第2話
――……また……声が聞こえる……
――けど……この声……いつもと違う……
――……安心する……温かい声……
――この声を……知ってる気がする……
「――……ソウ……ッ!」
――……あぁ……よかった……
「――……ウタッ、……ソ……タ……ッ!」
――……■■■……んな……を……願…………
「――ソウタッ!?」
フワフワと
「ソウタ! 落ちてます! このままでは……ッ!」
滅多に聞く事のないウシオの焦った声を耳にした瞬間ソウタは両手で頬をバチンッと叩き、目覚めたばかりの
そう――ソウタ達の乗ったコンテナは今まさに、雲よりも高い空の中を自由落下している真っ最中であった。
ソウタはすぐさまウシオに三人を糸で結ぶよう指示を出し、全員が繋がっている事を確認すると同時に緊急脱出用のレバーへと手を掛けた。
「つかまってッ!!」
次の瞬間――ボンッ!? という炸裂音と共にコンテナから弾き出されたソウタはウシオに抱えられながらもすかさず袖の中から一枚の小さな紙を取り出し、それを軽く握りしめたかと思うと思い切り落下方向目掛けて投げ飛ばした。
放たれた小さな紙はフッと瞬時に白くモチモチとした肉体を
ソウタの力によって生み出された巨大な鳥人形はその柔らかな背中でソウタ達を優しく受け止めるとすぐさまクルリと身を
速度を合わせ
やがて速度を緩めた鳥人形の背中の上でソウタ達はもみくちゃになりながらも落ち着きを取り戻し、互いの無事を確認し合っていた。
互いを結んでいた糸を解き状況を確認すべく起き上がって周囲に目を向けてみると、瞳に映る一面の青に囲まれた雄大な絶景に二人は大きく目を見開き息を呑んだ。
果てまで続く海と空、手前には山に囲まれた陸地が見え眼下には青々とした広大な森が、そして背後には緩やかな弧を描いた茶色い壁が左右どこまでも延々と続いていた。
ドタバタとした想定外の状況にしばし呆然とし思考が追いついていなかったソウタであったがふと、余りの静けさに出発前あれだけ
「ウシオっ、あいつは?」
ソウタがウシオの方へ目を向けると、未だ意識を失ったままのその男がウシオの膝に頭を乗せていた。
「脈も呼吸もありますがまだ目を覚ます気配はありませんね……大丈夫でしょうか?」
ウシオが心配そうにソウタへ問い掛けると、ソウタは眠ったままの秘書をジッと見つめ確信めいた答えを口にした。
「……大丈夫、正常だ。しばらくすれば目を覚ますはず……様子を見よう」
そう言って秘書の男をウシオに任せるとソウタは立ち上がって足元の鳥人形に目を落とし、じっと見つめながら一人胸の内に浮かんだ疑問に思考を落とした。
「(……ここまで大きなものを出すつもりはなかったのに……気が動転して加減を間違えたか……)」
ソウタは自分の手を見つめながら一人反省すると改めて、周囲の景色と状況に意識を向けた。
「(眼下には森、その周りを取り囲むように連なった山、山の向こうは果てまで海、他の陸地は見えない……それと……)」
心の中で状況を整理しながらソウタはおもむろに後ろを振り返った。
右を見ても左を見ても終わりの見えない謎の茶色い壁……その表面は決して滑らかとは言えず、所々ボコボコと不規則に隆起していた。
石のようにも見えないそびえ立つ壁を前にゆっくりとその視線を上へ上へと見上げていくと……やがて信じがたい光景が視界に映りソウタは目を見開いて驚きの声を上げた。
「あれは……」
ソウタの目に飛び込んできたもの……それはあの『ナニカ』と同じ、満点に煌めく星空であった。
しかもその規模は地球で見た『ナニカ』の比ではなく、頭上に広がる空のほぼ半分が星空で覆われてしまっていた。
巨大な壁は上に行くにつれて徐々に枝分かれするような広がりを見せ、星々を湛える漆黒へと伸びていっている。
ソウタはそのまま星空を見上げながら少しずつ視線を壁と反対方向へと進めていくと、やがて星空は唐突に途切れ白い雲の流れる青空へと切り替わっていた。
「(向こうには青空がある……夜というわけじゃない)」
ソウタの見つめる星空と青空の境界線はややギザギザとしており、またゆったりとした曲線を描きながら壁に沿うように
信じがたい光景ではあったがソウタは『ナニカ』の形状を思い返しながら眼前の事実を繋ぎ合わせ一つの仮説を立てると、まるで自分自身に問いただすように小さく呟いた。
「幹……枝……若葉……まさか…………本当に植物なのか……?」
ゆっくりと下降を続けやがて地上が近付いてくると、茶色い壁から連なるウネウネボコボコと
「誰がどうみても根っこだ……もはや疑う余地すらないのか……」
ソウタは未だ信じがたいと微妙な表情を見せていたが目に映る光景が事実をありありと突き付けてきていた。
巨大が過ぎる樹と森の間にコンテナをそっと降ろし鳥人形を紙切れへと戻して袖にしまうと、ソウタは悠然と佇むその堂々たる姿を見上げたままただただ呆れるばかりであった。
「植物がここまで大きくなれるものなのか……」
眼前に立ち尽くす幹はもはや壁のように左右どこまでも果てしなく続いておりその太さを推し量る事すら出来ず、隆起した根の一本すらもその全容は視界に収まりきらないほどであった。
「本部塔も結構大きいと思ってたけど……比じゃないな……」
ソウタの口からはもう呆れ果てたため息しか出てこず、小さなソウタとの対比はもはや蟻から見た象……否、ミジンコから見たクジラのようであった。
ソウタが眼前の現実に呆れ果てている一方、傍らではウシオがコンテナに積み込まれていた機器の動作確認を行っていた。未だ意識の戻らない秘書はと言うと下級人形を枕にしてコンテナの側に寝かされている。
幸い積み込まれていた物資に大事はなく、分解されて積まれていた機器の一つを組み立て電源を入れてみるとソウタ達の耳に思わぬ声が聞こえてきた。
「――……ぁ……ん、ん……あーあー、もしもーし」
突然届いたその声にソウタはすぐさまウシオの元へ駆け寄ると、ウシオの持つ環境測定用機器の小さな画面にはなんとレベッカの姿が映し出されていた。
「レベッ……ベッキー! どうやって……繋がってるんですか?」
「――おーやったー! ダメ元でもやってみるもんだー!」
レベッカは小さな画面の中で嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねるとドヤ顔でピースをしてみせた。
「――いやー、お姉さんどーしても心配だったからこっそり分体を忍ばせといたんだよねー……んー……でもやっぱダメだね―、向こうとは繋がってないっぽいわー」
お手上げといったポーズを取ったレベッカは今度はうーん……と唸りを上げ始めた。
「――……大気組成はサンプル通り……大気圧、気温、湿度、重力値、放射線量、いずれも問題なし……と」
自身が映し出されている機器の機能を使い二人の無事な様子を確認するとレベッカは涙ながらに喜びを伝えてくれた。
「――二人共、無事でほんっとによかった……あっちにはまだ伝えられなさそーだけど、前向きに考えないとね! ってか『ナニカ』の中ってどーだった?」
無茶な事をしておきながら忙しなくコロコロと表情を変えるいつも通りのレベッカに呆れつつ、しばらくお別れだと思っていた人物との早い再開にソウタとウシオはお互いの顔を見合わせ笑顔で喜びを分かち合った。
「ありがとうございます、ベッキー。実は入った直後に気を失ったようで中の様子は全く……ウシオは覚えてる?」
ソウタが問い掛けるとウシオは真剣な表情で静かに頷いてみせ、よく覚えています、と穏やかに話し始めた。
「『ナニカ』の中はとても眩しくて、真っ白な所でした。外を見ている暇もなくすぐに二人共気を失ってしまって、呼び掛けていると突然コンテナ全体がガクッと大きく揺れて……気付いた時には空高くから落ちている最中でした」
ウシオが話し終えると画面の中のベッキーはいつの間にか探偵のような格好に着替え顎に手を当てていた。
「――ふむふむ……気を失って落ちた……て事はやっぱり一次も二次も同様と考えるのが筋だよね……ん? 二人共気を失った? ウッシー意識あったんじゃ??」
人数が合わないと混乱するベッキーにソウタは『ナニカ』に突入する直前のやり取りを話し、もう一人こちらへ来ている事を伝えた。
「――……マジ? 無理やり連れてきちゃったの!? プッ……アハハハハハハハハッ、ソウタンも意外と無茶な事するんだねー。彼生きてる?」
「今はまだ意識が戻っていませんが、特に異常は見られないので
よかったねー、と言いながらまだお腹を抑えて笑っているレベッカにソウタはところで、と神妙な面持ちで尋ねた。
「ベッキー、着いてきて貰えるんですか? というか、バッテリー大丈夫ですか?」
「――あー……それねー……」
レベッカは小さな画面の中で一瞬天を仰ぐと両手を合わせながら至極申し訳なさそうにゆっくりと頭を下げていった。
「――ごめん、ぶっちゃけるとあんまり長時間は話してらんないんだよねー。節約しながら積み込んだバッテリーフルに使ってもせいぜい一ヶ月分くらいにしかならないと思う。しかもそれやると他の機材使えなくなるし……そもそもスペックゴミカスだから着いて行けても役に立たなそ―っていうね」
変に期待させてごめん、と頭を下げ続けるレベッカにソウタは口元をほころばせ今一度感謝と一緒に前向きな言葉を返した。
「こうして話が出来ただけでも嬉しいです、ありがとうございます。無事である以上出来る事がきっとあります、必ず帰るので待っていて下さい」
「――……んふふ、ありがとー。信じて待ってるし、お礼とやらも楽しみにしとくから」
三人で笑顔を交わし和やかに会話を楽しんでいた、その時……ふと周囲に散らばる多数の気配にウシオとソウタがほぼ同時に気付き二人はバッと振り返って即座に警戒態勢を取った。
「……ごめんなさい、こちらに気を取られて気付くのが遅れました」
「……気にしなくていいよ、ボクも気付かなかった……ウシオはあいつを守って」
「――え、ちょ、待って……なんかヤバ気な感じ……?」
ソウタ達の見据える先……壁のようにそびえ立つ大樹の反対側に広がる
ウシオとソウタが森の暗がりに目を凝らし、コンテナと未だ眠ったままの秘書を背に警戒を続けているとやがて……茂みの中から一つの人影が姿を表した。
二本の足で歩み出てきたその人は男のようで、腰と胸周りを覆っただけの上下簡素な服を身に纏い、露出した全身の肌には赤い文様のようなものが描かれていた。
その眼光は獣のように鋭くソウタ達を睨み付け、手にはナイフと言うには大きい、小型の剣といったサイズの武器がしっかりと握られていた。
「……どこからどう見ても人間……だよね」
「ソウタ、木の上にもいるようです」
「……弓か、銃か……流石に爆弾やレーザーは勘弁して欲しいけど……」
未知の異界で初めて遭遇した生き物が人の姿をしている――唐突な未知との遭遇に緊張を走らせ二人がヒソヒソと小声でやり取りをしていると、剣を携えた男は鋭い眼光でソウタ達を睨み付けたままドスを利かせた低い声で話し掛けてきた。
「貴様ら……一体どこから入ってきた、何が目的だ、答えろ」
男の声を聞くとその瞬間、ソウタとウシオは驚きのあまり思わず顔を見合わせた。何故なら……男の発した言葉が日本語だったからである。
「聞き間違い……ではありませんよね……?」
「ボクもはっきり聞いた、間違いない」
「おい! コソコソ話すな! さっさと答えろ!」
再び男が日本語で大きくがなり立てると届いた声にレベッカも反応した。
「――……んー……何か言葉っぽいけどこの端末じゃ翻訳無理そ、やっぱ役に立たんわー……ってか知的生命体いた!?」
レベッカの反応を聞き二人はまたしても驚きに目を見開き、ソウタはすかさずレベッカに問いただした。
「ベッキー、今の声分かりませんでしたか?」
「――あたしの言語能力じゃさっぱりだけど……え、分かるん?」
問い返されたソウタが日本語に聞こえています、と答えるとレベッカは驚きのあまり画面内でひっくり返っていた。
「――いやいやいやいやっ! 絶対日本語じゃないって! 日本語ならあたし分かるもん!」
小さな画面の中で逆さまにひっくり返ったままのレベッカとソウタが話をしていると、剣を携えた男は我慢の限界と言った様子で再び大きな叫びを上げた。
「いい加減にしろッ!? 答えるつもりがないなら……ッ」
