断罪を「ざまぁ」と呼ぶのですか? ではわたくしが「ざまぁ」をして差し上げましょう!

久遠れん

断罪を「ざまぁ」と呼ぶのですか? ではわたくしが「ざまぁ」をして差し上げましょう!

『残念だ、ベアトリーチェ』

『お待ちください! わたくしは――』


 長年の婚約者だったロベール様に捨てられた。

 彼は魔法学園で出会った平民に夢中で、わたくしを顧みてはくれなかった。


 魔法学園のパーティー会場で、わたくしがやったという身に覚えのない罪の数々を断罪された。


 曰く「ジェーン様を階段から突き落とした」「ジェーン様の教科書を破って捨てた」「ジェーン様につらく当たり、陰湿ないじめをした」という内容だ。


 全く心当たりなかったわけではなく、確かに平民のジェーン様に話しかけられたのを無視したりはしたかもしれないけれど、どれもこれもとても誇張された内容だった。


 ジェーン様が私とすれ違った際に足を滑らせて階段から落ちたことはある。

 でも、わたくしのせいではない。


 教科書がないと騒いでいたのも記憶にある。

 やっぱり、わたくしはなにもしていない。


 つらく当たって、陰湿ないじめをした。

 そんな暇があれば、将来王族になるためのマナーの勉強をしていたわ。


 でも、味方は誰もいなかった。ロベール様の一存で、婚約破棄と王都からの追放が決まって、崩れ落ちたわたくしの耳元で、ジェーン様が囁いたのだ。


『ざまぁ』


 あの瞬間の、煮えたぎるような憎しみを、忘れはしない。




▽▲▽▲▽




 ぱち、と目を覚ます。意識が覚醒して、どこかもわからない辺境の村での朝だと気落ちして身体を起こしたわたくしは、見慣れたベッドを見つけて目を瞬かせた。


「……?」


 右を見て、左を見て、上を見る。

 どう見ても、公爵家のわたくしの自室だ。どういうことだろうと混乱していると、扉をノックされる。


「失礼いたします。お嬢様、おはようございます」


 深々と頭を下げたのはわたくし付きのメイド。

 彼女が朝の支度に訪れるなんて、何が起こっているのか。辺境に追放されたときに、全ての地位は取り上げられたのに。


 唖然としていると、メイドはカーテンを開ける。

 差し込む朝日が眩しくて目を細めたわたくしは、夢でも見ているのだろうかと思った。けれど、夢ではありえない。


 全ての質感があまりにリアルだ。


(なにが起こっていますの……?)


 そこまで考えて、はたと気づく。

 わたくしは朝の支度をすすめるメイドに問いかけた。


「今日の日付はいつでしたかしら」

「本日は――」


 そうして告げられた日付に、驚愕する。

 このメイドがわたくしをからかっているのではないのであれば、時間が巻き戻っている。


 断罪される半年前だ。

 にわかには信じがたいけれど、失った全てが揃っている環境が事実だと告げている。


 それなら、とわたくしはシーツを握りしめる。


(今度こそ、なにも失いませんわ)


 覚悟を瞳に宿して、まっすぐに前を向いた。




▽▲▽▲▽




(あの時囁かれた「ざまぁ」というは、「ざまぁみろ」の略でしょうね)


 朝食を懐かしい父と母と一緒に摂りながら思考する。

 追放されたあとはろくに考え事もできなかった。温かいベッドと食事は偉大だ。


(ジェーン様が入学して三か月、すでにわたくしの味方はいない)


 頭の中で状況を整理する。

 婚約者のロベール様はすでにジェーン様に骨抜きだ。


 彼といつも一緒にいる代々騎士団長を輩出するペリシエ家のジャン様も、優秀な魔法使いになると目されているルドー様も、金に物を言わせて父君が貴族の位を購入したティノ様も、みんなジェーン様の側についている。


 この頃のわたくしは徐々に孤立し始めていた。けれど、下手に執着するから失敗したのだ。

 こちらを顧みない婚約者やその取り巻きなんて、捨ててしまえばいい。


(ロベール様と距離を置く。婚約の解消はこちらからでは難しいけれど、興味がないとアピールしなければ)


 第三王子であるロベール様と公爵令嬢のわたくしの婚約は政治が絡んでいる。

 わたくしの一存で婚約の破棄はできない。


(取り巻きのジャン様、ルドー様、ティノ様は縁を切っても支障はありませんね)


