『俺達のグレートなキャンプ206 包丁(だんびらブレード)実演販売』

海山純平

第206話 包丁(だんびらブレード)実演販売

俺達のグレートなキャンプ206 包丁(だんびらブレード)実演販売


「よっしゃあああああ!今日もグレートなキャンプの始まりだぜええええ!」

石川が両手を高々と掲げて叫ぶ。その声量、まるでロックコンサートの開幕を告げるボーカリストのようだ。夕暮れ時のキャンプ場に、その声が木霊する。周囲のテントから、ファスナーを開ける音が次々と聞こえてくる。キャンパー達が顔を出し、一斉にこちらを見る。その視線は「またか」と「何が始まるんだ」が半々だ。石川は気にせず、まるで舞台俳優のように大きく腕を広げてニカッと笑い、両手をひらひらと振る。その仕草が妙に芝居がかっている。

「石川さん、今日は何するんですか!?」

千葉が小走りで駆け寄ってくる。バックパックを背負ったまま、まるで小学生の遠足のような足取りだ。新品のアウトドアシューズが乾いた土を蹴る音が軽快に響く。タッタッタッタッと、リズミカルだ。その目はキラキラと輝き、瞳孔が開いている。完全に期待で胸が膨らんでいる様子だ。

「ふふふ...千葉よ、今日のグレートなキャンプはな...」

石川がゆっくりと振り返る。その動きは計算されたかのようにゆっくりで、夕日を背に受けて、シルエットが妙にドラマチックだ。髪が風になびき、逆光でキラキラと光る。まるで少年漫画の主人公のような演出だ。

「いや、もう嫌な予感しかしないんだけど」

富山が重たそうにため息をつきながら荷物を地面に下ろす。ドサッという鈍い音。肩を大きく落とし、眉間にくっきりとしわを寄せている。その表情は疲労と諦めと、そして微かな好奇心が混ざり合っている。長年の経験から、石川のこのテンションは「ヤバい企画」のサインだと骨身に染みて分かっているのだ。

「包丁の実演販売だああああ!!」

石川が叫ぶ。その声は山にこだまし、やまびこのように返ってくる。「...うはんばい...んばい...い...」

「はあああああ!?」

富山が思わず叫ぶ。声が完全に裏返っている。喉の奥から絞り出すような悲鳴だ。目を見開き、口を大きく開けたまま固まる。その表情はまるで、信じられないものを見た人間の顔だ。

「すごい!実演販売!テレビで見たことあります!あの、トマトをスパスパ切るやつですよね!?水に浮かべた紙も切れるやつ!」

千葉が飛び跳ねる。本当に飛び跳ねる。地面から30センチは浮いている。着地するたびにドスンドスンと音がする。その場でぴょんぴょんと跳ね続け、まるで縄跳びでもしているかのようだ。両手をグーにして、胸の前で小刻みに振っている。

「そうだ!だがただの実演販売じゃあない!キャンプ場での実演販売だ!周りのキャンパーたちに、この切れ味抜群の『だんびらブレード』の素晴らしさを伝えるのだ!」

石川が懐から取り出したのは、やたらと立派な包丁だった。いや、包丁というより、もはや短刀に近い。全長40センチはある。刀身が夕日を反射してギラリと光る。その輝きは妖しく、まるで妖刀のようだ。柄には謎の竜の彫刻が施されており、赤い宝石のようなものがはめ込まれている。どう見ても普通の包丁ではない。