しびれを切らした男が剣を高く振りかぶりソウタを指差すように振り下ろした、次の瞬間――カァンッ! と甲高い音が森の奥から響き渡り同時に細長い棒状のものが森の暗がりから飛び出してきた。
森の中から放たれたそれはまるで風の如き速さでソウタの眼前に迫ると、ソウタの顔のすぐ横でピタリとその動きを止めた……いや、止められた。
「……結構ちゃんとしてる……綺麗な矢……レーザーとかじゃなくてよかった」
「なっ……!?」
剣を携えた男の目の前で、ソウタは自身に向けて放たれた矢を難なく
手にした矢をマジマジと観察したのち、ソウタは矢に向けていた視線を驚愕し慄いている剣の男の方へとゆっくり向けた。
男は一歩
「……大きな敵意、警戒、驚き……怒りは少し小さくなった」
――ソウタの持つ異能、人形術……読んで字の如く人形を作り出し使役する能力であるが、何もない所からポンポンと人形を生み出せる……というわけではなく、その力の詳細は少々複雑なものとなっている。
実際にソウタが生み出し扱っている力というのは生き物が生まれ持つ生命エネルギーに近い性質を持っており、それを
生命エネルギーそのものではないものの似た性質の力を扱うといった特性上、ソウタは相手の身体から漏れ出る生命エネルギー(以下オーラ)の流れを肉眼で見る事ができ、その色や反応といった微細な変化から感情の動きまでをも視覚的に捉える事が出来るのであった。
ソウタは剣の男の反応を観察しつつキャッチした矢を放り投げて返すと、両手を上げて敵意がない事を示しながらようやく対話に応じる姿勢を見せた。
「まずは謝罪を、申し訳ありませんでした。決して無視したかったわけではありません、色々と驚く事が一度に多くあったのでつい」
ソウタは未だ姿の見えない森の中の気配を警戒しながらこちらの言葉も通じるのか、と男の反応に目を凝らし様子を
「……質問に答えろ、どこから入った? 目的は何だ?」
どうやらこちらの言葉も通じている様子にソウタは心の中でホッと胸を撫で下ろすと、向けられた警戒を解消すべく丁寧に答えた。
「えぇと……我々は空から落ちてきました。目的は帰る方法を見つける事と、仲間の救出……それとこちら側の調査です」
ソウタは至って真面目に、ありのままを答えた。が……返ってきた男の反応は
「落ちてきた……? 帰る? こちら側? 一体何を言っているッ! バカにしているのかッ! どこから入ってきたのかと聞いているッ!?」
要領を得ず何故か膨れ上がった男の怒りに困惑しながらもソウタは身振り手振りを交えながら冷静に説明を続けた。
「落ち着いて下さい、えっと……我々は、あそこから、落ちてきました」
そう言いながらソウタは上を見上げ、キラキラと煌めく頭上の星空を指差してみせた。すると剣の男はソウタの指差す先を見上げ、そこに煌めく星空をしばし眺めていたかと思うと目を見開いて何かを小さく呟いた。
「――……ア……………………」
男の言葉を聞き取り損ねた――とソウタが剣の男に目を向けた直後、男はソウタを鋭く睨み付け剣を突きつけたままこう告げた。
「そこを動くな、動けば殺す……俺が戻るまでじっとしてろ」
「……わかりました、動きません」
その目に殺意を捉えながら、ソウタが素直に従う意向を示してみせると男はソウタを睨み付けたままゆっくりと後退りしていき、やがて森の暗がりの中へとその姿を消していった。
森の中に散らばっている気配は依然消えておらず、ソウタ達への警戒が続いているようではあるものの……とりあえず難所を一つ乗り切りソウタが警戒を維持しながらフゥと一息つくと、すぐさまウシオが疑問を口にした。
「ベッキーには言葉が分からないようですが……どういう事でしょう?」
ウシオの問い掛けにソウタは少し俯いて先程の男とのやり取りを思い返すとやがてある事に気が付いた。
「……確証はないけど、多分原因はこちら……ボク達にある。彼の口の動きと聞こえてくる音は一致していなかった」
原因は一体何か……二人が心当たりを探り記憶を辿っているとそこへベッキーが一つの可能性を
「――あたしが分からず二人が分かるなら、やっぱり『ナニカ』を通ったからじゃない? 眩しかったって言ってたし、光を浴びたからとか、意識を失ったから? ……あでもウッシー意識あったわ」
「光を浴びて……まるでフラッシュフォールのようですね……」
レベッカの意見にウシオが興味深い事を口にすると、ソウタは眠ったままの秘書へ目を向けた。
「もしあいつも彼らの言葉が分かるなら、光の影響の可能性は高いと言えるかも知れない。ベッキー、出来る範囲で構わないので言語データを記録しておいて頂けますか?」
「――もうやってるよー、ってもこいつのスペックとストレージじゃ大して保存出来ん……あ待ってウッシー、データ集積用のストレージ積んであるからコンテナとこの端末まとめて繋いでくれん?」
コンテナもですか? と疑問を口にしながらもウシオはレベッカと共にコンテナの荷台へと乗り込みテキパキと接続作業に取り掛かった。
「――このコンテナ実は結構高性能なんよー、ケーブルは三番に……そうそれ、下の方に繋ぐ場所が……」
コンテナの中で二人が作業を始めてしばらくすると、音に起こされたのか眠ったままだった秘書がようやく目を覚ましそれに気付いたソウタが声を掛けた。
「……気分は?」
「……あ、おはようございます……すいません、すぐに支度を……」
寝ぼけて朝の支度を始めようとする秘書に呆れつつソウタはここまでの事を説明し、異世界人と早速まずい状況にある事を教えた。
「そ、そんなぁ……こんな訳の分からない所で僕の人生終わるんですかぁ……?」
「……残りたいなら残ってくれても構わないが、ボク達は方法を探して帰る」
ソウタが冷たく突き放すと秘書は見捨てないでぇ、と泣きながら鬱陶しく足元に
目覚めた秘書が喧しさを取り戻していた頃、作業を終えコンテナから降りてきたウシオは外の二人の様子に笑顔を見せた。
「無事目が覚めたようで良かったですね、ソウタ」
「別に、騒々しくなっただけだ……それよりベッキーは?」
戻ってきたウシオの手にはレベッカの映った端末は既になく、コンテナ内に置いてきたとウシオが答えるといつもの場所からレベッカの声が聞こえてきた。
「――ウェーイ、こっちこっちー。コンテナ使って耳飾りと通信出来るようにしたったー、代わりに持ち運んで貰えなくなったけど……ってか聞いて! そんな事よりすごい事が分かったんだけど!」
レベッカが興奮した様子で何かを告げようとした矢先、ハッと何かに気付いたソウタがそれを制止し森の暗がりを正面に見据えた。
暗がりからジワリジワリと黒い影がこちらへ近付いてくると、茂みの間から先程の剣の男が戻ってきた。相変わらず強い警戒のオーラを纏ってはいるものの、男はやや落ち着きを取り戻しているようだった。
「……一人増えたな、妙な真似はするなよ。我らの長が貴様らと話す、黙って着いて来い」
鋭い目で睨み付けながらもこちらを誘うように手招きしている男を指して、ソウタは秘書に言葉が分かるか確認を取った。
「へ……? 何ですか分かりますよそれくらい、赤ん坊じゃないんですから…………あれ、日本語?」
ここ日本なんですかッ!? と秘書が
「喧しい奴だな……黙って着いて来い、武器の類いは全て置いていけ」
「申し訳ありません、静かにさせますのでご容赦を」
ソウタが謝罪を述べつつ枕にしていた下級人形で秘書の口を塞ぐと、それを見ていた剣の男が驚きと敵意のオーラを立ち上らせた。
「白団子……やはり……」
男の反応を静かに見つめていたソウタはなるべく刺激しないようにとウシオに目配せすると、レベッカにここで待つように告げコンテナに力を込めた依代を隠した。
その後武器は持っていないとわざとらしく丸腰をアピールし、剣の男が暗がりに消えるとソウタ達はは口を塞がれたままやたらとキョロキョロ鬱陶しい秘書も連れて男の後を追い、鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れて行くのだった。
その森はとても大きかった。
範囲は勿論だがそれだけではない。森を構成する樹木一本一本がとても太く大きく、苔むした大地に力強く根を下ろしていた。
木々の高さはちょっとしたビル程もありそうで、生い茂った濃い緑色の枝葉の僅かな隙間から微かに光が零れ落ちる様子はまるで星空のようにも見えた。
剣の男からやや離れた後方を静かに着いて行くとソウタ達を警戒している樹上の気配もスルスルと、音もなく器用にあとを着いてきた。
その様子にウシオは素直な感心を覚えたようで、二人は声を潜めながら言葉を交わしていた。
「すごいですね、上の方々。衣擦れの音も枝葉の揺れる音も殆どしませんよ」
「森の中じゃボクの目も余り役に立たない、感心するのは良いけど警戒もしてね」
植物も生き物、生き物に取り囲まれた森の中ではオーラを捉えるソウタの目もあまり役には立たなかった。
ちゃんと警戒も維持したまま森を見渡し観察していたウシオはふと、ある事に気が付きソウタにそっと呟いた。
「この森……生き物の気配が殆どしませんね、とても静かで……」
ウシオの言葉を聞くとソウタもグルリと森を見渡してみた。
森はどこまでも鬱蒼としていて生命力に満ち溢れているものの、そこに動物らしいものは鳥すらも一匹も見当たらなかった。しかし鬱蒼としていながらも暗く淀んでいるという事はなく、生き物の気配は感じられずともどこか暖かい爽やかな空気が不思議と森全体を包み込んでいた。
「不思議な森……」
そうソウタが呟いた時、前方からチッと舌を打つ音に続いて剣の男の鋭い視線が飛んできた。
「ごちゃごちゃと喋るな。黙って、着いて来いと言ったはずだ」
またしても男に釘を差されこれ以上刺激しない方がいいかと大人しく黙って歩いていると、程なくして耳飾りからレベッカの声が聞こえてきた。
「――あーあー、もしもーし、聞こえてる―?」
聞こえている……しかし再び声を出し男を刺激するのを避ける為、ソウタはモールス信号での返答を試みた。
「-.-- . ...(YES)」
爪で耳飾りを引っ掻いて-(ツー)、叩いて.(トン)と表す。
「――ん、声出せない感じね、オッケー、じゃあそのまま聞いて? さっきのすごい事の話なんだけど、今二人ー……じゃないや、三人が向かってる先とは別方向なんだけど他にも耳飾りの反応があるの、多分一次二次調査隊の人達だよきっと! 遠すぎるのか故障なのかこっちの声届いてないっぽいから状況はわからないんだけど……」
思い掛けない朗報にソウタは気を引き締めてレベッカに返事を送った。
「--- -.-(OK)」
「――……皆の無事を祈ってる、気を付けてね」
レベッカの報告を聞き二人は顔を見合わせお互いに小さく頷き合うと、ソウタは袖の中で静かに拳を握りしめるのだった。
どれだけ歩いたか……やがて陽当たりの良い明るい開けた場所に差し掛かると前を歩く剣の男がおもむろに足を止め、振り返るやいなや唐突に条件を告げてきた。
「長の所まで連れて行く前に、お前達の両手を縛らせてもらう」
そう言って男が手を挙げると周囲の茂みから男の仲間がゾロゾロと現れた。その手には縄のようなものが握られており、頭上からは微かに弓を引き絞る音も聞こえた。
「本来なら身動き一つ取れないようにしてやりたいが……長の意向だ、ありがたく思え」
ソウタは男の説明に耳を傾けながらこっそりと左袖の中で依代を手の内に隠しつつ、一つ問い掛けた。
「拘束して頂くのは構いません、従います。代わりに一つお伺いしたい、我々同様連れて来られた者がまだここにいますか?」
「……黙れ、質問は受け付けない」
拘束しろ、と男が指示を出すと茂みの者達によってソウタとウシオ、そして未だ口を塞がれたまま涙目の秘書は後ろ手に両手を縛られ、大勢の男達に取り囲まれたまま彼らの集落へと連れて行かれるのだった。
やがて辿り着いた彼らの集落は酷く
あまり文明を感じさせない……石と木と土で作られた家屋の間を抜け、集落の一番奥と思われる場所まで進むとソウタ達は一際大きな木造平屋建ての建物の中へと案内された。
建物の中は集会所や道場を思わせる大きな広間があるだけの簡素な作りをしており、そこには既に白い顎髭をたっぷりと蓄えた老人が一人と、その両脇を固める護衛と思われる剣を携えた男性二人が奥の壁際に鎮座していた。
ソウタ達はその老人の前まで連れて行かれると三人横並びに座らされ、その周囲を武器を手に持った大勢の男達がグルリと取り囲んだ。