 彼らはそれぞれが将来有望と目されているが、縁を切ったからと人生を左右するほどではない。

 そもそも、このままならロベールとの婚約もなくなるのだから、かかわる意味もなかった。


 食べながら思考をまとめて、席を立つ。

 父も母も、嫌いではないのだが、追放されたときに庇ってはくれなかった。つまり、そういうことだ。


(わたくしは第三王子の婚約者、という政治的駒でしかなかったのです)


 悲しいけれど、それが現実だった。父とも母とも心の中で決別し、表情を引き締める。


(学園はわたくしにとっての戦場ですが、今度こそ負けませんわ)


 戦地に赴く騎士のような気持ちで、学園に登園するための馬車に向かうのだった。






「おはようございます」


 学園の前に止めた馬車から降りて、ちょうど通りかかった女子生徒に挨拶をする。

 わたくしが声をかけると、少し驚いたように足を止めたけれど、スカートのすそをつまんで綺麗なカーテシーを返してくれた。


「おはようございます、ベアトリーチェ様」


 返ってきた挨拶ににこりと微笑む。前回の失敗は、味方がいなかったことだ。


 公爵令嬢という地位にプライドをもって、あまり学友を作らなかった。それが敗因だというのなら、プライドなど投げ捨てて、友人を作ろうと決めたのだ。


 教室に着くまでに通り過ぎた生徒たちに男女関係なく、愛想よく挨拶をしていく。


 普段、わたくしがそういうことをしないからか、生徒たちは大なり小なり驚いていた。それでもきちんと返事を返してくれたことに安堵する。


(まだジェーン様も一般の生徒まで根回しはできていないようね)


 ならば、彼女が手を回してしまう前に、こちら側の味方につけなければならない。


 教室に入ると、一瞬しん、と静まり返る。気にせず宛てがわれている席に着く。

 教室ではジェーン様を囲んでロベール様たちが鼻の下を伸ばしていた。

 以前は苛々したけれど、いまのわたくしはその境地は脱したのだ。


 わたくしは本を取り出して、読書を始めた。興味がないとアピールするためだ。

 本当は直接関わりを失くすと断言したいけれど、仮にも第三王子相手にそんな手は取れない。わたくしから話しかける機会をゼロにするしかなかった。


(絶望するわたくしに「ざまぁ」などと口にしたのですから、今度はわたくしが「ざまぁ」と口にして差し上げます)


 視界にちらちらと入るジェーン様の姿を脳裏に思い描きながら、心の中で宣戦布告をする。

 今度は間違えない。冤罪での断罪など、させはしない。






 ジェーン様の毒牙にかかっているのは、ロベール様たちだけではないようだった。


 クラスの男子生徒は総じてジェーン様を気にしている。

 ならば、とわたくしは彼らの婚約者である女子生徒たちに声をかけていった。


 婚約者が構ってくれないと嘆く姿は胸が痛くなる。かつてのわたくしもそうだったから。

 彼女たちを慰め、話を聞いて、味方に取り込んでいく。


 少しずつ味方になってくれそうな学友を増やしていたころ、一人の地味な男子生徒が放課後の廊下でわたくしに話しかけてきた。


「すみません、少し、いいですか……?」


 前髪が目元までかかっているし、分厚い眼鏡をかけているから表情がわからない。

 気弱そうな言葉遣いも相まって、貴族らしくなかった。


 クラスメイトのような気がするけれど、名前が思い出せない。

 頭に霞がかかったように、記憶がぼんやりとする。


 以前なら無視をしたかもしれないが、いまは些細な戦力でも一人でも多く欲しかった。

 なので、これまた愛想よく笑顔を浮かべて応じる。


「はい、どうされたのです?」


 にこりと微笑む。西日が差し込んでいて、少し眩しい。

 目を細めたわたくしの前で、男子生徒の姿が揺らいで見えた。二重にダブって見える人影に、少しだけ眉を潜める。


(なにかしら。魔法……?)