「ちょっと待って、それどこで買ってきたの...?というか、それ本当に包丁...?」

富山が不安そうに包丁を見つめる。目が泳いでいる。左右に、上下に、ぐるぐると動く。手で額を押さえ、深呼吸する。その肩が小刻みに震えている。

「通販!三本セットで9,800円!今なら特典でピーラーとスライサーも付いてくる!送料無料!」

石川が包丁を掲げる。その動きは完全に通販番組の司会者だ。笑顔が眩しい。歯がキラーンと光った気がする。

「それ絶対怪しいやつじゃん!絶対だまされてるやつじゃん!」

富山が頭を抱える。両手で顔を覆い、ゆっくりとしゃがみ込む。その背中が丸まり、まるで亀のようだ。「はぁ...はぁ...」と荒い呼吸が聞こえる。

「さあ!準備するぞ!千葉、テントはいつも通り設営してくれ!富山、お前は実演販売用の野菜を準備だ!あと氷も!冷凍庫から持ってきた冷凍餅もある!」

「え、私も協力させられるの...?というか冷凍餅って何...?」

富山が顔を上げる。目が完全に死んでいる。光を失った瞳だ。諦めの境地に達している。口元がだらりと開き、力が抜けている。

「当たり前だろ!俺達はチームだ!グレートなチームなんだぞ!三人で206回もキャンプしてきた仲間じゃないか!」

石川が富山の肩をバンバン叩く。バシバシと乾いた音がする。富山の体が前後に大きく揺れる。その度に「うっ」「おっ」と声が漏れる。まるでサンドバッグのようだ。

「はい!僕、テント頑張って張ります!石川さんの企画、いつもサイコーですから!」

千葉が敬礼する。ビシッと音がしそうなほどキレのある敬礼だ。背筋がピンと伸び、指先まで力が入っている。その目は完全に少年のように輝いている。

三十分後。

「よし!準備完了!」

彼らのサイトには、通常のキャンプ設備に加えて、謎のステージが出来上がっていた。折りたたみテーブルを三つ連結し、その上にはキャンプ用のランタンが四つ配置されている。まるで舞台照明のようだ。テーブルの上には、トマト、キュウリ、大根、ニンジン、カボチャ、そして冷凍餅、さらには発泡スチロールのブロックが整然と並んでいる。その奥には、なぜか薪が数本、竹の棒が三本、そして拳大の石までもが置かれている。石川が手作りの看板を立てる。ダンボールに赤いマジックで「驚異の切れ味!だんびらブレード実演中!見なきゃ損!」と殴り書きされている。文字が躍っている。

「石川、これ本気でやるの...?というか、なんで石とか薪まであるの...?」

富山が看板を見上げる。顔が引きつっている。口元がピクピクと痙攣している。右目の下も痙攣している。ストレスが顔面に現れている。両手を組み、ぎゅっと握りしめている。

「当たり前だ!だんびらブレードの真の実力を見せるにはな、並の食材じゃダメなんだ!さあ、千葉!呼び込みだ!」

「はい!」

千葉が深呼吸する。胸を大きく膨らませ、両手を腰に当てる。そして目を閉じ、精神統一する。三秒後、目を見開き――

「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!今宵限りの大実演!驚異の切れ味、伝説の業物、だんびらブレードの実演販売でございます!見て損なし!見なきゃ後悔!一生に一度のチャンスでございますよおおお!」

千葉の声が夕暮れのキャンプ場に響き渡る。まるで江戸時代の香具師のような口調だ。どこで覚えたのか、妙に板についている。抑揚がついており、まるで歌舞伎役者のようだ。語尾を伸ばす部分、切る部分のメリハリが完璧だ。

周囲のキャンパーたちが、ゾロゾロと集まってくる。ファミリー層、ソロキャンパー、カップル、そして妙に雰囲気のあるサングラスをかけた男性グループまで。

「お、なんか面白そうなことやってんな」

「実演販売?キャンプ場で?正気か?」

「あの人たち、いつも変なことやってるよね。前回はキャンプ場でビンゴ大会やってたし」

ヒソヒソと話す声が聞こえる。既に二十人近くのギャラリーが集まっている。スマホを構える人も多い。

「よし!客が集まったな!それでは...」

石川がステージ、いや、折りたたみテーブルの前に立つ。包丁を両手で掲げる。その瞬間、ランタンの光が刀身に反射し、キラキラと輝く。まるで聖剣のようだ。

「さあさあ、お立合い!」

石川が叫ぶ。その声は完全に芝居がかっている。口調が急に時代劇風になる。片手を高く掲げ、もう片方の手で包丁を持ち、大きく腕を振る。その動きは歌舞伎の見得を切るようだ。