老人はソウタ達三人を一人ずつ、まじまじと眺めていくと秘書に目を留め、静かに口を開いた。
「ガルド、間違いないのか?」
「ああ、間違いない。あの時の白団子だ」
ガルドと呼ばれ返事をしたのはあの剣の男だった。
「(この老人の言葉も分かる……白団子……下級の事か……あの時……?)」
ソウタが秘書の口を塞いでいる下級に目を向けながら心の中で思考を巡らせていると、老人は次にソウタを見て問い掛けてきた。
「お前さん方、星から降りて来たというのは本当かね?」
老人はとても穏やかな口調であった。しかしその眼光は老人とは思えないほど力強く、ソウタは思わず背筋を伸ばしていた。
「……あなた方の言う〝星〟が、我々の言う〝星〟と同じであるかは分かりませんが、確かに、我々は大きな葉っぱの形をした星空を通って、こちらに来ました」
ソウタが正直に答えるとそれを聞いた周囲の人達までもがザワザワとどよめいた、が――
「静まれ」
老人のたった一言で喧騒は見事に掻き消えた。
老人は長い顎髭をひと撫でし、しばし考え込んだのち再びソウタを見て問い掛けた。
「帰る方法を探す、お仲間の救出、こちらの調査……その為に来たとガルドの報告にあった。そこの白いのは少し前にも若い衆が相手をしたと聞いている。わざわざこちらを訪れる理由は何かね?」
「(相手……つまり戦闘になった。こちらに送った人形は健在だったのか……彼……ガルドの警戒と敵意のオーラは、侵略を疑われているからか)」
ソウタはオーラで相手の感情を読み取りつつ、相手を刺激しないよう丁寧に事の経緯を話して聞かせた。
自分達の住む世界の事、フラッシュフォールの事、異能の事、『ナニカ』の事……時々周囲から罵声が飛んできたものの、老人は最後まで静かにソウタの話に耳を傾けてくれた。
やがてソウタが事情を説明し終わると、考え込む老人をよそに剣の男ガルドが声を荒らげてソウタに噛みついた。
「害意がないのなら何故白団子は我らを襲った! あれでどれだけの怪我人が出た事か!」
「……人形には、万が一に備えて、隊員達の身の安全を最優先に守るよう指示を出していました。恐らく、隊員達の身に危険が迫ったと判断しての行動だと思われます」
白団子、もとい下級人形は小さいながらもその見た目に反して力は強く、一般的な成人男性くらいであれば軽々と持ち上げられる程の力があった。更にこれが中級ともなると体格も大きくなり、単なる白兵戦であったとしてもその戦闘能力は凄まじいものとなる。
「我らのせいだと言いたいのか……ッ」
ガルドは怒りに打ち震え剣の柄を強く握りしめると今にも飛びかかってきそうな形相でソウタを睨み付けていた。が、老人がそれを諌めるように一喝するとガルドは歯を食いしばり、一人外へと飛び出していってしまった。
「全く……あいつは血の気が多くていかん……お若いの、すまんの」
「いえ、こちらこそ配慮が足りませんでした……申し訳ありません」
深々と良い姿勢で謝罪するソウタを見て老人はようやく少し表情を緩めてみせた。
「賢く、良い子じゃの……うちの若い衆にも見習わせたいくらいじゃ。お前達、縄を解いてあげなさい。彼らに敵意はない」
老人が指示を出すと周りの者達は渋々ではあったものの武器を下げ、拘束を解いてくれた。ソウタ達は手首をさすりながらも三人揃って周囲の人達へ感謝を述べた。
「さて、お前さん方の目的の話じゃがの」
老人は一度姿勢を正すと、改めてソウタ達の目的への答えを示してくれた。
「まず、この周辺の調査は諦めとくれ。ここは儂らにとって神聖な場所じゃ。特に、巨大樹には決して触れぬよう、固く誓って貰いたい」
相変わらずの穏やかな口調、されどその眼力は凄まじく、ソウタ達は素直に頷く他なかった。
「次にお仲間の救出とやらじゃが、牢に捕らえてる者達が何人かおる。恐らくはお前さん方のお仲間じゃろう、後で案内させよう」
生き残りがいる――それが明らかとなりありがとうございます、とソウタ達三人がにわかに喜びを見せたのも束の間、老人は少し俯いて苦々しく続けた。
「ただの……申し訳ないんじゃが、あまり良い状態ではない。森番が見つけた時には既に息絶えてる者もいたようでの……牢に放置するのも忍びない、こちらで勝手に弔わせて貰った」
「……仕方がありません、お心遣い感謝致します」
ソウタが深々と頭を下げると老人はふむ……、と立派な顎髭をひと撫でして最後の目的について話し始めた。
「最後に、帰還方法に付いてじゃが……」
老人は言葉を詰まらせやや考え込むと、ゆっくりとソウタを見てこう告げた。
「……すまんが思い当たる節はない。力になってやれそうにない……悪く思わんでくれ」
それは残念な答えではあったものの、ソウタは諦めず老人をまっすぐ見据えて他の手掛かりを探った。
「……光に関してはどうでしょうか? 強い光がこちらでも確認されたような事は?」
「儂らはずっとここに居るが……お前さんの言うような強い光は見た事がない。異能とやらに関しても同じじゃ、儂らの中にそういった力を持った者は一人もおらん」
帰還方法に続きフラッシュフォールの原因についても探りを入れてみたものの、生憎と手掛かりは得られなかった……かに思われた。
「ただの……先にも言った通り、儂らはずっとここに居る。ここしか知らんのじゃ。ここよりも外に目を向ければ、或いは……」
外……? とソウタが小首を傾げると老人はすぐにその意味を教えてくれた。
「ここは島なんじゃ、周りをグルリと山と海に囲まれた大きな島じゃ。島の外に目を向ければ、何か見つかるやも知れん」
「島……ガルドさんが仰っていたどこから入った、と言うのはそういう事ですか」
老人は静かに頷いてみせると更に興味深い情報をくれた。
「もし……『かんりしゃ』と会う事が出来れば、帰る方法も知っておるやもしれんの」
「『管理者』?」
「違う、『神吏者』じゃ。この世の全てを意のままに操ったとされる神の代理人……そんなお伽噺が残っておるのじゃよ」
「『神吏者』……」
もし本当にいるのなら会ってみたいものじゃの、とボヤきながら老人はゆっくりと重い腰を上げ立ち上がると、弓を持った青年を呼び付け牢への案内を言い付けていた。
「この者に牢まで案内をさせます、着いて行って下され」
そう言い残すと老人は剣を携えた男性二人に付き添われ足早にどこかへと立ち去っていった。その後を追うように周囲の人達も続々と建物を出ていくとあとには案内を言い付けられた弓の人とソウタ達だけが残った。
残された弓の人は頭と口元を布で覆い隠しており、目元だけが見える状態だった。
お願いします、とソウタが頭を下げつつ声を掛けると弓の人は何も言わずに歩き出し、チョイチョイと手仕草だけで着いて来るように促しながら一人スタスタと歩いて行ってしまうのだった。
置いて行かれないよう弓の人の後を着いていくと早々に集落を出て再び森の方へと進みだした。
樹上には当初より数こそ減ったものの相変わらずこちらを警戒する気配が着いてきており、多少の息苦しさを覚えつつも気にせず弓の人の後についてしばらく歩いているとふと、何か考え込んでいるソウタに気付きウシオが声を掛けた。
「ソウタ、何か気になるんですか?」
「……『神吏者』という言葉、一回目に聞いた時と二回目に聞いた時で認識に違いがあった」
「そう言えば感じが違いましたね……それが気になっているんですか?」
ウシオが問い掛けるとソウタはまたしばし黙り込んだのち、考えをまとめるように思考を声に出した。
「……理屈はよく分からないけど、ただ言葉をそのまま翻訳しているのではなく、最も近い認識、表現に合わせて言葉を選んでいるように思う」
どういう事でしょう……? と説明を聞いてもいまいちピンとこないウシオが再度尋ねるとソウタはよりわかりやすく思考を整理していった。
「つまり直訳ではなく意訳、より正しく意味を理解出来る翻訳になっているという事。ベッキーの自動翻訳みたいな事を、何の道具も無しに実現している」
「……つまり、ベッキーはすごいという事ですね?」
「……うん、そういう事でいいよ」
ウシオには少々難しかったようでソウタは早々に
「そう言えばベッキーの方は大丈夫でしょうか、あれから反応がありませんが……」
「多分電波が届かないんだと思う、森の中を結構な距離歩いたし、枝葉で空も見えないし」
コンテナには依代を置いてきてあるから何かあればすぐ分かるし守れるから大丈夫、とウシオを安心させていると、前を歩いていた弓の人がおもむろに振り返りある方向を指差した。
指の示す先を見るとそこには乳白色の石畳が連なった回廊が続いており、奥には地下へと続く階段が森の中にポッカリと口を開けていた。
ソウタ達が案内に感謝を述べてもやっぱり弓の人は何も言わず、少し離れた木の根に腰掛けるなりさっさと行けと手仕草で訴えていた。
弓の人にお辞儀をして別れを告げ、回廊を進み地下へと続く階段の手前まで来るとソウタ達は階段の下から立ち上ってくる嫌な匂いに思わず眉をひそめた。
ウシオと顔を見合わせたソウタはいつまでもキョロキョロと鬱陶しい秘書にこの場で待つように言うと、ウシオと二人で暗闇へ伸びる階段をゆっくりと降りていった。
階段を降りる途中、二人の脇を小さく風が吹き抜け地上へと登っていくのが感じられた。空気の流れがあるようで、嫌な匂いはその風に乗って地上へと運ばれていた。
一番下まで降りると通路は左右に九十度折れ曲がったT字になっており、点々と置かれた篝火が淀んだ暗闇をユラユラと照らしていた。
地下牢は外の石畳と同じ切り出された乳白色の石のブロックで出来たしっかりとした造りで、それぞれの四角い窪みには重厚な鉄格子ががっしりとはめ込まれていた。
微かに木霊するうめき声を頼りに階段から左へと進み、空っぽの牢を通り過ぎ手前から数えて三つ目の牢屋に差し掛かると、鉄格子の奥……暗がりの中に彼らはいた。
右奥に寝かされている者が二人、左奥に寄り添い壁際にうずくまっている者が四人……皆一様に
左奥の一人がゆっくりと顔を上げ、ようやく訪れた人物に焦点を合わせるとその姿に目を見開きたちまち大粒の涙を溢しながら手を伸ばしてきた。
「ぁ……ぁぁ……ああああああああ……ッ!?」
泣き喚く一人の声に引きずられ他の者達もソウタ達の姿に気が付くと皆一斉に声にならない声を上げ、涙を溢しながら動かない身体を引きずり這って鉄格子まで近付いてきた。
全員酷く衰弱しておりもはや声を出すのもやっとのようで……寝かされている二人に至っては起き上がる事すらままならないようであった。
ソウタは鉄格子の前に膝をつくと隙間から手を差し込んで一人の手を取り、生き残った彼らへ労いと感謝の言葉を送った。
「皆、よく諦めずに生きていてくれた……ありがとう」
ソウタは力なく泣き崩れる隊員達のオーラを一人ずつ入念に凝視していくと、おもむろに立ち上がり人形を巧みに使ってあっさりと錠を開け牢の中へと入っていった。
六人の中で最も状態の悪い寝たきりの隊員の側に膝をつき、隊員のお腹、
ソウタの力は生き物の持つ生命エネルギーに似た性質を持っている……それを自在に操る技術を応用し、ソウタは隊員達の乱れたオーラの流れをゆっくりと整えていった。
だがそれだけで都合よく衰弱状態が治ったりするはずもなく、必要最低限の処置を終えると次にソウタはウシオにあるものを出すよう要求した。
「ウシオ、〝あれ〟を」
「はい、すぐに」
微笑んで返事をするとウシオはおもむろに身体の後ろに手を回し、何処からともなく一本のガラス瓶を取り出してみせた。ガラス瓶の中は白い液体で満たされている。
そう――ミルクである。
ウシオ(丑和)――
白い和服の上から可愛らしいエプロンドレスを身に着けた二十代くらいの女性……ウシオは普段ソウタの姉、もしくは保護者として振る舞っている。だがその実……彼女は元来人間ではない。
その実態は名前の示す通りの〝牛〟であり、フラッシュフォールの影響で異能を獲得した乳牛を依代として生み出された命ある人形なのである。
しかし、ソウタは彼女達の事を人形などとは思っておらずそう呼ぶ事もない。歴史上存在したと言われる陰陽師などが使役したとされる『式神』になぞらえ、式と呼んでいる。
ただの人形ではなく、命ある掛け替えのない家族なのである。
ウシオの獲得した異能の力、それはここまでにも何度か披露していた『糸』を生み出し操るというものである。ではこのミルクは一体何なのか?
