森の中

@Camira

第1話日常

私はとうに堕ちていたのである。黒い森の中に…


「おはよう」いつもと同じように笑顔を向ける母、その横で料理を手伝う父、私がおはようと返すといつも必ず「ごはんそろそろできるから座って」と返ってくる。当然今日も何も変わらない。そんな朝である。


制服に着替えて玄関に立つと、「行ってきます」と声をかける、奥の方からどたどたと音をたてながら、父と母が見で送りに来る。「行ってらっしゃい」ありきたりの我が家のルーティーン。


ゆっくりとバス停に向かって歩き始める。気分はすでに憂鬱である。外が雨だからでもなければ、授業が退屈だからでもない。私はまたヤツの顔を見なければならない。それが憂鬱なのである。気分を変えようとイヤホンを取り出す。音が鳴らない、充電がない、なんとも自分のやるせなさを恨んだ。近所のおばちゃんは朝も早く私を見て挨拶をする。「Sちゃん、行ってらっしゃい。」田舎特有のそれである。イヤホンを装備していない私はにっこりと笑顔を作って出力する「行ってきます」なんともキカイなやり取りである。バス停にはすでにバスが佇んでいる。車掌に軽く頭を下げて、所定の位置に座る。隣には見知った顔、合わせたくもない顔が目をつぶっている。まじまじと見つめて小さくため息をついて私も目をつぶった。


この男こそ私が憂鬱になる要因、病的な愛を向ける男である。


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