「皆さん!日々の料理で、こんな悩みはありませんか!トマトを切ると潰れる!肉を切ると繊維が崩れる!硬い食材が切れない!包丁の切れ味がすぐ落ちる!」

石川の声が熱い。本気だ。本当に売る気だ。目が真剣だ。額に汗が光っている。その表情は、まるで本物の実演販売員のようだ。

「そんな悩みを一刀両断!それがこの『だんびらブレード』!まずはご覧ください、このトマト!」

石川が真っ赤に熟れたトマトを掴む。立派なトマトだ。直径8センチはある。ぷりぷりと張りがあり、ヘタも青々としている。石川がそれを指で弾く。ペチペチという音がする。

「このトマト、完熟です!柔らかい!普通の包丁では、こうして切ろうとすると...」

石川が別の包丁を取り出す。普通の家庭用包丁だ。それでトマトに刃を当てる。

グニャッ...

トマトが潰れる。果汁が飛び散る。断面がグチャグチャだ。

「ほらあ!潰れた!これじゃサラダに使えない!」

「おお...」

ギャラリーから小さくどよめきが起こる。

「しかし!このだんびらブレードなら!」

石川が『だんびらブレード』を構える。その構えは、まるで剣士のようだ。片足を引き、腰を落とす。包丁を水平に構え、目を細める。そして――

スッ――

トマトがスパッと切れる。音が美しい。「スパッ」という乾いた、心地よい音だ。断面が鏡のように美しい。種が全く潰れていない。果肉と種の部屋が、くっきりと見える。切り口から果汁が一滴も垂れない。

「おおおお!」

ギャラリーから歓声が上がる。拍手が起こる。パチパチパチパチという音が広がる。

「すごい!石川さん、本当に切れてる!断面がめっちゃキレイ!」

千葉が興奮して叫ぶ。目がハートになりそうな勢いだ。両手を頬に当て、体を左右に揺らしている。完全に感動している。

「嘘でしょ...本当に盛り上がってる...」

富山が呆然とつぶやく。口がぽかんと開いている。下あごが完全に脱力して垂れ下がっている。目は見開かれ、瞬きも忘れている。

「さらに!この大根!」

石川が太い大根を掴む。直径10センチはある立派な大根だ。ずっしりと重そうだ。白く、表面がつるつるしている。

「この硬い大根も!このだんびらブレードなら!ていっ!」

ザシュッ!

大根が一刀両断される。切り口がつるんとしている。繊維が全く崩れていない。まるで機械で切ったかのような滑らかさだ。切った瞬間、大根の水分が飛び散り、キラキラと光る。

「マジかよ!」

「切れ味ヤベえ!」

ギャラリーがさらに盛り上がる。スマホで動画を撮り始める人が増える。フラッシュが光る。

「だがな...これはまだ序の口だ」

石川がニヤリと笑う。その笑みは悪役のようだ。

「石川さん、まだあるんですか!?」

千葉が身を乗り出す。

「ああ。次は...これだ!」

石川がカボチャを取り出す。丸ごと一個だ。直径20センチはある。硬い。表面がゴツゴツしている。

「カボチャは硬い!普通の包丁じゃ、力を入れないと切れない!だが!」

石川がカボチャをまな板に置く。そして包丁を高く掲げる。

「だんびらブレードなら!」

ズバッ!

カボチャが真っ二つになる。その音は「ズバッ」という重厚な音だ。まるで剣で何かを斬ったかのような音だ。カボチャの種がポロポロとこぼれ落ちる。

「うおおおお!」

ギャラリーの歓声がさらに大きくなる。拍手が鳴り止まない。

「さらに!さらにだ!」

石川が次に手に取ったのは、冷凍された餅だった。カチンコチンに凍っている。

「この冷凍餅!硬い!包丁の刃が欠けるレベルだ!だが!」

石川が餅をまな板に置く。包丁を構える。そして――

スパスパスパッ!