 だが、学園内では無意味な魔法の行使は禁じられている。

 違和感を覚えつつ、わたくしはそっと視線を逸らす。


「話がしたいんです。そうですね……裏庭のガゼボなどどうですか?」

「大丈夫ですよ。そちらに参りましょう」


 人目を避けた話がしたいのだと察して、一つ頷く。ガゼボに向かう道中に会話はなかった。

 けれど、沈黙を居心地が悪いとも思えない。不思議な雰囲気を纏っている。


 裏庭のガゼボについて、椅子に腰を下ろすと、男子生徒もまた座った。

 すっと足を組んで膝の上で手を組んだのをみて、見た目に似合わない行動をとる、と思ってしまう。


 そして、やっぱり。どこか違和感が残る姿に、目を細める。

 聞いてしまってもいいかしら。


「見当違いなことを言ってしまったら、ごめんなさいね。貴方、魔法を使っていないかしら?」

「魔法、ですか?」

「ええ。そうね――姿を偽る、あるいは記憶に残りづらくする、そんな魔法を」


 わたくしが慎重に口にすると、ぱち、と瞬きをした男子生徒が、一拍おいてけらけらと笑いだす。


「ははは! 見破られたのは初めてだ。素養が高いという話は本当だったんだな」


 片手で眼鏡をはずし、長い前髪を後ろにかき上げる。

 その姿は、自信に満ちた表情と合わさって、先ほどまでとは完全に別人だ。


「認識阻害の魔法だ。僕を僕だとわからなくする。君には解いてあげよう」


 ぱちん、と指を鳴らした彼の、わたくしの目に映っている姿が変わる。

 髪の色と目の色が変化した。


「――失礼いたしました」


 さっと立ち上がって、カーテシーをする。目の前にいるのは一介の生徒ではない。

 隣国の王太子、ステファン・ロシュフォール様だ。


 以前、王宮で開かれた夜会でお目にかかったことがある。

 頭を下げたわたくしに、鷹揚に彼が笑う。


「気構えないでくれ」

「ありがとうございます」


 許可を得て頭を上げる。椅子を示されて、再び腰を下ろした。

 ステファン様は穏やかに微笑まれているけれど、その瞳の奥にはわたくしを品定めしている色がある。


「面倒な前置きは省こう。君はジェーン嬢をどう思っている?」

「どう、とは?」


 あえて少しだけはぐらかす。首を軽く傾げたわたくしに、ステファン様が笑みを深めた。


「君の行動は、まるで彼女に対抗しうる人脈を作っているようだ、と思ったんだ」


 見抜かれている。ならば、誤魔化すだけ悪手だ。浅く息を吐き出して、彼をまっすぐに見つめる。


「わたくしの婚約者はロベール様ですが、あの方が彼女に夢中な以上、いずれなんらかの波紋が広がります。その際に、後手に回らないようにするためですわ」


 全てを話すことはできない。未来の記憶があるなんて、気が触れたと思われてしまうあから。

 だから、わたくしが考えていてもおかしくない理由を並べる。


「なるほど。危機察知能力が高い。好印象だ」

「ありがとうございます」


 いったいなにを期待されているのかわからないけれど、認められるのは嬉しい。

 小さく微笑んだわたくしに、ステファン様が真剣な面差しで告げる。


「彼女を追い詰めるなら、協力したい」

「と、いいますと?」

「彼女は、違法な薬物を使っている可能性がある」


 静かに告げられた言葉に、さすがのわたくしも息を飲んだ。




▽▲▽▲▽




 半年が過ぎ、とうとうわたくしが断罪されたパーティーが開かれる日となった。


 この半年、わたくしからロベール様たちには一切話しかけなかった。

 向こうもジェーン様に夢中でわたくしのことなど気にかけていなかったから、会話は一切なかった。


 エスコートはステファン様にお願いした。

 彼は「普段の僕は、目立たない一生徒だけどいいのかい?」と口にしたけれど、「構いませんわ」と伝えてエスコートをしてもらった。


 パーティー会場に入った際には公爵令嬢のわたくしをエスコートしているのが、皆の記憶に残らないような男子生徒であることにざわめきが起こったけれど、いまさら気にすることでもない。


 わたくしのあとからジェーン様をエスコートしたロベール様が入場する。

 得意げに胸を張っているジェーン様が身に着けているドレスやアクセサリーは、明らかに高級な品で、平民の彼女が手に入れられるはずがないものだった。


 きっと、ロベール様から贈られたのだろう。

 以前は嫉妬をしたけれど、いまのわたくしにそんな感情はない。

 

