第1話:少年殺人鬼はお手伝いさん

「言ってねぇ……」


「ん?どうしたんだい、ハット助手」


そうだ俺は断じて言ってない


「俺は!助手になるなんて言ってない!」


「水たまりから引き上げてもらうためにお前を利用しただけだ!」


「またまたぁー恥ずかしがり屋さんなんだから私の助手は」


「お前の助手じゃねぇーー!」


俺は助手なんてまっぴらごめんだね

稼げねぇし

端的に言ったら探偵ディアの奴隷だろ?



───それに……

「ナイフを隠し持ってるような奴を信用なんてできるか」


「っ!……わかってたの?」

彼女は動揺した

まるでバレない欺瞞がバレたように動揺した

それを隠すかのように息を整え数秒たつと

彼女は豪胆とした態度で彼を見つめなおした


そうだ、こいつは……この名探偵は

俺を探し出し、俺に会ったときからナイフを隠し持っていた


「大方、護身用に持ってきたってとこだろ?」


甘いんだよ隠し方が

ガキの頃から何年も殺しをやってきた俺に通用するわけないだろ

俺には……殺しの才能だけはあるからな


「とにかく、助手はやらねぇ」


「……ナイフ隠し持ってたのは悪かったよ。けどね?あんな状況いつでも刺し殺せたと思うんだ、特に君が全てを諦めた表情をした時とか……ね?」


けれど私はそうしなかった、と彼女は続ける


「それに!水たまりから引き上げた恩もあるでしょ!だからさ!助手やってよぉーお願いー」


「……っ!」


こいつ……俺の特性知ってやがる


俺は受けた恩を盾にされるとなんでも従ってしまう。

これは昔に姉貴からこっぴどく教育されたせいで身についてしまった

嫌な特性だ……

しかし俺と姉貴しかこのことを知ってる奴はいないはずなんだがな

まぁそこは名探偵の推理力とやらであろう。


「ねぇーえ!おねがいだよぉー」

……それか、ただ間抜けにお願いしてるだけかの二択だな。


「助手は嫌だ」


こんなやつの奴隷助手になるなんて絶対に嫌だっ!


「なんでっ!助けてあげたじゃん!」


「そんなしょうもない恩で永久奴隷契約結ぼうとしてんじゃねぇー!」


「なってよなってよなってよぉ!」


「嫌だ嫌だ嫌だぁ!」


そのまま互いに譲らぬ、反目状態が続く



ぜぇぜぇ……

こんな無意味なやり取りを小一時間も続けてたら流石に疲れちまった

こんなに駄々こねて助手やりたくないやりたくないって

……まるでガキみたいだな俺


「もうっ!ほんと君は往生際が悪いなぁー。子供だからって容赦しないよー?」


「ふんっ!少年殺人鬼を子供扱いしてんじゃねーよ」


「ハット助手……自分で殺人鬼って言ってるじゃん」


「……」


「ふふふ……ほんと君は頭いいのかバカなのかわからないや。けどやっぱり少年なんだなって思うよ」


「馬鹿にすんじゃねぇよ……」


「やっぱりさ、君は年相応の子供ハットだよ。お姉さんの私が直々に認めてあげる」


びっくりした

急に大人の雰囲気を纏うから

鷹揚で婀娜っぽい

だけどなぜだが少し剣呑を感じた


……って待てよ

お姉さん?

この矮躯のちんちくりんなガキが?

冗談だろ?


「あんた……年いくつだ」



「んっもう!女の子に年齢聞くのはタブーだぞっ?」


「8才とか……?」


「はぁ!?んなわけないじゃん!17歳だし!」


こいつが……?嘘だろ?

