第2話
私は女性だ。
だから、本来のターゲット層である男性リスナーのコミュニティに、どうしても馴染めない。
コメント欄のノリ。
イベント後に流れる感想ツイート。
オフラインでの交流。
どれも、私には少し遠い世界だった。
イベントにも行けていない。
私の推し活は、スパチャとグッズ購入とコメントだけ。
画面のこちら側で完結する、静かな応援。
それでも――
宵坂なゆは、私のことを覚えてくれている。
名前を呼んでくれる。
Twitterでは、たまにリプライもくれる。
しかも、割と頻度は高めだ。
なゆは、どうやら私のことを
「友達」だと思って接してくれているらしい。
それが、嬉しい。
同時に、胸の奥が少しだけ痛む。
分かっている。
それは、相手が“同性”だからだ。
認知されている。
それ自体は、確かに嬉しい。
でも――
私には、ずっと引っかかっていることがあった。
なゆは、
本来のターゲットである男性リスナーに向けては、
恋愛感情を彷彿とさせるような営業をする。
甘い呼びかけ。
距離の近い言葉。
「彼氏」「恋人」を想起させる空気。
けれど、
私には、それを一度も向けてこない。
当然だ。
だって、私は女性なのだから。
女性に恋愛営業をしたって、
ニーズに合わない。
分かっている。
理屈では、全部分かっている。
なゆが出すシチュエーションボイスは、
いつも男性向けだ。
「〇〇くん、今日もお疲れさま」
その“〇〇くん”を、聞くたびに外の世界に急に放り出されたような感覚に陥る。
胸の奥が、ちくりと痛む。
嫉妬してしまう。
私は、推したらいけないのだろうか。
私は、推しを好きになってはいけないのだろうか。
女性だから。
ターゲットじゃないから。
需要がないから。
そんな理由で、
この感情は間違いだと、
切り捨てられてしまうのだろうか。
答えが出ないまま、
私は今日も感情を押し殺す。
明るく。
空気を読んで。
“ちょうどいい距離感のファン”として。
「今日も配信ありがとう!」
そうコメントを打ちながら、
私はまた一つ、
言葉にできなかった気持ちを
胸の奥に沈めるのだった。
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