ギルドの受付嬢に恋をしてしまい先にすすめません

かげる

1.ボクはショタではありません

 異世界に転生したボクはスキル【メロメロ】を獲得したんだけど、ボクと目が合った異性に好意を寄せるというものだった。

 

「はあ」


 このスキルを授けた神様はどこまで、ハーレム展開を期待してるんだか。

 

「……しかし、ボクは人の目がこわいからなあ」


 そんな展開を期待されても、困る。

 目が死んでるし。主人公属性なんて有り得ない。


 とりあえず、【始まりの町】に入って、情報収集を行うことにしよう。


 酒場の扉を開けたら、人の目を避けるように隅の部屋に座り、なけなしのお金でウェイターに酒を頼む。


「あのう。言いづらいのですが。すみませんが、お子様にお酒を提供するわけにはいきませんので……」

「……そうか、ボクは子供に見えるのか」


 仕方がない。他を当たろう。前世では、晩酌を日課にしていたから少し悲しいな。

 顔を伏せて、その場を去る。


 未だに、異世界の人の顔を見ていない。自分がどう思われているかが気になり、緊張で萎縮してしまう。前世でも、人の顔と名前が全く覚えられない人生だった。


 だからどんなイタズラか神様から授かった【メロメロ】というスキルは、意味のないものになる、筈だった。


 この町のギルドの受付嬢に出会うまでは。




 人目を気にしながらぶらぶらと、メインストリートを歩いていると広間に突き当たり、大きな集会所が見えた。

 その扉をくぐると、さまざまな職業の冒険者達がたむろしていた。


「……こういう場所、苦手」


 そう思いながらも、受付をしているところの近くまで行った。


「たぶん、ここで、クエストを受注したり、職業を選択したりするんだろう」


 早く、職業選択を済ましてしまいたい。

 人との接触は最低限でいい。人がこわい。幻滅されて傷つくのがこわい。


「いらっしゃいませ。こちらギルド集会所の受付嬢をしていまるリリィと申します。初めましての方ですか?」

「……ぁ、はい」

 受付嬢という彼女の顔から下を見ている。

 たまたま、豊満な胸部を視界がうまる。

「……て。あの、貴方、年齢はいくつ?」

「わかりません」


 転生したから自分が子供になっているなんて、言えない。何歳かもわからない。


 しばらく、ボクを見つめる視線を感じながら身震いをしていた。前世でもそうだった。他者の視線が悪意のあるものかどうかが気になって仕方がない。


「え、えっとお」

 

 なぜか恥ずかしくなって赤面しながら、もじもじしてしまう。

 

「うふふ。かわいい坊やね。食べちゃいたい」


 いま、なにか聞こえた気がしたが気のせいだろうか。

 受付嬢の口から発せられたような……。


「す、すみません! 子供だと職業選択、できませんよね……」


 受付嬢リリィの顔を見ずに、ボクはその場から逃げだしていた。


「あ。待って。その職業は可能よ」


 そう聞こえたが、既に外に出ていた。

 胸が早鐘を打つように高鳴る。

 やっぱり、異世界に転生しても変わらない。


 人に顔をまじまじと見られたら緊張してしまう。

 輪郭をぼんやりとした雰囲気だけど、受付嬢のお姉さんが、美人だとわかっていたからだろう。


 外は小雨が降り出していた。

 石段に直に座り、体を抱きしめる。


「う、うぅ」


 寒くはない。

 体がほてって震えている。

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2025年12月23日 20:08
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