冷凍餅がスパスパと切れる。まるでバターを切るかのように、スムーズに切れていく。薄切りになった餅が、まな板の上に並ぶ。

「嘘だろ...」

富山が呟く。その声は震えている。信じられないものを見た時の声だ。

「まだだ!まだ終わらんぞ!」

石川が叫ぶ。その目は完全にイッている。興奮で頬が紅潮している。額から汗が滝のように流れている。

「次は...これだ!」

石川が薪を取り出す。太さ5センチはある、しっかりした薪だ。

「ちょっと待って、薪を切るの!?包丁で!?」

富山が叫ぶ。声が裏返っている。

「見てろ!」

石川が薪をまな板の上に置く。包丁を両手で握る。そして、まな板に向かって――

ガンッ!

包丁を叩きつける。その音は鈍く、重い。そして――

バキッ!

薪が割れる。完全に割れる。包丁の刃は欠けていない。無傷だ。

「おおおおおお!」

ギャラリーが狂ったように叫ぶ。拍手が嵐のようだ。口笛が鳴る。

「薪が切れた!薪が切れたぞ!」

「これ、もう包丁じゃねえだろ!」

「なんだこれ!刃物だ!完全に刃物だ!」

ギャラリーの興奮が最高潮に達する。

「さらに!」

石川が竹を取り出す。直径3センチほどの青竹だ。

「竹だ!硬い!繊維が強い!だが!」

スパッ!

竹が切れる。断面が綺麗だ。繊維が毛羽立っていない。つるんとしている。

「うおおおお!」

「竹まで切れた!」

「これヤバいって!」

ギャラリーが完全にヒートアップしている。前のめりになっている人が多い。目が血走っている人もいる。

「そして!そして最後だ!」

石川が拳大の石を取り出す。河原で拾ってきたような、ゴツゴツした石だ。

「まさか...」

富山が青ざめる。顔から血の気が引いている。唇が震えている。

「石だ!硬い!普通の包丁なら、刃が完全に欠ける!だが!だんびらブレードなら!」

石川が石をまな板に置く。包丁を高く掲げる。その姿は、まるで処刑人のようだ。

「いやああああ刃が欠けるうううう!」

富山が叫ぶ。

「見てろおおお!」

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

石川が包丁を何度も石に叩きつける。火花が散る。金属音が響く。そして――

パキッ!