フラッシュフォールによって異能を獲得した者はその肉体の基本的なスペックも軒並み向上すると言う事が確認されている。どれほどちっぽけな異能しか持たない能力者であっても、異能を持たない非能力者とは比べ物にならない程の基礎身体能力を誇る。
そんな優れた肉体を手に入れた乳牛であるウシオのミルクもまた、普通のミルクとはひと味もふた味も違う特別なものとなっているのである。
普段どこにその牛乳瓶が納められているのか、またどのようにして瓶にミルクが注がれているのかは……ソウタですら知り得ない最重要機密となっている……。
ソウタはウシオからミルクを受け取ると人形を使って衰弱した隊員の口に少しずつミルクを注ぎ飲み込ませていった。
するとこれまで身動き一つ取れず声を出すのもやっとだった隊員のオーラは力強く体中を駆け巡り、ゆっくりとではあるが何とか上体を起こせるまでに回復した。
「……し、信じられない……こんな事が……」
死の淵から生還し、感涙に震える隊員をよそにソウタは他の隊員達のオーラも同様に整え、ウシオのミルクを飲ませる事で会話出来る程度にまで回復させていった。
「もう……自分達はここで朽ちるのだと……もう駄目だと思っていました……」
「ありがとうございます……ありがとうございます……っ」
「連絡手段もなく……もう救助は来ないものだと……」
今際の際からかろうじて生き延びた調査隊員達はみな涙に濡れたまま抱き合い、笑顔を浮かべ喜びを分かち合っていた。
「ウシオのミルクで力が
ソウタは気遣いながらも状況は決して好転していないと言う事を隊員達に前置きを置いて話し始めた。
「来たのはボク達だけ、帰る方法はこれから探す。タイムリミットは六ヶ月、六ヶ月経っても連絡も帰還も叶わなければ、有人調査は一時凍結される。追加の救助は来ない」
淡々と告げられるソウタの説明は隊員達にとってとても絶望的なものであった……が、隊員達は互いに顔を見合わせ頷き合うと空元気であったとしても前向きな姿勢を示してみせた。
「どの道我々は一度死んだようなもの……救って頂いた以上、出来る限りの貢献をさせて頂きます」
「……帰る方法を探す為には何よりもまず情報がいる、君達に起きた事を出来る限り詳しく教えて」
ソウタは床に座りゆっくりと時間を掛けて一つ一つ彼らの体験した事を聞き精査していった。
突入直後の意識喪失、空からの落下、森の人々との戦闘、地下牢に入れられてから今日までの事……それは壮絶の一言では言い表せない、過酷で凄惨なものであった。
「……何かの備えになればと付けた人形が仇になったね……申し訳ない」
ソウタは表情こそ変わらないものの、強く握りしめられた手に悔しさを滲ませた。
「とんでもない、あの人形のお陰で生き残れたようなものです、助かりました」
助けに来たのに逆に慰められてちゃ世話がない、とソウタはそっとため息を零した。
「……君達は全員能力者だね、一次の人は?」
「寝たきりだった二人が一次です、我々四人は二次で……」
先程まで寝たきりだった、今は上体を起こして座っている二人へソウタは問い掛けた。
「無事に残っている機材はある……いや、というか、君達装備は?」
第一次及び第二次調査隊は『ナニカ』突入時、全員が宇宙服のような装備に身を包んでいた。
それが今はボロボロに薄汚れた黒い薄手のボディースーツと同じくボロボロよれよれになった上下が繋がったオールインワンの作業着だけである。牢の中にもそれらしいものは見当たらず、耳飾りもしていなかった。
「大半は落下の際に壊れてしまって……一部残った機材もありましたが、全部彼らに取り上げられてしまい……今どこでどういった状態かは分かりません」
「……ベッキーが感知した耳飾りの位置にあるかも知れない」
「レベッカさんも来ているんですか!」
分体だけどね、と驚く隊員を軽くあしらいソウタが考えをまとめていると、隊員の一人が土下座の姿勢を取り先手を打ってきた。
「お願いします、我々も同行させて下さい! どんな汚れ仕事でもこなしてみせます、どうかッ!」
土下座する隊員は一人が二人、そして三人四人とどんどん増えていき、上体を起こすのでやっとの隊員すら頭を下げていた。
ソウタは一つため息を吐くと隊員達へこれからの話を始めた。
「気持ちだけ受け取らせて貰う。君達はここに残れ」
冷たく突き放されてもそこを何とか! と食い下がる隊員へソウタは最後まで聞けと釘を差し話を続けた。
「君達にはここに残って、やって貰いたい任務がある」
「任務……それは?」
「……森の彼らと交流を深め、信頼関係を築いて貰いたい」
ソウタのまさかの発言を受け隊員達は一様に驚き、無理です!? と懇願するような目で訴えた。
「聞け。帰還方法には恐らく、彼らとの関係構築が必要不可欠になる」
隊員達はソウタの言っている意味が理解できないと困惑の表情を浮かべながらも大人しく耳を傾け続けた。
「彼らの長は、帰還方法について思い当たる節はないと言っていた。が、この時長は嘘をついた」
嘘……? と隊員達は未だ困惑の表情を浮かべていたがその姿勢は前のめりで話に聞き入っていた。
「詳しい説明は省くけど、ボクは相手が嘘をついているかどうかを判別出来る。嘘の内容までは分からない……けれど、長は何かしらを知っている可能性がある」
それを聞き出す為に関係構築が必要だ、と説明すると、隊員達は理解こそしたものの不安を滲ませていた。
ソウタは隊員一人一人の目を見ながら静かに、穏やかな口調で語り掛けた。
「出来るかどうかは分からない、けどやらなきゃいけない。ここに残らなければ出来ない任務だ、タイムリミットもある……君達に任せたい」
ソウタの真剣な眼差しを受け、六人は顔を見合わせ頷き合うと覚悟を決め、任務の完遂を強く誓った。
「……分かりました。その任務、我々にお任せ下さい。必ずややり遂げてみせます!」
ソウタも彼らの覚悟を受け止めしっかりと頷いてみせると、もう一つの任務についても彼らに頼む事にした。
「それともう一つ、ボク達が乗ってきたコンテナに繋がれたベッキーが耳飾りを介して言語データの集積をしてくれている。何とか頼み込んでコンテナを集落の近くに置かせて貰うから、それも合わせて進めて欲しい」
「我々は今耳飾りをしていませんが、コンテナには予備の耳飾りもあるんでしょうか?」
それはこれからなんとかする、と告げながらソウタはすっと立ち上がるとウシオと共に牢を出て念の為錠を閉め直した。
「なるべく早く出して貰えるように交渉してみる、勝手に出すとまた警戒させてしまうからね。もうしばらくそこで辛抱してて」
隊員達の力強い返事と感謝を聞き届けると、ソウタとウシオは吹き抜ける風と共に再び地上へと階段を登っていった。
ソウタ達が地上へ戻るとその場に待たせていた秘書が口を塞いでいた下級人形の影に隠れ、何かに怯えるような様子を見せていた。
その視線を辿って見ると石畳の回廊の先には見覚えのある男性が遠目にも分かるほどの敵意のオーラを立ち上らせ、鋭い眼光でこちらを睨み付けているのが見えた。剣の男、ガルドと呼ばれていた人物である。その少し後ろには困惑した様子の弓の人も立っていた。
ソウタ達は刺すような視線に緊張を走らせながらゆっくりと回廊を進み剣の男へ歩み寄ると、先手を打ってソウタの方から声を掛けた。
「二つ程お願いしたい事があるのですが……今の貴方へ言っても聞いては頂けないでしょう」
ソウタはやる気満々のオーラを見せる男と真っ向から視線を交えながら一つ提案を持ち掛けた。
「そこで提案なのですが、ボクとお手合わせ願えませんか? どの道黙って見過ごすつもりはないのでしょう?」
ソウタは淡々と、いつものすんと澄ました顔で無自覚に剣の男を挑発した。その澄まし顔が挑発に当たるという自覚がなかった。
ソウタの無自覚など知る由もなく、剣の男はまんまと怒りを募らせると冷静を装いソウタの提案を受け入れた。
「……上等だ……もしお前が勝てたなら頼みとやら、聞くだけ聞いてやる。俺が勝ったら?」
「聞くだけではなくお約束頂きたい所ですが……貴方が勝ったら、我々はコンテナと地下の彼らを含めて何一つ残さず、ここを去ります」
互いが条件を提示し合った直後、ガルド! と弓の人が初めて声を聞かせてくれたが剣の男はまるで聞く耳を持たず、場所を変えるとだけ告げると一人集落とは反対方向に向かって歩き出した。
その背中をしばし眺めていると弓の人はあぁぁ……もう! と報告の為か集落の方へと慌てて走り去っていった。
振り返らずやや早足に歩き続けるガルドの後ろを少し離れて着いていくとやがて、ソウタ達は拓けた円形の広場へと辿り着いた。
直径五十メートル程はあるだろうか、広場は回廊や地下牢と同じ乳白色の石畳がまるでバームクーヘンの様に敷き詰められており、外周部には同じ乳白色の大きな石のブロックが点々と広く隙間を開けて広場を取り囲むように並べられていた。外周部のブロックは所々苔生しており、乳白色の肌に苔の緑が鮮やかに彩りを添えている。
「森の中に随分とお
「……腕試しや祭事に使われる場所だ、森番が森を荒らすわけには行かない」
そう言うとガルドは一人広場の中央まで進むとクルリと振り返り、ソウタを煽るように手招きした。ウシオ達にはその場で待つようにと告げ、ソウタも周囲を警戒しながら広場の中央まで歩を進めた。
二人が広場の真ん中で向かい合うと剣の男、ガルドは少し上を向き、いつの間にか広場を取り囲んでいた樹上の弓兵達に向かって大きく声を張り上げ叫んだ。
「これは俺の勝負だッ! 手を出せば貴様らでも殺すぞッ!」
一対一で、という条件をソウタは提示していなかった。それ故にガルドのまさかの行動にソウタは少し驚いていた。
「……意外と律儀なんですね、手段は選ばないのかと思っていました」
「……矢を一本止めたくらいで調子に乗るなよ」
ガルドは再びソウタを睨み付けると腰に据えた剣を静かに右手に構え、体勢を低く、獲物へ飛び掛かる直前の獣のような姿勢を取りピタリと動きを止めた。その構えは荒々しくも美しく洗練されており、彼の確かな自信と実力を感じさせるに足るものであった。
