に残る限り、ずっと生き続ける。君の中でも……あの子の中でも……」


「……ありがとうございました……!」


 顔をあげ立ち上がると、お辞儀をして家に帰って行った。


 ただ三橋はお代を払っていない事に気がついて、振り返るがその場に2人はいなかった。



 2人は事務所に帰って、アルゴが作ったハンバーグを食べる。


「ごちそーさまーでした。」


 席を立とうとすると、アルゴに呼び止められる。


「ノイマン……まだ……ピーマンが残ってるけど……?」


 その声からして、振り返らなくてもわかるくらいに怒っている。


「あー……明日になったら食べる」


「いっつもそう言って食べないじゃないか! 今日こそ食ってもらう!」


「嫌だー!!!!」


 散らかっている紙に滑ってアルゴは転んでしまうがそれでアルゴの何かが切れた。


「待てー!!!!!」


「ホントに嫌だー!!!!!」

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