『赤ノロシ ~信号無視した少女に降りかかる連鎖する不幸と呪いのバトン~』
トモさん
第1話:深夜0時の検証
うちの高校、私立桜ヶ丘高校には、オカルト好きの陰キャが二人と、それを心配する常識人という、なんともバランスの悪い三人組がいる。
もちろん、オカルト好きの陰キャというのは、私、浅野ゆみと、相棒の三浦梓(あずさ)のことだ。そして、常識人は幼馴染の藤沢健太。
今夜、私たちはそのアンバランスな関係そのままに、ある都市伝説を検証しようとしていた。
深夜0時。人気のない、少し湿った空気の交差点。
「ゆみ、本当にやるの?」
健太が、いつものように不安を滲ませた声で言った。健太は理性的で、こういう非科学的な話が大嫌いなのだ。今日の検証も、彼にとっては迷惑でしかない。
「やるよ。だって、これは『赤ノロシ』だよ? 超有名なのに、誰も証明できてないんだよ?」
私は興奮気味に言った。
「赤ノロシ」――それは、先日梓が見つけてきた、裏ネットのオカルト掲示板『常闇(とこやみ)の井戸』に投稿されていた都市伝説の名前だ。
内容は至ってシンプル。
深夜、誰も見ていない交差点で故意に赤信号を無視して進むと、その直後から予測不能な不幸が連鎖的に降りかかる。
信号の色が「赤」なのが、まるで敵に「ノロシ」(戦いの合図)を上げているみたいだから、赤ノロシ。
「ゆみ、もう一度確認。規則通りにね」
隣にいる梓が、ポケットから折りたたまれたメモを取り出した。梓は大人しいけど、一度探求心に火がつくと止まらない。彼女がいなかったら、この検証計画は実現しなかっただろう。
「一つ、深夜0時から1時の間に行うこと」 「二つ、周囲に人がいないことを確認すること」 「三つ、故意に赤信号を無視すること」 「四つ、証拠として動画を撮ること」
梓が読み上げるたび、健太は深くため息をつく。
「ゆみ。もし本当に呪いがあるとして、お前が何かあったらどうするんだよ? 自転車なんだろ? 車に轢かれたらどうすんだ」
「大丈夫だって! この交差点、0時過ぎたら車なんて滅多に通らないんだから」
実際、目の前の信号は青から黄色、そして赤に変わったが、街路灯の明かりの下、私たちの自転車以外、何も存在しなかった。風が、湿ったアスファルトの匂いを運んでくるだけだ。
健太は頑なに顔を顰めていたが、私と梓の熱意に押され、最後は諦めたように肩を落とした。彼はスマートフォンを手に持ち、検証の瞬間を撮影する役を買って出てくれた。心配性な彼なりの譲歩だ。
「よし、行くよ」
私は自転車に跨った。鼓動が速い。怖いというより、未知のものに触れる高揚感でいっぱいだった。
真っ赤に光る信号機。健太がスマートフォンの録画ボタンを押すのが見えた。
「準備はいい?」
「ああ、いつでも」
私は強くペダルを踏み込んだ。
赤信号。
その真っ赤な光の帯を、私はためらいなく横切った。
一瞬、視界の隅で、遠い街路灯の下の影が、何か動いたような気がした。
だが、何も起こらない。
何事もなく交差点を通り過ぎ、私は自転車を止めた。
「どう? 何かあった?」私は息を切らせて振り返った。
健太は録画を停止し、拍子抜けした顔で言った。
「……何もねえよ。なんだよ、ガセじゃんか」
梓も安心したように笑った。
「よかった、ゆみ。やっぱりただの噂だったね」
そうだ、ガセだ。
私も安心した。期待と恐怖が入り混じっていたけれど、ガセでよかった。
その時、健太が突然「あ」と声を上げた。
「どうしたの?」と聞くと、彼はスマートフォンを見て、顔を青ざめさせた。
「やばい、ゆみ。今、動画撮ってる途中で、突然スマホの画面が真っ暗になった。電源が落ちたみたいなんだ」
「え、健太のスマホ、まだ新しいのに?」
「ああ。こんなこと初めてだ……。しかも、電源ボタンを押しても、うんともすんとも言わない」
梓が彼のスマホを覗き込む。
「バッテリーは満タンだったんでしょ?」
「満タンだった。完全に動かなくなった」
私の背筋に、冷たいものが走った。
信号無視の直後。すぐに起こった、予測不能な出来事。
まさか、これが……?
――これが、連鎖の始まりだったことを、私たちはこの時、まだ知らなかった。
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