真・黒瀬智哉の悪魔的日常
黒瀬智哉(くろせともや)
プロローグ 退屈は悪魔の誘い
夜の帳が、奈良、生駒市の高台の上の二階建ての一戸建てを深く包み込んでいた。周囲は静寂に包まれ、夜景だけが遠く光っている。
ヤバい、ヤバい。
黒瀬智哉は、自室のロータリーチェアでゆるく回転しながら、口の中でつぶやいた。創作活動に熱中し過ぎて、このまま自宅で一日を終えるところだった。今日の仕事は完全に休むことにしたが、外出しないで家だけで一日を過ごすのは、勿体ない。
「煙草を購入する次いでに、何か菓子類でも購入してこよう。」
最近の私は、物欲がなくなり過ぎて困ったものだ。雑貨屋へ行っても、スーパーマーケットに行っても、とりあえず買い物かごを片手に店内を回ってみるが、何も欲しいものが浮かばない。昨日はせっかくブックオフまで出掛けたのに、何も購入せずに帰ってきてしまった。勿体ないことをしたわ。
すべてが平和になり過ぎて、刺激が足りない。
こういう時は、最も倫理を外れた行動で、自分の悪魔的な側面を刺激するのがいい。
「というか。女を買う?w」
『いや、それは。。違うww』
「なら、純情そうな若い女子に誘惑を掛けて、小悪魔女子にして遊んでみる? どこかに、**『変わってて面白い女子』**は、いないものか??」
「また。SMパートナーでも見つけるかww」
彼女とかは必要ない。そんなものに興味はない。
最近は、何もかも手に入れてしまって、平和になり過ぎて刺激が足りない。こういう時は、女とエロいことをして遊ぶのがいい――。
彼は右手に神の力を、左手に悪魔の力を持つ。だが、この力は、彼が創る**「物語」**によってしか発動しない。彼の退屈を満たすには、この現実では不可能な、**創造物(フィクション)**が必要だった。
「さて。もういいだろう。簡単な菓子類を近所のスーパーマーケットで購入してこよう」
今夜は一段と冷え込む。彼は防寒着を羽織り、玄関を出た。
愛車(50ccの原付バイク)に跨がり、キーを捻る。冷えたエンジンが野太い音を立てて目を覚ました。高台にある自宅から、市街地のスーパーマーケットを目指し、彼は原付を走らせる。
スーパーマーケットで菓子類を購入し終えた黒瀬は、再び原付を走らせた。今度は、お気に入りの煙草**(SevenStars)**を求めてコンビニエンスストアへ向かう。
コンビニの外のバイクのシートに座り、セブンスターに火をつける。紫煙を夜空に吐き出しながら、彼は頭の中で、新たな**「遊び」**の構想を詳細に詰めていった。
「どこかに、**『変わってて面白い女子』**は、いないものか?――そうだ、舞台は奈良の古い長屋が残り、レトロなカフェ、古書店が迷路のようにひしめき合っているエリアだ。」
「そこで、若くして純粋な女子に出会う。本来の彼女は真面目だが、何故かこの怪しい男の魅力に引き込まれていく……」
そして、彼の脳内に、その**『素材』となる女性のビジュアルと設定が、まるで光を帯びて「降臨」**してきた。
「名前は、白川 零(しらかわ れい)。**『白』は純粋さ、『零』は『無』であり『始まり』**を意味する。運命を暗示している。」
「服装はクラシックなモノトーン、髪型は漆黒のストレートロングで、飾り気は一切なし。古書店の薄暗い光の中で、純粋さと神秘性を強調しよう」
彼は煙草を一服深く吸い込んだ。
「年齢は二十歳、華奢で非日常的な透明感。細身で小柄、肌は色白。物理的な強さより、精神的な緊張感を纏っているタイプ。よし、これでいい」
**「弱点」**についても、彼は冷徹に定義する。
「彼女の弱点は、純粋さゆえの**『世界の真実』への強い探求心だ。」
そして、真面目さから来る『自分の行動の責任からの逃避』。この脆弱性が、最も抗いがたい精神的な『麻薬』**となる。
「よし、強く握れば壊れてしまいそうな、最も繊細な素材だ」
(ビジュアルイメージが降りて来る)
「コートを来て寒い田舎の夜道を一人で歩いているイメージも欲しい。月夜がいいな。」
(ビジュアルイメージが降りて来る)
「え?という可愛らしい表情のイメージもほしい。」
(ビジュアルイメージが降りて来る)
「よし。これで完璧だ。」
構想に納得し、煙草を揉み消した黒瀬は、再び愛車を走らせ、生駒の高台の自宅へと急いだ。
自宅の書斎に戻った黒瀬は、すぐにデスクに向かった。熱い風呂に入りたいという衝動を抑え、彼はペンタブレットを手に取る。
今、脳内に定着したばかりの白川 零のビジュアルを、彼は一気にデジタルイラストとして描いていく。緻密に、しかし迅速に。
彼の机の上に置いてあったはずの原稿が、微細な粒子になって消えていく。外の冷たい空気と、古書のインクの匂いが、室内に流れ込んできた。
「これでいい。」
黒瀬は満足してペンタブレットを置いた。創造が完了したのだ。
その時、ロータリーチェアの後ろ、誰もいないはずの空間から、気配と共に声がした。
「ともやさん、また面白い動画を見つけちゃった」
振り返る必要はない。彼が連れてきた念の幽霊のイメージから創り出され、見た目は幼い少女だが、中身は生前の記憶を持つ27歳の女性、幽霊少女「りん」だ。彼女は、黒瀬が与えたタブレットPCを常に持ち歩いている。
黒瀬は、一瞬優しい顔になり、タブレットPCを覗き込む。
「どれどれ」
画面に映っていたのは、視聴者を惹きつける人気YouTuberの、くだらないながらも面白い動画だった。
「ほお、これは面白いな」
りん「でしょう?」
黒瀬は何も言わず、デスクの上のカップに注がれたブラック無糖のコーヒーを一口飲んだ。冷たい液体が彼の喉を通り過ぎる。彼は静かに窓の外の夜景を眺めた。
りんは黒瀬の創造の気配など知らぬげに、楽しそうにタブレットPCを操作していた。
真・黒瀬智哉の悪魔的日常 黒瀬智哉(くろせともや) @kurose03
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