夢を叶える魔法使い
尾神弘志
不思議な少女
むさ苦しい空気で長い夏と、気温差が激しく短い秋も終わり、今日の温度は0度に近付いていた。
学校帰りの風景もいつもより痩せて見える木に少しづつ枯れ始める葉っぱと、まだ秋だと言わんばかりの黄色く色づいた葉っぱがあたりに落ちていた。
ズボンやブレザーなどの隙間から入ってくる冷たい風は、僕の帰りを急かさんばかりに勢いを増してくる。
まだまだ遠い家への道を考えながら少しため息をついた。
歩を進めた先では、辺りに住宅が少なくなって、車の通りも少なくなっていた。
周りで聞こえるのは、風に揺られる草木の音と、コツコツと音を立てる僕の革靴ぐらいのものだ。
...いつもなら。
吹いていた風とは比べ物にならないような、
ビュン!と素早い音を出しながら僕の上空を飛んでいったそれは、箒に乗っていた魔法使いのようだった。
僕は自分の目がおかしくなったのではないかと思い何度も目を擦ったが、目の前の光景には一切の偽りがないように見えた。
珍しいものを写真に収めようと、自分のスマホを取り出そうとした時だった。
上空を飛んでいた魔法使いは気づいたら僕の目の前に立っていた。そして、
「あなたの夢、きっと私が叶えて見せよう!」
そういった。
何を言っているのか理解をするまでに、かなりの時間を有したのはいうまでもない。
目の前に立っているその魔法使いは綺麗な茶髪に短いポニーテールに付けた白い花の髪飾りがとても目立っていた。
紫のローブを纏い、目元を隠している大きなとんがり帽子はまさに魔法使いを彷彿とさせる服装をしている怪しさ満点の彼女と話すのは気が引けた。
「そうですか…では僕はこれで…」
「ちょちょちょーっと待った!ゆ、夢だぞ!?どんな夢でも必ず…とは言い難いが、あなたの夢を叶えてみせるというのだ、興味はないのか!?」
もちろん興味がない訳では無い、でもそれ以上に胡散臭すぎる。こんな見るからに怪しい人と関わったら行けないに決まってる…
「…その、叶えてくれる夢って例えばどんなものがどんなものがあるの?」
でも…心では関わってはいけないと分かっていても、切り捨てるにはあまりにも魅力的であった。
「そうだな、いくつか例はあるが…富や名誉が得たいだとか、才能が欲しいだとかな!そういった願いが多いな!」
「夢を叶えて、どうするつもりなの?」
「簡単なことである。人間達の夢を叶え、その夢に秘められた力を使おうとしてるのだ!」
「秘められた力?」
「うむ。夢というのは、欲望や願望、願いが強く込められたものだ。そこに秘められた感情の力は計り知れない。それを私の魔法で力を欠片として保管するのだ!」
確かに、夢というのは人間の持つ願いの中で一番大きいものだと思う。
そこには、他人には計り知れない自分だけの色んな感情が混ざりあっている。
「力を集めてどうするんだ?」
「う~む…詳しく説明は出来ないが、私たちの世界を守る為に使うもの、という感じだな」
めちゃくちゃ胡散臭い…けど、これを逃したら、もう叶わないかもしれない。
「まだ…ちょっと不安だけど、その話乗らせて欲しい。」
「もちろん!私は偉大なる魔法使い、ドンキホーテ様の弟子のミルホーテである!