「(綺麗な気の流れ……やっぱりこの人が……)」
ソウタがガルドの放つ洗練されたオーラに見惚れていると、さっさと構えろ、とガルドから声が掛かった。
「本当に律儀な方ですね、そういう所は結構好きです」
ほんのりと口元に笑みを浮かべ、いつでもどうぞ、とソウタが告げた……次の瞬間――ガルドの放つオーラは大きく膨れ上がり、二人の戦いの火蓋は音もなく静かに切られた。
開幕、ソウタとガルドの間には五メートルほどの距離が空いていた。通常であれば少なくとも三歩は掛かりそうな距離……だがガルドはその距離を一歩で詰めてきた。
五メートル先にあった彼の姿は瞬きを挟んだ刹那に眼前へと迫り、素早く振り下ろされる彼の剣が今まさにソウタの首を捉えようとしていた。
この時ソウタは未だ微動だにしておらず、残り拳一つ分程度の距離にまで剣が迫りガルドは目を見開いて勝利を確信していた。
「(
その時ふと、ガルドはソウタの顔を見た。
ピクリとも反応できず、一秒後自分が死んだ事にすら気付けないであろう少年と、視線を交わしていた……――そう、目が合っていたのである。
ガルドはソウタから見て正面からやや左側に動いていた。剣を振る反動もあるがその方が首を狙いやすい為である。
そんな自分と、指一つ動かしていないソウタの目が合っている――その事実に気付いたガルドは反射的に飛び退き、ソウタと距離を取っていた。
あと一歩、残り拳一つの距離で得られた勝利を捨て、ガルドの本能は引く事を選んだ。
「……あと少しだったのに、どうしたんです?」
初期の位置から見てソウタの九十度左側、十メートルほどの距離に片膝をつき呼吸を乱すガルドの姿があった。
「(あり得ない……あそこから反応出来るはずがない……なのに……ッ)」
ガルドは思わず飛び退いてしまった事に悔しさを滲ませていた。しかしすぐに呼吸を整え体勢を立て直すと今度はゆっくりと、ユラリと緩急をつけた動きで再び距離を詰めてきた。
「(落ち着け……一撃に拘る必要はない)」
捉えどころのない動きでソウタを
ソウタも今度はこれをしっかりと回避すると、ガルドの後ろへ時計回りに回り込む動きを見せた。
ガルドはその動きをしっかりと見ており、身体を捻る力も加えてソウタを追うように全力で剣を振り抜いた。
その剣圧は凄まじく、巻き上げられた砂埃は竜巻のように空へと舞い上がり、切り裂いた風は太い木々をギシギシと揺らした。
が、しかし……ガルドの背後に回り込んだはずのソウタの姿はそこにはなかった。
「(いないッ!? 馬鹿なッ……上ッ!)」
すぐさま頭上を見上げ確認するガルドであったがそこにもやはりソウタの姿はなく、一体どこへと思考を巡らせるよりも早く、ガルドの耳にソウタの声が届けられた。
「上ではなく後ろです」
背後から唐突に掛けられた声にガルドは咄嗟に距離を取りながら振り向くとようやくその視界にソウタの姿を捉えた。
「馬鹿な……どうやって……」
「ずっと貴方の背中に張り付いていただけです、グルリと」
ソウタは人差し指を一本立てて自分の動きを再現してみせた。それによればソウタは腰の回転を加え振り抜かれたガルドの剣よりも更に速く、シンプルにガルドの周りをグルリと一周していただけであった。
「(俺が全力で振り抜いた剣より、速く……? そんな馬鹿な事……ッ)」
ガルドはこれまでに経験した事のない状況に
自分よりも小さなこの少年はまだ一度として反撃してきていない。背後を取り、隙だらけであったにも関わらず、この少年は何もしてこなかった。
悔しさか、或いは武者震いか……俯いたガルドは一つ大きく深呼吸をして体の震えを抑えると直後、再び最初と同じ、獣のような構えを取ってみせた。
「……もういい、これで最後だ……これで駄目なら……大人しく負けを認めてやる」
そう言ってガルドはこれまでにも何度も向けてきた強烈な殺意のこもった瞳でソウタを鋭く睨み付けた。
奇しくも距離は最初と同じ約五メートル……ガルドのオーラはこれまでで最も力強く
その姿をジッと見つめたまま、ソウタは表情も姿勢も一切変える事なくいつもの無愛想な澄まし顔で静かに口を開いた。
「……どうぞ」
ソウタが合図を送った直後、ガルドの足元の石畳にピシッと亀裂が入るのと同時に雷轟のようなガルドの一閃が空気を震わせ森の静寂を切り裂いた――
――それは大砲の砲声のような、或いは落雷のような一瞬の激震であった。
耳鳴りの末、静寂が帰ってきた時、広場はモウモウと立ち込める砂埃でしばしの間何も見えなかった。
緩やかな風が徐々に砂埃を押し流していくと広場の中央に人影はなく、二人の姿はいつの間にか広場の外周近くまで移動していた。
ガルド最後の一撃は単純な突き……真っ直ぐに剣を突き出し一足飛びで懐に飛び込む、全体重を乗せた全身全霊の刺突突進攻撃である。
その速さは瞬きの刹那すらなく、切っ先は残り数センチの所までソウタの胸元に迫り……その刀身をソウタの両手に挟まれて止まっていた。
「やっぱりお強いですね」
「……嫌味か」
本心です、と小さく笑みを浮かべるソウタを前にガルドは静かに目を閉じ、肩を落としながら大きなため息で返した。
「最初の場所からなるべく動かないように立ち回ろうと思っていたのですが、ここまで押し出されてしまいました」
両手で挟み込んでいた剣から手を離しながらソウタは口元を緩めて穏やかにガルドへ話し掛けていた。
そんなソウタの無自覚な煽りをガルドは面白くないと言った表情で睨み返すものの、そこに先程までの敵意や荒々しさはなくなっていた。
「(強い……この俺が足元にも及ばない程に……何なんだ……こいつは……)」
ガルドが眉間にシワを寄せソウタに
「ガルドさんでしょう? 中級を倒したのは」
「……中級?」
大きい白団子です、と答えながらソウタは袖から一枚依代を取り出すとガルドの目の前で中級人形を出してみせた。
「並の人ではこの中級は倒せません。貴方ぐらい強い人が相手なら、倒されたのも納得出来ます」
ただ見せる為だけに出した中級をすぐさま袖にしまい直すと、ガルドは
「……確かにそいつは強かった……お陰でこっちは怪我人だらけだ」
ガルドの言葉を聞くとソウタは笑みをしまい、畏まって頭を下げた。
「改めてお詫びします。もしお許し頂けるのなら、怪我の治療に多少の貢献が出来ると思うのですが」
顔を上げたソウタの真っ直ぐで素直な瞳を見て、ガルドは再び盛大にため息を零しながら剣を鞘へと収めた。
「……先に頼みとやらを言え、聞くだけ聞いてやる」
ガルドからの嬉しい申し出にソウタは今一度笑みを浮かべ感謝を述べると地下牢に囚えられている隊員達と取られた荷物の返還、そして長のお爺さんとの二度目の会談を希望する事を伝えた。
ガルドは腕を組んでしばし黙り込んだのち、何か考え事をしていたかと思うと突然
「その前に教えろ、お前は一体何なんだ? ガキのくせに何故そんなに強い? そのでかい白団子はいくらでも出てくるのか?」
唐突に捲し立てられる質問にソウタはブリスコラ博士を思い出し笑みを零すと、人形の能力や最高戦力群の話などガルドの疑問に丁寧に答えていった。
「――二百……お前より強い奴まで居るのか……」
「単純な身体能力だけなら、そこにいるウシオの方がボクより強いですよ」
ガルドはフリフリの服を着て優しく微笑むウシオをうんざりするような目で見ると額を押さえ首を小さく振りながらため息を振りまいた。
ソウタ達がそんなやり取りをしているとそこへ、無口な弓の人が数人の男性達を伴って広場へなだれ込んできた。
ガルドは男性達の元へ歩み寄ると何やらガヤガヤと話し込んだのち、指示を飛ばして乱暴に男性達を追い払っていた。
「あいつらに牢の連中を連れてくるように言った。お前らの荷物の保管場所まで案内してやる、着いて来い」
「ありがとうございます、ガルドさん」
「……さんはやめろ、鬱陶しい」
調子が狂うと不満気にため息を零すガルドが歩き出すとソウタとウシオは顔を見合わせ笑顔を交わした。
つい今しがたまで本気で殺そうと刃を向けてきた相手のすぐ後ろについて、ソウタ達は調査隊の荷物があるという場所を目指し未だ砂埃の舞う広場を後にするのだった。
「お前ら何してんだ……?」
ガルドの後に着いていくと辿り着いた先には乳白色の石で出来た遺跡のような古びた建物があった。
建物と言っても小さな小屋のようなもので、既に屋根は崩れ落ちており木と葉っぱで作られた代わりの屋根を覆い被せてあるだけのみすぼらしいものである。
コンテナと集落から同じくらいの距離にあると思われるその場所には見張りと思われる二人の森番がいたのだが、やや離れた根の影に隠れひょこっと顔を出して建物の方を覗き込んでいた。見張り二人の奇行にガルドが怪訝な顔を向けている。
「ガルド! 危ない! 祟られるぞッ!」
「死者の怨念だ! 俺達を祟りに来たんだッ!」
見張りの言い分はこうである――
いつものように見張りをしていたら突然建物の中から奇妙な音が聞こえてきた。
何の音かと確認しに中へ入ってみたもののこれと言って変化はなく、積まれた荷物の中から延々と訳のわからない不気味な音がし続けるので死んだ連中の祟りだと思っている……との事であった。
「すいません、多分ボク達の仲間の声です……」
ソウタが事情を説明し、見張り二人にお説教を始めるガルドを尻目に荷物を確認させてもらうと、やはり聞こえてきたのはコンテナで待つ彼女の声であった。
「――ふたっ……三人共無事!? よかったー……中々音沙汰ないしさっきすっごい音聞こえたしで心配したんだからー」
「ご心配をお掛けしました。我々も生き残っていた調査隊員達六名も、共に無事です」
ソウタはレベッカにこれまでの事とこれからの予定を手短に伝えた。レベッカは若干の間はあったもののすぐにいつもの軽妙な口調で快諾してくれた。
「――……ん、わかった。どの道バッテリーなきゃ何の役にも立てんし、あたしはあたしに出来る事を頑張っちゃう!」
