異形の神社:禁忌の場所と未知の兆候
社殿は、年月を経て黒ずんだ木材で造られ、その屋根には奇妙な形にねじ曲がった注連縄が飾られている。風もないのに、縄の先端が僅かに揺れているように見えた。空気は鉛のように重く、肌を刺すような冷気が全身を駆け巡る。生者の気配が一切ない。しかし、明らかに何かが「いる」。
境内に足を踏み入れた瞬間、背筋が凍りつくような悪寒が雪を襲った。それは、底の見えない沼に足を踏み入れたかのような、言いようのない粘つくような感覚。まるで、この場所そのものが、何か邪悪な存在の息吹を宿しているかのようだった。
祭られているはずの神の像はどこにもない。代わりにあるのは、ただ、見る者の精神を蝕むかのような、不気味な形をした石のオブジェだけだった。それは、自然の造形とも人の手によるものとも判別できない、混沌とした塊。その表面を流れる無数のひび割れは、生き物の血管のようにも、不気味な文字のようにも見えた。
これだ、と雪は直感した。この異形の神社こそが、この夢の世界の中心であり、全ての異変の源であると。
しかし同時に、ここがこの悪夢からの脱出の鍵を握っている場所であるという、矛盾した予感も彼女の心をよぎった。恐怖と、抑えがたい好奇心が複雑に絡み合い、雪の心を掻き乱す。震える足が、地面に縫い付けられたかのように重い。だが、この場所で立ち止まっていることこそが、最も忌まわしいことであると本能が叫んでいた。
一歩。
雪は、震える足で、その異形の神社の奥へと足を踏み入れた。
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