おまけ ふたつのプリン
放課後、商店街の角にある”いちご屋”に寄り道した。
夕焼けの光がショーケースに反射して、並んだプリンがやけに輝いて見える。
少し肌寒い風ふき、冬の匂いを感じる。
「ほら、言っただろ。二つ買っとくって」
レジ袋を掲げてみせると、ひなは頬を膨らませて振り向く。
制服の袖からのぞく少し赤くなった手を、優しく握る。
「……なんで勝手に決めるの」
「いや、前に言ったじゃん。“次は二つ買っとく”って」
「覚えてたんだ……」
「そりゃ、あんなに名残惜しそうな顔してたらな」
そう言うとひなはぷいっと横を向いた…けど、耳までほんのり赤い。ほんと、分かりやすい可愛い”彼女”だ。
二人で商店街を抜けて、近くの公園に腰下ろす。
肌寒い中、ひなの体温をすぐ近くに感じる。
「……ねぇ、てつくん」
「ん?」
「こうして食べるの、初めてかもね」
「確かに…大体家で食べてるからな」
「…いつも二人で食べてるのに…不思議とドキドキする」
少し、恥ずかしそうに笑った。
「……まぁ」
少しの小恥ずかしい沈黙が辺りを支配する。
開封したカップのプリンが、夕陽の色を反射して揺れていた。
「ほら、食べなよ」
「え、てつくんが先に」
「いや、ひなが言い出したんだろ」
「そ、それは……」
もじもじしながら、スプーンを差し出してくる。
目をそらし、恥ずかしながらまさかの——。
「……あーん」
「は…?」
一瞬時が止まった。
「文句言うなら食べさせないから!」
恥ずかしさを我慢しながら観念して口を開けると、ひなは満足そうに笑った。
甘いプリンの味が広がる。
……いや、それ以上に顔が近すぎて味どころじゃなかった。
「……やっぱ、美味いな」
「…うん。わたしも好き」
スプーンをくるくる回しながら、ひなが空を見上げる。
冬の空は澄んでいて、少し寂しいくらい綺麗だった。
「なぁ、ひな」
「なに?」
「これからも、こうしてプリン食べよ」
「え、これからもって……どのくらい?」
「たぶん…一生」
「……もう、そういうこと平気で言うんだから」
そう言いながら、ひなは笑った。
風が吹き抜けて艶やかな髪が少し揺れる。俺の心臓の音がやけにうるさい。
「でも…うん。わたしも……一生食べたい」
「……プリンを?」
「……てつくんとね」
小さな声でそう言った彼女の頬は、プリンよりもずっと甘そうに見えた。
大嫌いから大好きへ——幼馴染が拗らせた恋の話。 @pastry-puff
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