石が割れる。真っ二つに割れる。包丁の刃を確認する石川。刃こぼれ一つしていない。

「おおおおおおお!」

ギャラリーが完全に暴徒と化している。叫び声が上がる。拍手が雷鳴のようだ。

「石が切れた!石が切れたああああ!」

「なんだこの包丁!」

「そのドス、俺にくれえええええ!」

サングラスをかけた男性が叫ぶ。その声は妙にドスが効いている。周りの人が一瞬引く。

「ドス...?」

富山が呟く。顔が引きつる。

「あ、兄貴、それ欲しいっす!」

サングラスの男性の後ろにいた若い男が叫ぶ。その口調も妙に時代劇風だ。

「ちょ、ちょっと待って、なんかガラ悪い人混ざってない...?」

富山が石川の袖を引っ張る。その手が震えている。

「気にするな!客は客だ!」

石川がニカッと笑う。

「そして!これだけ切れるだんびらブレード!なんと刃こぼれ一切なし!見てください、この刃!」

石川が包丁の刃をランタンの光にかざす。刃が光を反射し、キラキラと輝く。傷一つない。

「うおおおお!」

「刃こぼれしてねえ!」

「これ最強じゃん!」

ギャラリーの興奮が収まらない。

「そしてそして!切れ味が落ちない!この秘密は、特殊合金製の刃!職人が一本一本手作りで!」

石川が嘘か本当か分からない説明を続ける。その口調は完全に通販番組だ。

「職人!?手作り!?」

千葉が目を輝かせる。

「さあ!この素晴らしいだんびらブレード!今ならなんと!」

石川が間を取る。ギャラリーが息を呑む。シーンと静まり返る。

「一本限りですが、お譲りします!」

「おおおおお!」

歓声が上がる。

「俺が買う!」

「いや、俺だ!」

「そのドス、俺にくれえええええ!」

またサングラスの男性が叫ぶ。

「あの...やっぱりヤバい人いるよね...?」

富山が小声で言う。完全に引いている。後ずさりしている。

「じゃあオークション形式で!」

千葉が前に出る。完全に実演販売員モードだ。

「開始価格3,000円!」

「3,000円!」

即座に手が上がる。

「3,500円!」

「4,000円!」

「5,000円!」

値段がどんどん上がっていく。

「6,000円!」

「7,000円!」

「8,000円!」

「ちょっと、これ通販で3,300円くらいだったのに...」

富山が呆然とつぶやく。その表情は完全に現実逃避している。目が虚ろだ。

「10,000円!」

「えっ」

富山が固まる。完全に固まる。石のように動かない。

「10,000円!他にいらっしゃいませんか!」

千葉が叫ぶ。木のスプーンを手に持ち、まるでオークションのハンマーのように構えている。

「12,000円!」

サングラスの男性が叫ぶ。

「兄貴!」

「黙ってろ!このドスは俺のもんだ!」

「ドスじゃなくて包丁だから!」

富山がツッコむ。

「15,000円!」

別の男性が叫ぶ。

「うおおお、15,000円!他には!」

「20,000円!」

サングラスの男性が叫ぶ。その声は本気だ。目がギラギラしている。

「にっ、20,000円...!」

千葉が驚く。声が震えている。

「20,000円!他にいらっしゃいませんか!20,000円!...はい、落札です!」

千葉が木のスプーンをテーブルに叩きつける。カンッといい音がする。

「やったああああ!売れたあああ!20,000円で売れたああああ!」

石川が飛び上がる。本当に飛び上がる。ジャンプして、空中で足をバタバタさせる。着地した瞬間、千葉と抱き合う。

「やりました石川さん!やりましたよおおお!」

「ああ!グレートだ!超グレートだ!」

二人が抱き合って飛び跳ねる。その姿はまるで、ワールドカップで優勝したサッカー選手のようだ。

「信じられない...本当に売れちゃった...20,000円で...3,300円の包丁が...」

富山が完全に現実を受け入れられない様子でつぶやく。その場にしゃがみ込む。両手で頭を抱える。「はぁ...はぁ...」と荒い呼吸。

「兄貴、おめでとうございます!」

「おう!いい買い物したぜ!」

サングラスの男性が包丁を受け取る。その手つきは妙に慣れている。包丁を軽く振る。ヒュンヒュンと音がする。

「これで魚も捌けるし、野菜も切れる。キャンプで大活躍だ」

「そうですね兄貴!」

「...普通に使うんだ」

富山が安堵したように呟く。ホッと息をつく。

その後、石川達のサイトは即席の包丁談義の場になった。購入した男性は「キャンプ歴二十年だけど、こんな面白い企画初めて見た」と大笑いしている。その笑い方は豪快で、腹を抱えて笑っている。サングラスを外すと、意外と優しそうな目をしている。他のキャンパーたちも集まって、それぞれのキャンプ道具自慢が始まる。ナイフ、斧、ノコギリ、様々な刃物が披露される。

