第1話 √ BAD END
母から、おばあちゃんが亡くなったという連絡を受けたのは、正午過ぎだった。悲しさをあまり感じなかったのは、しばらく離れて暮らしていたせいだろうか。祖母の死の実感がないまま、わたしは実家に帰る段取りを付けようとしていた。
20◼️◼️年、3月。わたしは、初めて2000年代に向かった。いわゆるタイムリープである。わたしのいた未来での時間旅行とは、意識だけ過去に送るタイプのものが主流で、過去を追体験することができる。
意識を送ると言ってもいくつか制約がある。
①過去の自分の意識にだけは介入ができるが、未来を変えることはできない。ある程度の抑止力が働くため、改変は調和される。
②親族関係であれば、潜在意識に潜り込める場合がある。わたしは、祖母の中に時間旅行するつもりだ。
③時間旅行による脳への情報フィードバックが過多になる危険性が高いため、目覚めた際に夢を見ていた感覚になるよう一部の情報は処理される。
が、実際には、改変は起きているはずである。わたしたちの存在する世界軸は変わらないため、誰も観測できないというのがわたしの見立だ。もしそうでなければ、このタイムマシンは、膨大な情報の海に浮かぶ仮想世界にアクセスしているだけの擬似的ループ装置になりかねない。
2000年台は、わたしの祖母が暮らす時代だ。祖母の人生は、
私的にはバッドエンドで終わったと考えている。祖母である高松真央は、教室の片端にいる全く目立たないタイプの少女だったらしい。表舞台に立たずに客席から演目を眺めるだけの女の子。
それは、静かな傍観者だ。
やがて祖父と結婚し、母が生まれる。祖母は、わたしが幼い頃にいつも不思議な話をしてきた。目立たないわたしをいつも励ましてくれる人が居て、わたしはいつも救われた。あの頃に戻れるなら、おじいちゃんにまた会いたいわ。
おじいちゃんのことは正直わからない。わたしが物心ついた時には、亡くなっていたから。
今回の時間旅行は、2人のことを知ることが目的だ。
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