 ただ、凪いだように静かな心で、愚かだな、と思うだけ。

 国のお金を、一人の平民に注ぎ込むなんて。

 民が知ったらどう思うのか、考えられないほど恋に盲目になっているのだろう。


「ふん、ベアトリーチェ、ずいぶんと惨めだな」


 わたくしの横を通り過ぎたロベール様が吐き捨てるように言う。

 表情を変えずにいると、ちっと舌打ちをされる。


 悲しいとは、思わないけれど。

 どうしてこんな風になってしまったのだろうと、虚無感はある。


「大丈夫かい?」

「はい」


 気にかけてもらえるのが嬉しい。にこりと微笑むと、軽快な音楽が流れだした。

 わたくしはステファン様のエスコートでダンスを踊る。

 叩き込まれたステップは、いつも以上に軽やかに踊れた。ステファン様のエスコートが上手いのだ。


「ダンス、お上手なんですね」

「まぁね、これでも一応」


 王太子だから。囁くように告げられて、少し笑ってしまう。

 ロベール様はダンスが苦手だったから、その差もあるのかもしれないけれど、それにしたって迷いないステップで踊りやすい。


 一曲を踊り終えて、中央からはけると、ロベール様とジェーン様、そして取り巻きのジャン様、ルドー様、ティノ様が近づいてくる。


 ああ、きた。これから断罪が行われる。

 ただで断罪されてやるつもりはないけれど。


「ベアトリーチェ! 私はお前の罪を糾弾する!!」


 ほらきた。わたくしはすっと目を細めた。周囲が何事だとざわつきだす。

 得意げなロベール様の隣では、ジェーン様が勝ち誇ったように笑っていた。


「罪の糾弾? わたくしが一体何をしたというのです?」


 落ち着いて答える。声が震えていないのを確認し、ほっとした。


「お前はジェーンに陰湿ないじめを繰り返しているだろう!」

「私、ベアトリーチェ様に階段から突き落とされたんです!」


 記憶にあるとおりだ。私は用意していた言葉を吐き出す。


「目撃者はいるのですか? でなければ、その言葉は公爵令嬢たるわたくしへの侮辱です」

「目撃者はいるわ! ねぇ!」


 ジェーン様が周囲を見回す。以前は女子生徒が同調した。けれど、今回は。

 しん、と静まり返った空気にジェーン様が「どうして! みんな見てたでしょ!!」と声上げた。


「……みていましたけど、あれはジェーン様が勝手に足を滑らせたのでは……」

「私にもそう見えました。ベアトリーチェ様は手を伸ばされていましたし」


 小声だけれど、確かに異論が上がる。ジェーン様は目を見開き唇を噛みしめた。

 残念ね、貴方がお金で買収した生徒を、どうしてわたくしが買収できないと思っているのかしら。


 内心でほくそ笑むわたくしの前で、さらに虚偽の罪が重ねられる。


「私の教科書を破って捨てたわ!」

「そちらも、目撃者は?」


 再び静かに問い返す。わたくしの言葉にまた周囲がざわめいた。


「ベアトリーチェ様がそんなことをするとは思えないわ」


 そうね、そうよ、と声が上がる。

 顔を赤くしたジェーン様は別方面からわたくしを責めることにしたようだ。


「嫌がるロベール様に無理やり言い寄って!」

「もう半年は口をきいておりません」

「ジャン様とルドー様とティノ様にみだらな真似を!」

「それは貴女のほうではなくて? 部屋に誘われたのよね? 三人とも」

「なっ!」


 味方になってくれた女子生徒が教えてくれたのだ。

 わたくしの指摘にロベール様が背後に控えている三人へと振り返る。

 それぞれ気まずそうに視線をそらした。それが答えた。


「遊びはそこまでだ」


 凛とした声が場に割って入る。

 地味な分厚い眼鏡をかけているステファン様の横入りに、不快そうにロベール様が眉を顰めた。


「なんだお前は!」

「気づかないのか。ベアトリーチェ嬢のほうが、よほど才能がある」


 そう告げてパチンと指を鳴らす。いまの行動で、きっと皆の目にもステファン様がしっかりと映っただろう。

 案の定、ロベール様が「なっ!」と驚愕の声を上げる。


「ステファン!!」

「お前に呼び捨てにされるいわれはない」


 歓声を上げたのはジェーン様だけだ。

 それにしても彼女はどこでステファン様の顔と名前を知ったのだろう。


 学園では偽名を名乗られているはずなのに。

 疑心を抱いていると、わたくしを庇うようにステファン様が一歩前に出る。


「私はジェーン・マシアス、君を告発する」


 落ち着いているけれど、力のある声だ。

 皆の注目を集めて、ステファン様がジェーン様の罪状を上げる。


「君は禁薬の『愛の妙薬』を香水に加工して身にまとっている。クラスの男子生徒が皆、君に夢中なのは薬によって感情を操作しているからだ」

「?!」


