センターラインの向こうに

石鎚榛名三里の山

サヨナラ青春

俺はレールを真っ直ぐ走る汽車のように、ただひたむきに勉強や青春を頑張っていた――はずだった。

あの病気さえ発症しなければ、今でも俺はあの校舎に残っていただろう。


「……あのね、学校に来なければ卒業は出来ないんだよ。病気で辛いのは分かるけど、もっと来なよ」


俺は生徒指導室で、そんなことを言われた……と思う。今じゃもう何も分からない。

ただその時の俺には、学校にも家にも居場所がなくて、淡々とこの場から逃げ出したかった。

息の仕方すら下手になっていて、何かを説明する力も残っていなかった。


そして俺は、ここで取り返しのつかない選択をしてしまった。

そこから俺の走り屋としての人生が始まったのだろう。



まだ朝焼けも見えない山道を、ヘッドライト二つが霧を裂く。

かっ飛ばす二台のバイクがそこにはいた。


「あのでっかいの、速い。ヘアピンの出口で離されちまう」


俺はそう思い、愛車のZZR250改で追っかけてた。

三百までボアアップしているはず――いや、している。

なのに追いつけやしない。手首を捻るたび加速Gで落っこちそうになるのにだ。


北九州の小倉北区から八幡西区へ抜ける、ほっそい峠道。

スキール音、金属の擦れる音、エンジンを吹かす音。

それらを奏でながら、俺たちは夜を走り抜けていく。


中腹あたりまで来ただろう。

そいつが、ハザードを炊きやがった。


何を意味しているのかは分からない。

……でも、何となく意味は分かってた。


次の瞬間、やつが視界から消えやがった。

必死に追いかけようとした。追いかけようとしたんだ。

でも俺の青春みたいに、陽炎みたいに、消えていきやがった。


俺は途中で、気が抜けたようにUターンした。

まるで、最初から別々の道を進むみたいに。

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