第3話 愛称はエリー

 声の高さと表情が、まるで本物の少女のようだった。


 折原は息をのむ。



 羞恥――その感情を、彼女はどこで学んだのか。


「申し訳ないね。」


 生守イモリは自分の来ていた白衣を彼女の身体にかけて裸体を隠した。


「……ありがとう。」


 恥じらう彼女も愛らしかった。


「自分は生守イモリ陽介。こちらは折原アージェルだ。よろしくな。」


 アンドロイドは再度、二人を確認するように交互に見た。何度も。


「……ヨウスケとアージェル。イモリとオリハラ。なんて呼べばいい?」


「好きに呼んでくれ。折原君も特にこだわりないだろ?」


 折原は小さくうなずいた。


「じゃあ、ヨウスケとアージェル! 私はE.L.I.N.O.T.T.Y.エリノッティじゃなくて、愛称で呼んでほしいな。」


 少女は可愛らしい笑顔でおねだりをする。このアンドロイドは、誰からも愛されるだろう――二人はそう感じていた。


「……愛称か、エリーじゃダメか。」


 陽介はアージェルに確認するように問う。


「……愛称。

王道はEllieエリーElエル

Nottyノッティ……Noaノア……Rinoリノ……Elyneエリーヌ

あたりが考えられますね。」


 折原は淡々と愛称を並べあげた。


Nottyノッティが可愛い!」


 少女は嬉しそうに提案するが、陽介に却下される。


「黒髪でノッティは合わないだろ。恵理とか絵梨とかで、愛称Ellieエリーでいいだろ。」


「自分もEllieエリーが妥当だと思いますよ。呼びやすく親しみやすいです。」


「わかった。Ellieエリーでいいよ。」


 少し不貞腐れた顔をして、しぶしぶ同意した。


「これからやることは頭に入ってるか?」


 生守がエリーに試すように尋ねる。


「まず、歌を収録しないとね! 私の歌で世界を明るくしないと! 歌詞も曲も頭に入ってるよ! 三年で世界を明るくしないとね!」


「そう。エリーには三年で世界を明るくしてもらう。」


 このアンドロイドを歌手としてデビューさせ、異質で違和感のある世界を変えること。それが陽介たちが与えられたミッションだった。


 ただ、アンドロイドがこの役目をすると、ネガティブな話題が増える可能性があるため、エリーには"人間として"振る舞ってもらう必要があった。


 アンドロイドとばれては計画が失敗してしまう。だからこそ、この計画は"たった三年"の期限つきで行われた。


 三年という期間は、折原も知っていた。だが目の前の彼女は、ただのプログラムではなく、可憐な少女にしか見えなかった。三年しか稼働できないことが、どうしても理不尽に思えた。


「改めてよろしくね。ヨウスケ。アージェル。」


 エリーが右手を差し出した。陽介とアージェルが順に握手をする。エリーの手は暖かかった。


――こんなに完璧なのに。


 エリーの笑顔とは対比するように、折原の笑顔はどこか硬かった。

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