いつの間にか失っていたモノ

冬乃一華

第1話 切っ掛け


 久しぶり。

 この言葉が染み渡る。


 新しくモノを書くのは2カ月振りだろう。


 物語を書こうと考えている方へ。


 どうか、私と同じ轍を踏まないで欲しい。


 2カ月前までの私は、毎日睡眠時間を削ってでも執筆に打ち込んでいた。


 座ったまま気絶するなんて日常茶飯事。


 一日最低8千文字、多い時は2万文字以上は書いていた。


 誰に言われたからとか、誰かに読んで欲しかったからとか。


 そんな理由じゃなくて。


 ひたすらに楽しかったから。


 プロットを無視して動き出すキャラクター達。


 それに振り回されて、必死に書き直す日々。


 本当に大変で何度溜息を吐いた事か。


 でも……凄く楽しかった。


 ああ、この子達は生きている。


 そう思えたから。


 私の都合で振り回されるのではなく、私がキャラに振り回される。


 物書きとしては失格なのかも知れない。


 それでも、彼女達の“意思”を感じると嬉しくて。


 私を幾ら振り回しても良い。


 この子達の先が見たい。


 えがいてあげたい。


 そんな激しい熱に突き動かされて、毎日毎日。


 飽きることなく書き続けた。


 剝き出しの感情に誰よりも触れられる日々。


 幸福だと心の底から思えた。


 人生で此処まで熱中したモノは無いってくらいに。


 私は生み出した子達を心の底から愛している。


 面倒だったり、危ない子だったり。


 振り回されてぐったりする事もあるけど、やっぱり大切な子達。


 そんな私がおかしくなり始めたのは、2カ月前。


 異世界ファンタジーに手を出したのが切っ掛けだったと思う。


 以前から考えていたし、好きなジャンルだ。


 きっと楽しく書けるはず。


 そう思っていたのに。


 モチベーションを大きく落とす結果を招いた。


 設定に綻びは無いか。


 読者様が読み辛く無いだろうか。


 こんな子を出しても大丈夫だろうか。


 世界観に矛盾が生まれていないか。


 考えれば考えるほど苦痛で、全く楽しくない。


 気付いた時には、ストレスで眠れなくなり、体調を崩した。


 どうしてだろう。


 分からない。


 ずっと、その理由が私には分からなかった。


 異世界を選んだから?


 それだけではない。


 きっと、大きな要因がある。


 気付いたのは― ―


 2025年 12月14日。


 つい最近の事だった。


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