人間達の夢を叶える為に、ここにやってきた!」
そう言ってミルホーテは自信満々に胸を張った。
「僕は水野律、宜しく。ところで、なんで僕の夢を叶えに来たの?夢を持ってる人なんて沢山いるだろうに。」
「それはだな、あなたからとても大きく、多くの感情が詰まった夢を感じたからだな!」
「僕から?」
僕の夢は公務員になる事…というか安定した職に着いて立派な大人になることだ。その過程で公務員を目指している。
でも、こんな夢が大きくて、感情が詰まってるとは思えない。
「曇った顔をしてどうした?」
「…いや、僕の夢は立派な大人になることなんだけど、それがそんなに大きな夢なのかなって。」
「立派な大人になる…か。確かに大きな夢、とは言い難いかも知れぬ。だが、夢というのはいつも変わりゆくものだ。」
そういってミルホーテはローブの内側からノートとペン出し、僕へ渡してきた。
「このノートにいろいろ書きだしてみるといいかもしれぬ、今までの自分がしてみたかったこととかな、自分に正直になってみるといろんなものが見えてくるかも知れないからな!」
「ありがたく受け取っておくよ。それで、僕の夢を叶えるって言ってもどうするんだい?自分で言うのも何だけど結構あやふやだし、難しいと思うけど。」
「ふふふ…ズバリ夢を叶える方法というのはな…」
「私にもわからん!願いを聞いて望み通りになるように頑張るだけだ!」
…話に乗った僕が馬鹿だった。
「ま、まあ待て。もう少し詳しく話すとだな、私には夢の反応を探る力と基礎的な魔法などを授けられている。それで、夢を持つ人々の元に行き、色々な方法を使って夢を叶えるのだが…これには理由があるのだ。」
まあ、普通に考えて夢を聞いていきなり叶えて終わり!なんて、単純な方法な訳がないか。
「先程も言ったが、私が夢を叶える理由は夢に秘められた感情の力を欠片として保管するためである。しかし、夢に秘められた感情の力はただ夢を叶えるだけでは満たされない…そのため、夢に対して自分自身が向き合い、感情を引き出してもらう必要があるのだ。だから、そのまま夢を叶えて終わりということはできぬのだ。」
「結局、夢を叶えることにはそこまで関与しないってこと?」
今の言い分だと、ミルホーテ側は対して何もしてないように感じるけれど…
「そうだな。そこまで大きな役割ではない。」
「やっぱり、そんなんで感情を引き出させることなんて…」
「ただ。私が夢を叶える人々は基本的に、叶えたい夢があっても、最初の一歩すら踏み出せないような人たちだ。勿論。律、あなたもだ。立派な大人になる、という夢を否定する訳ではないが、あなたはどこかで迷っている。本当に本心から叶えたい夢なのか?
そんなふうに悩む人たちを自分の叶えたい真の夢へと導びく事。それが私の役割であり、夢を叶えるということなのである。」
ミルホーテの声は真剣で、帽子の下に見えた琥珀の眼は目の前にいる僕ではなく、僕の心をしっかり見つめているように見えた。
「でも…他に叶えたい夢なんて…」
「だから、たくさん考えて、悩んで、喜んで、悲しんで。そんな感情と付き合いながら作り上げて行くのだ!夢というものは。
ゆっくり、少しでもしたいと思ったものから、一歩ずつ試してみるのだ。そのためにノートを渡したのである。たくさん書くのだ。」
自分が叶えたい…夢か。
「そうだね…もっといろんなことを考えて、探してみるよ。」
「うむ!それが何よりである。」
「それで何だけどさ…ミルホーテ。」
「どうしたのだ?」
「ミルホーテはこれから、僕以外にもいろんな人の夢を叶えるために世界を回るんだよね。」
「そうであるな!」
「じゃあさ、もし、よかったら僕も一緒に連れて行ってくれないかな。」
ミルホーテは少し驚いた表情を浮かべ、しばらく悩んでいた。
「だ、ダメならすぐに言っていいから。」
「いや…別に構わないのだが、夢を叶えていく過程で強い感情をその身で感じることがあるのだ。感情に触れると人間性の消失やショックから大きな精神的ダメージを受けることもあるだろう。それでも、本当に大丈夫なのか?」
正直めちゃくちゃ怖い!人間性の消失って本当に大丈夫な感情なの?
「…でも、一歩ずつ試していきたいから。自分と向き合って、まだ分からない夢を叶えたいから。」
そういうとミルホーテはニッと笑みを浮かべて、
「分かった!あなたの夢を叶えて見せよう!」
元気にそう言った。
夢を叶える魔法使い 尾神弘志 @naata4649
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