結婚指環

知ってる男のことです。

元々女癖が悪くて、奥さんも相当腹が立ってたと思うんですけど。

奥さんが病気で寝込んでからは特に酷くなって、何日も帰宅しなかったり自宅に別の女を呼び込んだり。

そんなのしてるうち、奥さんの病状が悪化して医者からも「せめて見舞いを」って連絡があったとか。

男は「死ぬなり生きるなり医者がどうにかすればいいんだ。おれにゃ関係ない」とか嘯いてましたよ。

数ヶ月後に奥さんお亡くなりになったんですけど、葬儀の手順一切奥さんの実家が仕切って。

本来いるべき夫は顔も出さない。

当日も愛人と遠くに旅行してたとか。

で、ここからなんですけど。

晴れて独り身になった男は結婚指環も売ってしまおうと考えた。

んですが、これがどうにも抜けてくれない。

あちこちから聴いた方法全部試したとか。

仕方ないってんでそのままにしてたら、左手薬指が壊死しだしてたと。

それも根元じゃなく先っぽから。

本人指一本でも惜しいんでしょうね、何度も切除手術受けて随分使ったらしいです。

「指環のせいか」と思った男が医師に検査頼んだら、理屈は分からんけど指環と薬指が癒着してるって言われた。

そんなことがとか思ったんだけど厄介払いのつもりで薬指根元から切除してもらったんですって。

それでも体調がすぐれないんで医師に診せたら「ウィルス性の感染症」って診断されてICU的な病室に強制収容、24時間モニターされる生活にね。

難儀なのは医者ですよ。

採取した肉片から抽出したウィルスをあちこちの施設で調べてもらっても「過去に該当例なし」ばっかり。

本人が瘦せ衰えてる時にマイク越しに会話して、自分もここまで聴いたんですけどね。

「何でおれがこんな目に遭うんだ、悪いことなんかしてないのに」とか言ってるんで、帰ることにしました。

翌日には死んだらしいですけど、愛人たちがわざわざ顔を出すわけもなく、年老いた両親だけで弔ったって聞いてます。

「誓いの印」はね…。