「ありがとうございます。残っている荷物ですが……使えるかどうかボクでは判断出来ないので、一度そちらに全部持って行きます」
「――あたし的には追加のバッテリーとかあったら嬉しいけど、どんなのがあるの?」
「殆どは壊れた機材やボロボロになった隊員達の服などですね、食料物資の類いはなさそうです……と、これは……」
ソウタが乱雑に積まれた物資をあらためていると、その中に亡くなった隊員達の物と思われる遺留品も含まれていた。
「そいつは牢の連中がどうしても残してくれって喧しく泣き喚くから、せめてもの情けだ」
背後からの声に振り返ると小屋の入り口にはいつの間にかガルドが立っており、遺留品の事を教えてくれた。
「……亡くなった人達の
「悪いがもう土の中だ、掘り起こすなんて言うなよ」
「言いません、連れて帰れる物が残っているだけでもありがたいです……ありがとうございます」
そう言ってソウタは遺留品をまとめて手近にあった布で包みまだ使えそうな箱に丁寧に収めると、大量の下級人形に荷物を持たせコンテナへと運ぶように指示を出した。
ソウタ達が小屋を出ると丁度牢から出して貰えた隊員達が森番の男性らに連れられてこちらへ向かってくるのが見えた。寝たきりだった二人は流石にまだ歩けないようで、比較的元気な二次調査隊の男性二人に背負われていた。
「こんなすぐに解放して貰えるとは、流石です!」
「それはいいので、皆さんは先にコンテナの所へ戻っていて下さい。そこの人形達に着いていけば着きます」
そうソウタが視線で示した先には荷物を頭の上に乗せ、遺跡の小屋からカルガモのように列をなしてコンテナに向かう下級人形達がいた。
「了解です、お二方は?」
「ボク達はもう一度長のお爺さんとお話をさせて頂こうと思います。ガルドさん、お願い出来ますか?」
ソウタが視線を向け問い掛けると、渋い顔のガルドからは思い掛けない返事が帰ってきた。
「それなんだが、もうすぐ日が暮れる。爺はすぐ寝ちまって朝まで起きねぇ、会って話せんのは明日になってからだ」
それを聞いたソウタは驚きのあまり目が点になっていた。
「日が暮れる……一応ちゃんとした夜はあるんですね、あの空でも」
「当たり前だ、あの樹と昼夜の有無は関係ねぇ」
上を見ると青々と茂った森の枝葉に遮られ、ソウタの目に空は映らなかった。
「分かりました、では明日で構いません。明日、またよろしくお願いします」
「準備が出来たら俺が迎えに行く、それまで大人しく待っとけ」
はい、とソウタは頷いてみせると解放された隊員達を引き連れ、レベッカの待つコンテナへと一時帰還の途に着くのだった。
ソウタ達がコンテナに到着する頃、辺りは段々と薄暗くなりゆっくりと夜の帳が降りてきていた。樹上の見張りは相変わらず付けられているようであったがソウタは気にしない事にした。
コンテナに着くと隊員達はレベッカとの何ヶ月ぶりかの再会に喜びの涙を流し、ひとしきり泣き腫らしたあと自分達の荷物をあらため、亡くなった仲間達の遺留品を見つけると今度は悲しみに涙した。
「そんなに泣いてたら水足りなくなりますよ。使える機材や物資と使えないもの分けておいて下さい、それと森の側ですから火は使わないように」
ソウタがいつもの無愛想な澄まし顔で泣きっぱなしの隊員達に呆れていると、レベッカが良い物があると教えてくれた。
「――一次二次の時には開発が間に合わなかったんだけどー、三次の直前に完成したすっごい物があるんよー」
ジャジャーン! と、コンテナ付属のアームを器用に使い見せてきたものは何やら錠剤の包装シートのような見た目をしていた。
「薬……ですか?」
ソウタが見たまんまの感想を口にするとレベッカはものすごい得意げに説明してくれた。
「――ノンノン、見た目は確かに薬っぽいんだけどー、何とこの見た目で……お水なのでーす! いえーぃ拍手ー!」
ガチンガチンとアームを打ち鳴らしやたらとテンションの高いレベッカを放置してソウタは淡々と包装シートの中身を確認していた。
「水みたいに透明ではありますけど……誰が見ても錠剤か消臭剤ですよ?」
「――ふっふっふ、だと思うじゃろ? それ一粒で二百ミリリットル、約コップ一杯分の水になるんよ―、口の中で潰すと溢れて大惨事だから器に入れてやってみー」
ソウタは
「――フハハハハハハハハッ! これがアークエイドの誇る異能研究の成果であーるっ!」
「これ……異能で水を圧縮してるんですか? 保存食や食品圧縮は少し聞いて知っていましたけど、水は知りませんでした」
そーゆーことー、と得意げなレベッカのアークエイド最先端技術お披露目ショウが終わると隊員達は綺麗な水が飲めるとまた涙を流していた。
「……水の心配は大丈夫そうですね。彼らも病み上がりですし、食事を済ませて今日は早く休みましょうか」
そう言っておもむろに立ち上がったソウタがコンテナの中から積み込んできた食料物資を皆に配ると、ソウタ、ウシオ、レベッカを除いたその場の全員に戦慄が走った――
「「「「「「「こっ……れ、は……ッ」」」」」」」
――国際連合機関アークエイドでは異能だけに留まらず、日々様々な分野の研究が行われている。
先の錠剤型水カプセルもその一つであり、混迷極める社会情勢の事もあってか特に食べ物に関する研究はアークエイドが異能の次に力を注いでいる分野でもあった。
そんな中、アークエイドの誇る優秀な研究者達の
それは一辺二センチの正方形、厚さ五ミリというコンパクトさでありながらたった一つで一日に必要な栄養とエネルギーの両方を補えるという画期的で革新的なものであった。
それは異能によって小さく圧縮されたフリーズドライ食品であり、水に落とす事で丼一杯分ほどにまで嵩を増し十分な食べ応えすら与えてくれる夢のような発明であった。
しかしそんな夢のような発明品でありながら、ただ一つ……たった一つの致命的な問題によって、未だ日の目を見る事なく暗い倉庫の奥深くで放置される日々を送っていた。
長々と申し訳ない、もうお気付きであろう、つまり一言で言うと……ゲロまずいのである。
「倉庫の奥で大量に余っていると伺ったので、積み込む食料物資は全部これにしました。この人数で一日一食、六ヶ月消費してもまだ余ります」
実に優秀な携帯糧食です、とソウタとウシオは隊員達の青ざめた顔などお構いなしにササッと食事を済ませてしまった。
かたや隊員達も贅沢は言っていられない、と覚悟を決め一気にかき込むと戻ってこないように口を抑えながら必死に耐え……やがて三十秒としないうちに気を失うように眠りについた。
「――あー……これもしかしてだけどさ、トドメ刺してない……?」
「彼らには一日でも早く体調を整え任務に励んで貰わないといけません。その為には栄養とエネルギーは必要不可欠、この上ない最適解です」
倒れ伏す隊員達にアーメン、とレベッカがコンテナのアームで十字を切っていたその時、ウシオが上を見上げながらポツリと呟いた。
「星、綺麗ですよ」
その声につられて空を見上げ、そこにある夜空にまるでまだ地球にいるかのような錯覚を覚えるとソウタもまたポツリと呟いた。
「まだこちらに来てから数時間しか経ってないのか……」
「――大体二時間ちょいってとこかなー」
そのまましばしの間静かに空を見上げているとふと、ウシオがある事を思い出した。
「そう言えばソウタ、ホサキさんからお預かりした時計は?」
あ……、とすっかり存在を忘れていた時計を懐から取り出してみると。
「……よかった、動いてるみたい」
問題なく時を刻む音に安堵し、ソウタはホサキから教えられた通りにゼンマイを巻き直した。
「一日の長さも計らないといけませんね」
「うん、日の出の時間を見ておかないと」
そう言って束の間ソウタが時を刻む秒針を眺めていると、感傷的になったのかレベッカが寂しげな声で尋ねてきた。
「――……朝になったらさ、長のおじーちゃん? と交渉して、うまく行ったらあたしらはここに残って任務だよね……ソウタン達はどーするん?」
「交渉がうまく進んで予定通り事を運べたら、ボク達は島の外へと探索範囲を広げてみるつもりです」
外? と長との会話内容を知らないレベッカがその意味を尋ねると。
「ここは島らしいので、その外側という事です。他にも人の集落があればいいですけど」
ソウタの説明を聞くとレベッカは急に唸り声を上げた。
「――んー……新しく人見つける度に毎回警戒されてーみたいな事になったら大変じゃない?」
その指摘にソウタはハッとしたように顔を上げた。
「確かにそうですね……警戒させない、或いはすぐに警戒を解けるような対策も考えないと……」
服装変えるとか? とレベッカが例を出すとソウタとウシオはお互いの服装を見合わせ、やや困った顔を見せた。
「いつ何があるか分からないこの世界でこの服を変えたくはないですが……あいつのスーツはそのうち変えます」
「私もこのエプロンドレスは譲れません!」
「――んふふ、ウッシーこだわりの一品だもんねー」
隣でウシオとレベッカが仲良くガールズトークを始める一方、ソウタは袖から一枚の依代を取り出すと一人思考の海へと漕ぎ出した。
「(警戒させない……場合によっては人形を使えない状況も想定しなければ行けないか……)」
能力者の身体能力は高い――最高戦力群に名を連ねる者ともなれば当然計り知れない力がある。
ガルドとの戦闘を見ても分かる通りソウタも例外ではないものの、これまで人形を使わないという発想自体がなかったソウタにとってそれはある意味未知の領域とも言えるものだった。
「(並の相手なら体術だけでもいい……けどもし、格上との状況で人形が使えなかったら……人形に頼らない、ボクに出来る事……)」
そんな事を考えていたソウタの頭にはある男の言葉が想起されていた。いつも自分を睨み付けてくるあの、金髪の男の言葉である。
――俺達は世界中から集められた選りすぐりの精鋭部隊! アークエイドの誇る最高戦力群!
――何があろうと対処出来る奴が向こうに行って、戻って来れねぇ理由をどうにかすりゃぁいい!