「石川さん!大成功ですね!」

千葉が興奮冷めやらぬ様子で叫ぶ。顔が真っ赤だ。汗がダラダラと流れている。でも笑顔だ。最高の笑顔だ。

「ああ!これぞグレートなキャンプだ!予想以上にグレートだった!」

石川がガッツポーズを決める。両手を高く掲げ、雄叫びを上げる。

「で、その売上金どうするの?」

富山が冷静に聞く。既に諦めモードから通常モードに戻っている。

「もちろん!今晩の焼肉代だ!A5ランクの和牛を買う!」

「それは賛成!」

三人が笑う。周りのキャンパーたちも笑っている。

「俺たちも混ぜてくれよ!」

サングラスの男性が言う。

「もちろん!来てくれ!」

石川が快諾する。

夜。焚き火を囲んで、石川達は焼肉を楽しんでいた。だんびらブレードで切った肉が、ジュージューと音を立てている。その音が心地よい。炎が揺れ、肉が焼ける匂いが広がる。

「しかし今日は面白かったなあ。まさか石まで切るとは思わなかった」

購入した男性も、隣のサイトから参加している。既にサングラスは外し、完全にリラックスしている。

「また次も何か面白いことやってくださいよ!」

「もちろん!次回もグレートなキャンプを約束する!」

石川が焼けた肉を掲げる。その肉が炎の1:21光を受けて輝く。

「石川さん、次は何するんですか?」

千葉が目を輝かせて聞く。肉を頬張りながら、もぐもぐと咀嚼している。

「それは...まだ秘密だ!」

「絶対またロクでもないことでしょ...」

富山がため息をつく。でも、その顔は笑っている。口元が緩んでいる。

「でもさ...」

富山が焚き火を見つめながら続ける。炎が顔を照らし、その表情が柔らかく見える。

「今日、みんな楽しそうだったわね」

「だろ?これが『奇抜でグレートなキャンプ』ってやつだよ」

石川が胸を張る。ドヤ顔だ。

「うん!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!って僕は思います!」

千葉が拳を握る。その目は真剣だ。

「まあ...たまには、ね」

富山が小さく笑う。その笑顔は優しい。

星空の下、焚き火の炎が揺れる。パチパチと薪が爆ぜる音。笑い声が夜のキャンプ場に響く。肉を焼く音、ビールを注ぐ音、乾杯の音。今日も、石川達のグレートなキャンプは大成功だった。

「さて!明日は何して遊ぶかな!」

「えっ、まだ続くの?もう十分でしょ」

「当たり前だろ!俺達のグレートなキャンプは終わらないんだ!206回もやってきたんだ!207回目も、208回目も続くぞ!」

「やったあああ!」

「はあ...」

三者三様の反応。でも、三人とも笑っている。

遠くで誰かが包丁で野菜を切る音がする。トントントンという軽快なリズム。どうやら今晩、キャンプ場のあちこちで料理自慢大会が始まったらしい。だんびらブレードの実演販売が、キャンプ場全体に影響を与えたようだ。

「なんか、キャンプ場全体が盛り上がってない?」

千葉が周りを見回す。あちこちで焚き火が燃え、笑い声が聞こえる。

「俺達が種を蒔いたんだ。当然だろ?」

石川が得意げに言う。腕を組み、ふんぞり返る。

「次は何の実演販売する?」

「おい、味をしめるな」

富山がツッコむ。でも、その目は次の企画を少しだけ期待している。

こうして、『俺達のグレートなキャンプ206』は幕を閉じた。

そして明日、また新しいグレートなキャンプが始まるのだ。

「おやすみ!」

「おやすみなさい」

「おやすみ...って、石川、テントの中に何持ち込んでるの?ダンボールが五箱もあるんだけど」

「え?これ?次回用のマジックセットと、その次用の大道芸セットと、その次の次用の...」

「寝かせて!!いい加減寝かせて!!」

キャンプ場に、富山の絶叫が響いた。その声は木霊し、山に反響する。遠くで犬が吠える。

星が瞬く夜空の下、三人の笑い声はいつまでも続いていた。

翌朝、キャンプ場の管理人から「昨日の実演販売、面白かったよ。でも石を切るのはやりすぎだから、次からは控えてね」と注意された。

「はい、すみません」

三人が頭を下げる。でも、その顔は笑っていた。

END

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『俺達のグレートなキャンプ206 包丁(だんびらブレード)実演販売』 海山純平 @umiyama117

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