悪魔との契約――
本来なら恐ろしく、重苦しいはずの場面なのに、この物語は不思議なほどあたたかい。
語り手の少女は、自分の命の価値をきちんと理解している。
だからこそ交渉は強気で、冗談めいていて、どこか可笑しい。
世界平和、みんなの幸せ――そんな大きな願いを軽口のように並べながら、最後に差し出されるのは、あまりにも個人的で、ささやかな願い。
「うちの猫に、私の寿命を分けてほしい」
この一言で、物語は一気に現実の温度を帯びる。
誰かのために命を差し出す覚悟ではなく、
「一緒に過ごしたい時間」を願う気持ちが、命の価値を静かに照らす。
派手な展開も説明もない。
けれど読み終えたあと、
「命って、こういう形でも差し出せるんだ」と思わされる。
短編だからこそ際立つ、優しくて、少し切ない交渉の物語。