「(何があろうと、対処出来る強さ……)」
ソウタは最高戦力群の中で自分が最も弱い事を自覚していた。この任務は最高戦力群としての格を問うもの――そう受け止めたソウタは再び星空を見上げ……決意を新たにすると静かに目を閉じ、翌朝へと備えるのだった。
翌朝、ガルドの迎えは想像以上に早い空が僅かに白み始めた頃に来た。
微かな足音と気配でソウタとウシオはすぐに目を覚まし立ち上がったが、他の隊員達は未だ夢の中にいた。
ソウタは懐から懐中時計を取り出しウシオと一緒に時刻を確認したのち、森の暗がりから現れたガルドに朝の挨拶を送った。
「おはようございます、ガルドさん」
「さんはやめろ、ガルドでいい……早過ぎたか」
「構いません、時間の惜しい我々には好都合です」
横になったままの隊員達を気に掛けるガルドにソウタが小さく首を振って見せると、ガルドは来い、と短く言い放ち
すぐさまソウタもレベッカに後を託し、ウシオと共にガルドを追って森の中へと駆けていった。
森に入ってしばらく歩き、早朝の暗闇にも目が慣れてきた頃。ソウタは周囲の森を見回しながらガルドに問い掛けていた。
「ガルドさ……ガルド、この森少し明る過ぎませんか?」
ソウタの視線の先、未だ日の上りきっていない早朝の鬱蒼とした森の中は何故か明るく視界良好であった。
暗いと言えば暗い……だが真っ暗闇にも程遠く、星や月明かりかとも考えたが頭上は枝葉に遮られ差し込む光は殆ど見当たらなかった。
「苔の中に光るものがある、何故光るのかは俺も知らん」
そうぶっきらぼうに答えながらガルドはペースを落とさず歩き続けた。
地球にも光る苔は存在するものの実際には光を発しているわけではなくただ僅かな光を反射しているだけ……早朝の暗い森でも遠くまで見通しが利くほどの光量は流石になく、異世界特有とも言える幻想的な光景にソウタとウシオは少しばかり見惚れていたのであった。
やがて集落に到着し昨日と同じ道場風の建物へ入ると、そこには長の老人と他の森人達が各々武器を携え昨日と同じ険しい表情を浮かべて待ち構えていた。彼らのオーラには未だ強い敵意が滲み出ている。
「ソウタ……だったか、悪いが他の連中はまだ納得してない。説得はお前が自分でしろ」
「わかりました、ありがとうございます」
ほんのりと笑みを浮かべてガルドに一礼するとソウタは長の正面に、ウシオはソウタのやや右後ろに正座で腰を下ろした。
「朝早くから会談の場を設けて頂きありがとうございます。重ねて、ご迷惑をお掛けし申し訳ありません」
ソウタが良い姿勢で長へ一礼すると、早速周囲の森人達から怒号のような野次が飛んできた。
「ガルドに勝ったなんぞ信じられん!」
「どうせ汚い手でも使ったんだろう!」
「それは……俺が汚い手に引っ掛かって負けて日和った腰抜け、と言ってんのか?」
ソウタ達の後方から様子を窺っていたガルドが野次を飛ばした森人を鋭く睨み付けるとたちまち周りを取り囲んでいた森人達は一様に口をつぐんだ。
場が静まり返るとそれを待っていたかのように、今度は長がソウタへと穏やかに語り掛けた。
「さて、まずはガルドの事をお詫びせねばなりませんな。昔から儂の手にも余るやんちゃ小僧での、申し訳ない」
「お詫びの必要はありません。例え害意がなくとも我々の所為で怪我人が出た事実に変わりはありません。もしお許しを頂けるのであれば、怪我の治療の一助となりたいと考えています」
頭を下げようとする長を制止しソウタが精一杯の誠意を伝えようとしていると、長はチラリとガルドに視線を送った。
「……ほぼ衰弱しきっていた連中が驚くほど回復していた。何かあるんだろ」
ガルドの返答を聞き長はふむ、と立派な顎髭をひと撫ですると再び老人とは思えない力強い視線をソウタに向けた。
「それが本題ですかな?」
「いえ、本題は他にあります」
ソウタも負けじと力強く長を見据え、小さく深呼吸すると意を決して切り出した。
「ボク達が帰還方法を見つけて戻って来るまでの間、地下牢にいた彼らをここに滞在させては頂けないでしょうか」
言い終わるとソウタの発言から一呼吸の間を置いて、周囲の森人達から激しい怒声が沸き起こった。
「あり得ん、我らを馬鹿にしているッ!」
「やはりこの聖域を狙っているのだ! 今すぐ八つ裂きにすべきだッ!?」
「ガルド! こんな奴らを手引するとは気でも狂ったのかッ!」
周りを取り囲む森人達が剣を抜き、矢を番え弓を引き絞り、今にも襲い掛かろうかという激情渦巻く中……ソウタはピクリとも微動だにせず、瞬き一つせず真っ直ぐに長の目を見つめ続けていた。
「……わからんのぅ、ガルドに勝ったというお前さんならばともかく彼らを残して……儂らが彼らを殺すとは考えんのか?」
長から殺意や敵意のオーラは出ていなかった。しかしその眼光は獰猛な獣のそれを思わせる圧と迫力があった。
荒ぶる森人達に囲まれながらもソウタはあえて淡々と言葉を紡いでいった。
「……何故、あなた方が彼らを殺さず、あえて地下牢に捕らえていたのかを考えていました。優しさや、まして殺せない訳では無い。白団子との戦闘もあり、負傷者も出ている事から十分敵と認識されていたはず。ガルドもボクを本気で殺すつもりでした。それでも殺さず、彼らを地下牢に囚えるに留めた」
周りの森人達の荒ぶった怒りのオーラは未だ静まってはいなかった……しかし場はしん――と張り詰めた静寂に満たされ、いつの間にか誰もがソウタのペースに乗せられていた。
「初め……星空から来たと伝えた際、ガルドは貴方への報告に一度下がりました。侵入者をその場に置いて、貴方の指示を仰いだ。ここからはボクの勝手な推測に過ぎませんが、あなた方は……」
ソウタは一瞬の間を置いて勿体つけると、これまで殆ど変化の見られなかった長のオーラの微かな揺らぎを見つめながら核心に迫った。
「〝誰か〟の訪れを待っているのではありませんか? 例えば……『神吏者』――」
その瞬間、あれだけの激情が渦巻いていた場の空気は風に吹き飛ばされたかのように掻き消え、長のオーラが確かな動揺をソウタに告げていた。
「ふっ……はっはっはっはっはっは! 俺は何も教えていないぞ、そいつの洞察力の
ガルドが高笑いをしてみせると長の髭を撫でる手は小刻みに震えながら徐々に上がっていき、やがて口を押さえながらソウタに疑問を投げ掛けてきた。
「……それだけで辿り着けるものでもなかろうて……一体どうして……」
初めて
「ボクの目は生き物の持つ生命エネルギー、気の流れを捉える事が出来ます。その変化から感情の機微や嘘なども分かります、黙っていて申し訳ありませんでした」
ソウタが深々と頭を下げ謝罪を述べると、長は細く長いため息を吐いて周りの森人達を座らせ改めてその真意を問うた。
「その事と、お仲間をここに残していく事、どう繋がるのですかな?」
顔を上げたソウタは
「帰還方法について、あなたが何かを知っている……この目の力でそれは分かりました。ですが……今それを聞いても意味はないのでしょう、無理に聞き出す事にも」
帰せるなら帰しているでしょうし、と付け加えるとソウタは姿勢を正し、長の目を真っ直ぐに見据えて交渉に入った。
「なので、ボクが『神吏者』を探してきます。その間、彼らの滞在をお許し頂きたい」
その信じがたい発言にその場にいた全員が驚愕に慄き、あまりにもな提案に長は丸まった背筋が伸び今にも後ろに倒れそうになっていた。
「さ、探す……? あの話はお伽噺……本当に居るかどうかも分からんものを、探すと仰るのか……?」
長の言い分はもっともであった……しかしソウタは今更です、と鼻で笑い穏やかに微笑んでみせた。
「あなた方が信じているのならそれで十分です。あるかどうかも分からない帰還方法を探すのですから、探しものが一つ増えた所で大した違いはありません」
それに、と付け加えるとソウタは緩んだ表情を引き締め、真剣な眼差しで続けた。
「もし、お伽噺で語られるような『神吏者』が本当に居るのなら、帰還方法を知っているかもしれない。最初の手掛かりとしては出来すぎなくらいです。うちの隊員達の扱いも特別扱いして頂く必要はありません、お好きなようにこき使って下さい」
無理なら無理で構いません、如何でしょうか? とソウタは穏やかでいて真剣な表情で長へと返答を求めた。
震えて口を押さえていた手は再びゆるりと髭を撫でる手に戻り、長は一分ほど目を閉じて熟考したのち、スッと顔を上げソウタの目を見て静かに口を開いた。
「……我らの手の内は明かせぬが……それでも良いのか?」
「勿論構いません、連れて行くよりはずっと気が楽になります。お許しを頂く為の、こちらから提示できる交換条件です」
長はため息と共に再び俯き沈黙した。長には伺いしれない葛藤があるようで、揺れ動くオーラがそれを
張り詰めた沈黙が続き、しばらくして意を決した長が顔を上げると。
「……わかった、滞在を許そう……ただし!」
ただしじゃ、と一つ間を置くと長は眼光鋭く追加の条件を提示してきた。
「滞在を許すだけじゃ。常に見張りを付け、森を自由には歩かせん。住居はお主らの荷を置いていた崩れた小屋のみ。水も食料も自分らでどうにかして貰う」
「……コンテナ、あー……我々の乗ってきた大きな金属の塊を、その小屋の近くに置かせて頂く事はお許し頂けますか?」
決して森を傷つけぬのなら、という事を条件に、ソウタと長の交渉は一応の成立を見た。
ソウタもフゥと一息吐くとウシオと一緒に長へ感謝の一礼をし、後方に立つガルドにコンテナまでの付き添いを頼むと再び長へ一礼して早々に帰路についた。
建物を出ると後ろからガヤガヤと森人達の騒がしい話し声が聞こえてきたものの、ソウタ達は気にする事なく集落を後にした。
帰り道の途中、森の中を歩きながらソウタは結局長から返答を貰えなかった怪我人の治療についてガルドに尋ねた。
「ガルド、結局怪我人の治療は必要ないんでしょうか?」
少し前を歩いていたガルドは肩越しにソウタを一瞥し、視線を前に戻して歩き続けたまま答えを返した。
「俺達は自分達の事は自分達でする、他人の手は借りない。これまでずっとそうしてきたと爺共からも聞いてる」
だからこそ、とガルドの声が続くとおもむろに振り返ったガルドの口元には笑みが浮かんでいた。
「爺があの条件を飲んだのには驚いた。大したやつだ、お前は」
ガルドからの突然の称賛にソウタは一瞬ギョッとしながらもすぐに微笑んで素直に感謝を述べた。
するとガルドは前を向いて歩き続けたままソウタに疑問を投げ掛けてきた。
「連中を殺さなかった事と俺が一回引いた事、本当にそれだけでわかったのか? 俺達が『神吏者』を待っていると」
突然の問いにそうですね……、とソウタはやや考え込むと記憶を振り返りながら問いの答えを探した。
「他にもあると言えばあります。例えば地下牢や広場、荷物が置かれていた小屋は、どれも同じ綺麗に切り出された乳白色の石材で造られていました」
「石材……? それが何だ?」
ガルドはハテナを浮かべて振り返り続きを急かした。
「ガルド達の集落にはその白い石材が一つも見当たりませんでした。あなた方以外の存在を感じさせます」
後は長のお爺さんの反応ですね、とソウタは長から感じ取った違和感の事を説明として続けた。
「初めて『神吏者』の話をした時のお爺さんの気は、嘘をついた時に似た妙な反応をしていました。あとは推測と勘で適当にカマをかけて」
「はっ! 見抜いたわけではなかったのか、いい度胸をしてる」
ガルドは呆れた様子で笑っていた。ソウタとウシオはその後ろを着いて歩きながら、ふと見上げると木々の隙間から覗く空はすっかりと眩しい朝を迎えていた。
枝葉の合間を縫って注ぐ光の筋に目を細め、ソウタは早朝の静かな森林浴に晴れ晴れとした心地よさを感じるのであった。
再びコンテナの所まで帰ってくるとそこは依然として死屍累々……もとい夢の中の隊員達が倒れ伏しているままであった。
ソウタは彼らを叩き起こし、簡単に事情を説明して昨日の崩れた小屋まで戻ると告げ、急ぎ荷物をまとめさせた。
コンテナは隠しておいた依代を使い人形で包み込むとたちまち足の短い象のような姿となり、のしのしと小屋を目指して自走を始めた。
「……お前の人形は何でもありだな」