 断言された内容に、場が一層ざわつく。

 驚愕したようにジェーン様を見るロベール様の横で、彼女は頬を膨らませている。


「そんなことはしていません! 濡れ衣です!!」

「濡れ衣をベアトリーチェに被せたのは君のほうだろう」

「みんな、私のことが好きなだけです!」

「君の部屋から証拠は押収してる」


 片手を上げたステファン様の背後から、一人の男子生徒が進み出る。

 よく鍛えられた肉体を持つ彼は、クラスでもだれとも話さない無口な方だ。

 彼が掌の上に乗せている小瓶をみて、ジェーン様の表情が一瞬引きつった。


「彼は私の護衛の騎士だ。この薬品に見覚えがあるな?」

「ありません!」

「そうか。だが、解毒薬を使えば状況がわかる」


 懐に手を入れたステファン様が、小さな瓶を取り出した。

 愛の妙薬の解毒薬、というものだろう。


「これをまけば、真実は明らかになる」

「やめて!!」


 蓋をあけるステファン様を、鬼気迫った顔でジェーン様が止めようとした。

 ステファン様の背後から飛び出した別の生徒が、彼女を押さえつける。

 彼も生徒として紛れていた、ステファン様の護衛の騎士だろう。


 あたりに清涼な香りが漂った。香りが充満すると、男子生徒を中心に頭を押さえている。

 それは、ロベール様たちも例外ではなかった。


「っ、これ、は……!」


 片手で額を押さえ、呻くロベール様に、ステファン様が冷徹な声音をかける。


「この禁薬は、少しでも相手に好意がないと成立しない。自らの行動を顧みて、反省するんだな」

「ベアトリーチェ! 私は……!」


 正気に戻ったらしいロベール様が、わたくしに手を伸ばす。

 それを無視して、取り押さえられているジェーン様に近づいた。


 膝をついてる彼女の耳元で、小さな声で囁く。


「こういうのを『ざまぁ』と呼ぶのでしょう?」

「アンタ……!!」


 酷い顔で睨む彼女に、わたくしは勝ち誇った顔で笑った。

 これで、わたくしの復讐は成就したから。




▽▲▽▲▽




「僕はね、禁薬が隣国に流れているのをしって、経路を探していたんだ」


 ジェーン様を騎士が連れて行ったあと、静まり返ったパーティー会場を抜け出した。

 わたくしはステファン様と庭園を散策しながら会話を交わしている。


「おかげで助かりましたわ」


 でも、それなら前回も助けてくれてもよかったのに。そう思って、ふと気づいたことに足を止める。

 前回の記憶、クラスメイトに地味な男子生徒はいなかった気がする。


 わずかに目を見開いた私の二歩前で足を止めたステファン様が振り返る。

 不思議そうな表情で「どうかしたかい?」と尋ねられ、わたくしは首を横に振った。


 未来の記憶を持っていたこと自体が、不思議なことだ。

 それ以上に不可解なことがあってもおかしくはない。


「いえ、なんでもありません」

「そうか。……それで、君が良ければ、なんだが」


 足を止めたまま、ステファン様が甘やかに微笑む。

 ロベール様にも向けられたことがないような、心の底から愛おしい、と伝えるような表情。


「僕の国にこないか? どうやら僕は君に――ベアトリーチェに惚れてしまったらしい」

「……え?」


 思わぬ申し出に目を見開く。

 わたくしの前で、穏やかに微笑みながらステファン様がさらに言葉を重ねた。


「不利な状況で、絶対に折れず、味方を着実に集める君から、気づいたら視線が離せなくなっていた。きっと、これは恋だと思うんだ」


 穏やかに伝えられる愛の言葉。わたくしはこくりとつばを飲み込んだ。

 婚約者に二度も裏切られた。

 だから、異性をそういう意味で信頼するのは怖い。でも、同じくらい。


(愛されたい)


 ロベール様はもちろんのこと、父も母も、わたくしの味方にはなってくれなかった。

 孤立無援だと思っていた。でも、ステファン様は違った。わたくしの隣で、支えてくれていた。


 だから、もう一度。

 信じてみたい、と思ったのだ。


「――はい。わたくしで、よければ」


 ざぁ、と風が吹いて、わたくしの長い髪を揺らす。

 ステファン様が、心底嬉しそうに、笑み崩れた。



◤ ̄ ̄ ̄ ̄◥

 あとがき

◣____◢



『断罪を「ざまぁ」と呼ぶのですか? ではわたくしが「ざまぁ」をして差し上げましょう!』はいかがだったでしょうか?


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断罪を「ざまぁ」と呼ぶのですか? ではわたくしが「ざまぁ」をして差し上げましょう! 久遠れん @kudou1206

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