まぁ確かに言われてみれば言動も……いや、ガキだな。

こいつの言動思い返してみても頭おかしいことかガキみたいなことしか言ってねぇ。

急にさっき言い争ってたのが馬鹿らしく思えてきた。


「……お前の探偵ごっこの手伝いならやってやる。あくまで手伝いだからな」


「えっ!?急に?お姉さんに惚れちゃった?……って探偵ごっこじゃないって!」


「お前があまりにもガキっぽくて言い争ってんのが馬鹿馬鹿しくなったんだよ」


「なにおう!どこがだ!君だって子供のくせに!」


「とにかく、手伝いならしてやる。受けた恩は返さなきゃならないからな」


「手伝いでも助手って呼んでもいいよね?ハット助手!」


「好きにしろ」


彼女はやったーといいながらはしゃいでいる

そういうところが子供っぽいって言ってんだよ……


「それじゃあ行こうか!」


「どこにだよ、事件現場とかか?」


「いんや!私の探偵事務所にだよ!」


彼女に先導されるままついていくと


亭々たるマンションがそびえていた

駅から徒歩10分いわゆる駅近ってやつで

外からでもわかるエントランスには受付人がたっている

パッと見ても40階はあるだろう。


「事務所って……ここか?」


「私の事務所はマンションの中にあるんだよ、助手」


「そんな場所にあって依頼しに来る人いんのか?」


「私の依頼客は特別な人が多いのだよ、ハット助手」


だからこそ、セキュリティが高く場所もわかりづらいこの場所が最適解なんだと


この名探偵はセレブな客専用の探偵かなんかか?

にしても17歳つったか?この年齢でここに住んでるとかどれだけ稼いでんだか


ん……?そもそもこいつは一人暮らしなのか?

よく考えれば17歳で探偵って……

つくづくこいつってやつが分からねぇ。


「セレブの客でも相手にしてんのか?」


「ん?違うよ」


「じゃあなんだって言うんだよ」


まぁ助手には教えてやってもいいかと

彼女が独り言のように呟き、告げる


「君って殺し屋だから、この街を牛耳ってる3っつのマフィアぐらい知ってるでしょ?」


マフィア

この街は三つ巴のマフィアによって成り立っている

そいつらは三つともとんでもない勢力を持ち

警察だってうかつに手を出せない

俺だってあいつらの縄張りで殺しなんてできないし、したこともない。

それにマフィアは半端なチンピラ組織を潰してまわってくれるし

警察が手を出せないグレーゾーンにも平気で土足で踏み込んでくるから

治安維持の役割も奴らは担っている。

そのおかげか民間人からある程度の信頼を得ている。

警察より信頼できるからと


それあってかこの街はマフィアの街と呼ばれている


「確か……ファミリーネームがアドベルティってとことロコニーニョ、それと……」


「助手、あまり迂闊に名前を出すのはいけないよ」

彼女の冷徹な眼差しで顔を射抜かれ

少年は少したじろぐ


「多少迂闊だったかもしれないが名前出したところで突っかかって来るのは下っ端程度、俺にかかれば楽勝よ。それでそいつらがなんだって?」


「そこの幹部たちの探偵、つまりマフィアの探偵が私なのだよハット助手」


「マフィアの探偵だって?」


「そそ、三つ巴状態のマフィアが直接動き出したらやばいからね。私が調査を受け持ってるのだよ」

あっ!勿論普通の依頼だって受けることはあるよ?と得意顔で告げる彼女


どういうことだ?こいつ……会ったときから只者じゃないと思ってたけど

ここまでとは

それの助手が俺だって?

報復されたらどうすんだよ、まったく


「そんな危ない名探偵様の助手が俺だって?とんでもないことに巻き込んでくれるね」


「あっ!ちなみにね、君を探し出したのも最近調子乗ってるガキを調査して来いって依頼だったんだよ?」


「なるほどな、どおりで探偵が俺みたいな殺人鬼に突っかかってくるわけだ」


「けど勘違いしないでほしいな、君の情報を聞いた時から君は助手にしようと思ってたよ?」


「……嘘だ」


「んもう!嘘じゃないよ、私の大切な助手だよ。君は」


「助手じゃなくて手伝いな……体のいいこと言って勝手に助手にしてんじゃねぇ」


「てへっ、ばれちったか、はいはいお手伝いさんね!絶対助手にしてやるんだからね」


そうやって舌を出して笑う探偵と

頬を赤らめてそっぽを向く少年殺人鬼


「さっさといくぞ……案内しろ」


「はーい、事務所は30階の301号室ね……って顔赤いね。もしかして照れてる?」


「るっせぇ、行くぞ」

足早にその場を離れる


「あっ!待ってよハット助手ぅ速いよぉ」


エレベータに乗り30階に行く

どうやら301号室は一番端のようだ

同じ階の部屋を一個また一個と通っていく


───異臭がする

ハットは30階についたときから気づいていた

なぜならこの匂いは少年殺人鬼がもっとも嗅いできた匂いなのだから

奥に進むたびにその異臭は

より血生臭く

より鮮明に姿を変えていく

301号室の手前

場所は302号室


殺人鬼と探偵は同時にその場で

ピタッ

っと足を止めた


「助手……」


「あぁ」


「「これは……血の匂いだ」」









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