呆れているガルドを尻目にソウタ達は全員でゆっくりと緩やかに朝のハイキングを楽しみ、何故か二日酔いのサラリーマンのようにグロッキーな隊員達に
象、ではなくコンテナは日の当たる小屋の前に腰を下ろすとシュルシュルと短い足を引っ込め、小さな紙切れの状態で再びコンテナの中へと隠れていった。
「ベッキー、この依代は置いていきます。ベッキーの指示に従うようにしておきますので有事の際は使って下さい」
「――……んー有事がない事を祈るよーありがとー」
昨日とは一転やけにテンションの低いレベッカを不思議に思いつつ、ソウタは隊員達を呼び集めるとここでの生活のルール等をガルドに確認を取りながら言って聞かせた。
「彼らの警戒心は一筋縄では解けないでしょう。焦らず時間を掛けて、ゆっくり進めて下さい」
隊員達はやる気に満ちた力強い返事をしてみせた。ソウタ達が気兼ねなく旅立てるように……ソウタもその心遣いをオーラから汲み取り、出立前最後の言葉を送った。
「必ずと、お約束するべきなのかどうか迷います。この世界に何が待っているのか、我々は何も知りません。存在も定かではないものを探して、何も分からない場所へと進まなければならない。しかし我々は、ここにいる我々は、既にそれを一度経験しています。『ナニカ』へと飛び込む前に、我々は既に覚悟を決めている。だからあえて、お約束します。必ず見つけて戻ってくると……待っていて下さい」
ソウタが穏やかに微笑んで見せると、昨日からずっと泣きっぱなしの隊員達も、そしてレベッカも、涙を呑んでソウタ達を送り出した。
「六ヶ月と言わず何ヶ月でも、何年でも、いつまででも待ち続けます……!」
「――たまには……連絡ちょうだいよね、バッテリーなくなったって待ってるから……っ」
温かい
「それでは、行ってきます」
そう言うとソウタはみなに背を向け、ウシオと共にいつの間にか離れて見ていたガルドの元へ歩み寄った。
「随分あっさりだな、何も持たなくて良いのか?」
「はい、問題ありません」
ソウタが朗らかに頷いて見せるとガルドは外まで案内してやる、と言ってまた前を歩き始め、ソウタとウシオもすぐにその後に続いた。
みなの声援に背中を押され、しっかりとした足取りで突き進んでいくソウタの袖口からは何やら白くて細くて長い、ツヤツヤモチモチとした柔らかそうな紐状の物体が垂れ下がり地面を這って隊員達のいる方へと続いていた。
みながそれを目で辿っていくと隊員達の一番後ろで気配を消していた秘書の足首に巻き付いており、直後――ですよねー、と溢れる涙で軌跡を描きながら軽々と宙を舞う秘書の悲痛な叫び声が、青々と茂る鬱蒼とした森の爽やかな朝に彩りを加えるのであった。
ソウタの人形によって
まだそれほど長時間歩き続けている訳ではなかったものの連なる山に切れ目はなく、一体どこから出るのかとソウタがガルドに尋ねてみると。
「もう少し先に外に抜ける横穴がある。侵入を防ぐ為に中は整えてないが……お前らなら問題ないだろ」
はい、とソウタが小さく頷くとガルドは外の事を少しだけ教えてくれた。
「俺もあまり詳しい訳ではないが、外に出たら『まじゅう』に気を付けろ」
「まじゅう……魔獣ですか?」
ガルドは肩越しにソウタへ頷いてみせると爺共から聞いた話だが、と前置きを置いて話を続けた。
「この島にはいないが、外には魔獣ってのがいるそうだ。中には巨大な化け物みたいなのもいると聞いた」
「魔獣……(魔が付けられて認識したという事は、ただの獣とは違うという事か……)」
ソウタは何故か獲得していた翻訳の法則を意識しながらガルドの言葉をゆっくりと噛み砕いていった。
その時、ふと思い浮かんだ率直な疑問をソウタはガルドへぶつけてみた。
「……ガルド、『龍』というものを知っていますか?」
りゅう……? とガルドはしばし思案に黙ると、やがて振り返りはっきりと答えた。
「知らんな、爺共から聞いた記憶もない。生き物か?」
ソウタはおもむろに一枚の依代を取り出し人形を巧みに操ると、角と髭を持ち鱗で覆われた細長い姿で空を翔ける厳かな龍をかたどり、説明しながらガルドに見せた。
「これが龍って奴か……やはり知らんな。ウミヘビとは違うのか? お前らの世界にはこんなのがいるのか」
「いえ、我々の世界でもこれは空想上の生き物です、実在はしません」
龍をかたどった人形を袖にしまうとガルドは再び考え込み、呟くようにある事を話してくれた。
「羽もなしに飛ぶ奴は知らんが、羽の生えたトカゲならよく見かけるな」
その話にソウタが興味を示すとガルドは羽の生えたトカゲの事を更に詳しく教えてくれた。
「漁で海に出る時、遠くでウジャウジャと飛んでるのをよく見る。いつもいるから多分今日も見えるぞ」
「ウジャウジャ……外に一つ楽しみが出来ました。というか、漁に出るんですね」
漁と畑が俺達の糧だ、とガルドはソウタの素朴な呟きにもすぐに答えをくれた。
そうこうしているとやがて横穴……というよりはほぼ亀裂のような隙間に到着した。
人がやっと一人通れるかという狭い隙間を抜け横穴の中に入ると中は当然のように真っ暗で、入り口から差し込む僅かな光を頼りに目を凝らすと自然そのままの道なき道が奥深くまで続いていた。
「本当に全く整えられてませんね、完全に天然の洞窟……」
岩石は生き物ではない……しかし微弱ではあるものの大地や岩にもオーラは微かに流れていた。明るい場所ではほぼ見えないが暗闇の中であればソウタの目はその微かな情報を捉える事が出来た。
そんな真っ暗闇の中を慣れているのか、明かりもないままヒョイヒョイと難なく進んでいくガルドに置いて行かれないようソウタ達も軽々と自然の障害物を乗り越えていった。
秘書は相変わらずソウタに引きずられたままあちこちにぶつかっていたが、体を縛る人形がクッションになるようでゴムボールのようによく弾んでいた。
自然に出来た横穴が親切に真っ直ぐ外へ繋がっているはずもなく……右へ左へ上へ下へとやや下り気味の迷路のように進んでいくと、やがて潮の香りと共にようやく外の明かりが見えてきた。
洞窟の出口付近にはやや開けたスペースがあり、その片隅の暗がりに目を向けると何やらゴチャゴチャと沢山の物が積まれているのが見えた。
「いたぞ、羽トカゲ」
一足早く外を眺めていたガルドの声を聞き隣に立って指の示す先を見ると、遥か遠く――あまりに遠すぎてもはや霞んで見える水平線の彼方に点々とした小さな影が見えた。水平線の上にちょこんと飛び出た小さな岩山の上を旋回しているようである。
「……確かに何となく羽ばたいてるのが見えますけど……目いいですね、ガルド」
あんなに遠くては流石に何も分からない。目の良すぎるガルドにやや呆れたソウタは気を取り直して視野を広げ景色を見渡してみた。
視界を埋めるのは青い海、青い空、白い雲……それ以外のものは何もない、極めてシンプルな絶景であった。
足元に目を落とすと目の前はすぐに切り立った崖になっており二十メートルほど下に海面がある。
爽やかに吹き抜けていく潮風が漠然とした不安を吹き飛ばし、ソウタの期待を大きく膨らませてくれていた。
「中々いい眺めだろう、漁に出る者の特権だ」
絶景に見とれていたソウタにそう声を掛けてきたガルドはどこか誇らしげであった。二人の傍らでウシオもミノムシ秘書も気持ちよさそうに景色を楽しんでいた。
「海を見ていると不思議と穏やかな気持ちになります、良い所ですね」
肺いっぱいに潮風を取り込み、思う存分に異世界の眺望を楽しむとソウタはおもむろに洞窟の方を振り返り気になっていた事をガルドに尋ねた。
「ところでガルド、あそこに積まれているものはなんですか?」
ソウタが指差した先にあったのは洞窟を入ってすぐの開けたスペースの片隅に乱雑に積まれたガラクタの山であった。
船のマストのような大きな丸太から小枝や板の破片にボロ布、錆びた鎖や鉄くず等大小さまざまなガラクタがごちゃっと捨てられているように見えた。
「あれは流れ着いたもんとか、近くを漂流してたもんとか、色々だ」
そう言いながらガラクタの方へ歩いていくガルドにソウタも着いていった。
「使えそうなもんはそのまま集落まで運んだりもするが、でかいのはここでバラしてからだ。あとは大体ゴミだな」
「集落の木材はこういう所から集めたんですね…………あの……これも、流れ着いたゴミですか……?」
ガラクタの山を見ていたソウタが見つけ指差したのは白骨化した人間の遺体だった。
「言っとくが最初からその状態だったからな、俺達が殺したわけじゃねぇ」
ソウタがガルドの弁明を聞いているとそこへウシオがあるものを見つけ声を掛けてきた。
「ソウタ、大きな剣もありますよ」
そう言ってウシオが見つめていたのはいくつもの丸太の中に紛れ横たえられたソウタの身長の倍ほどもある綺麗な大剣であった。
「あれもゴミなんですか? 大して錆びついてもいないし、全然使えそうですけど」
「漂流してた小舟にこいつだけ乗ってた、ゴミだ。デカすぎて森の中じゃ使えない、木々を傷付ける」
あと重すぎる、とガルドがここまで引き上げた際の苦労話を語り始めるとソウタはそれを聞き流し、いくつかのガラクタを見つめながら何やら考え込んでいた。
しばらくするとソウタはガルドの話を遮り、不敵な笑みを浮かべながらいくつか貰っても良いかとガルドへ尋ねた。
五分程してソウタ達が再び洞窟から出てくると、先に外で待っていたガルドは驚いた様子で口元をほころばせた。
「そういう事も出来るのか……面白い力だ……それも持っていくのか?」
そう尋ねたガルドが見ていたのはソウタが両手に抱えていたあの遺体の骨であった。
「いえ、放置するのも忍びないので弔おうかと思ったのですが……いいですか?」
ソウタの問い掛けにガルドは好きにしろ、とぶっきらぼうに告げた。
許可を得て集めた骨を散らばらないように人形化したボロ布で包み込むとソウタはそれを目の前の海へと放り投げた。
着水と同時にボロ布の人形化を解き、ゆっくりと青に沈んでいく白い骨に両手を合わせ目を閉じて祈りを捧げる……少ししてソウタ達が目を開け手を下ろすと異世界の供養の仕方を眺めていたガルドが不思議そうに口を開いた。
「……終わりか?」
「はい」
弔い方もあっさりしてるんだな、と呟くガルドにそうですねと微笑むとソウタはガルドの方へ向き直り姿勢を正した。
「では、短い間でしたがお世話になりました、長のお爺さんにも宜しくお伝え下さい。それと……差し出がましいですが残していく彼らの事、よろしくお願いします」
ソウタが深々と頭を下げるとウシオと秘書も後に続いて深く頭を下げた。
ガルド達と出会ってからまだ丸一日と経っておらず、決して良い関係を築けたとは言えないもののそれでも、真っ向からぶつかり合い一戦交えた相手としてソウタはガルドへ一定の信頼を寄せていた。
「森での掟は絶対だ、破れば誰であろうとただではおかない……が」
仏頂面で答えたガルドはおもむろに剣を抜き放つとソウタの鼻先へ突きつけながら更にこう続けた。
「どこぞでくたばってくれるなよ、必ず戻ってもう一度俺と勝負しろ。次は俺が勝つ……それまで多少は気に掛けてやる」
ガルドの不器用な男気にソウタは笑みを浮かべるとしっかりと目を見て頷き、固く誓いを立てた。
聖域の森の番人ガルドに見送られながら、ソウタ達は大きな鳥人形の背に乗って力強く異世界の空へと飛び立った。
島とガルド、そして星空を湛えた巨大樹を眺めながら……徐々に島から遠ざかっていった、その時――突然視界からそれらがフッと音もなく一瞬で消え去ってしまい、ソウタ達は驚愕し目を見開いた。
外から見えない結界が張られているとでも言うのか……大陸と形容して差し支えない大きな島は巨大樹もろとも文字通り影も形も無くなってしまっていた。
地球では考えられない、その存在や事象全てが物語る異世界というスケールの大きさにソウタは改めて息を呑んだ。
未知の存在……未知の現象……何も知らないこの世界で、いくつもの約束と誓いを果たす為、何処にあるかも分からぬ物を探し求めて白い翼はまだ見ぬ空を翔けていく。
不安と期待を胸に、ソウタ達三人の異世界の旅が、こうして始まるのであった――
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