第2話「闘技場と初デュエル」


 初心者フィールドをほぼ制覇して、落ち着いた拳道とカレン。


 拳道はカレンの誘いで、このゲームの首都ミラディの闘技場を見物をする事となった。


 カレンが「どのぐらいの強さのプレイヤーがいるのか、興味ない?」と言ったのが始まりで、拳道はそれに乗る形で、VRの青空の中、天井のない円形の大きな建物の外周の安い席で、闘技場で戦うプレイヤー達を見物に入った。


 最初の内は、低LVプレイヤーの時間帯であったので「これなら、今の俺でも勝てるな」と思いつつみていた拳道だが、中LVプレイヤーの時間帯になると、拳道の眼の色が変わった。


 炎の剣を持ったプレイヤーや、強力な獣を従えた魔物使い等、リアルでは見れないものが次々と、真剣に闘技場で試合をしているのだ。


 「これは、相手にすると面白そうだな。いいものを見せてもらった」とカレンに礼を言った拳道は、早速、彼らとやり合える強さを得るべく、ミラディの北の墓場でLV上げをすることにした。


 カレンにも異論はなく、二人は北門を抜けて、墓場のフィールドに向かった。


                 ☆


 「フゥゥゥゥゥ…でりゃあ!」


 グシャッ!


 墓石の乱立する、どんよりと曇った夜空の墓場のフィールドで、軽い溜めの後に拳道の繰り出した拳は、おどろおどろしいゾンビの頭を打ち砕き、頭部を失ったゾンビは、セル状になってかき消える。


 「カレンの情報通り、とにかく数が多いな。LV上げにはもってこいだ」


 戦意旺盛な拳道だが、カレンはヒールに疲れてしまい、休憩を口にする。


 「ねえ、拳道。先は長いのよ。強さを求めるのもいいけど、私の方も考えて。ヒールとキュアでMPがギリギリよ」


 そこで、拳道も先走りを悟った。


 「それはすまん。首都ミラディに一旦戻るか。確かに急に強くなっても、それはそれで、鍛錬の道にも外れる。日々精進してこその強さだしな」


 とかいいつつも、二人のLVは20を超えていた。ゾンビは弱いが、とにかく数が多く、毒ももってるため、EXP的は高めであった。


 …このゲームではゾンビに限らず、特殊な攻撃をしてくる敵は、EXPが多い。この場合、プリーストのカレンが「キュア」で毒は消せるので、それほどでもないが、そうでないプレイヤーには、なかなかの難敵で、押し寄せるゾンビを倒せても、毒を受けて、セーブポイントに死に戻るプレイヤーも多いのだ。


 とにもかくにもLVは上がったので結果オーライという事に落ち着き、二人は首都ミラディに戻った。


               ☆


 そして、ミラディに戻った二人は、また茶色一色の酒場「泥沼亭」で飲み食いをしていた。


 今度は酒だけではなく、ツマミも沢山注文しての事である。タレのついた串焼きや、細く切ったチーズ、小魚を揚げたもの等、メニューも多彩にあった。無論、全部VRの疑似的なものだ。


 「VRというのも大したものだな。まるで本物のように飲み食いが出来るとは」


 「確かに、そうね。でも、リアルでもきちんと食べないと駄目よ」


 歓談しつつ、飲み食いを続ける二人。拳道はがつがつと、カレンは上品な手つきで。


 「ようよう、見せつけてくれるじゃないか。そこの姉さん、俺にも酌してくれよ」


 …別の席で飲んでいたガラの悪い大剣戦士が、こちらに来てカレンに絡んでくる。


 「やめとけ、それ以上やると、俺が黙っていない」


 「そうかい、じゃあデュエルで勝負だ。俺が勝ったら、そこの姉さんに酌してもらうぜ」


 「いいわね。あなたが拳道に勝ったら、酌でもなんでもしてあげるわ」


 カレンが火に油を注ぐような事を言う。拳道は呆れるようにカレンに言う。


 「おいおい、もし間違いで、俺があの大剣戦士に負けたらどうするんだ」


 「負ける訳がないから、言ってるのよ、馬鹿ね」


 …それは、完全にこの大剣戦士をコケにしたものであったので、大剣戦士は激昂して言った。


 「そこの武闘家!ズタズタにしてやるから覚悟しろ!女のほうも、約束は忘れるなよ!!」


 「そうくるか、仕方ない…」


 …こうして、拳道はこのガラの悪い大剣戦士と街の広場でデュエルをすることになった。


                ☆


 互いに申請と受理をするとデュエルのドームに包まれる。ここには、外からは干渉できない仕組みだ。


 …このデュエル相手のプレイヤーは両手持ちの大剣使いであり、主に巨大なBOSS戦で活躍するタイプである。


 しかしそれは、どうしても大振りになり、回避されやすいという側面も持つ。


 -そう、こんな風に-


 「くそっ!ふらふら、かわすんじゃねえ!」


 大剣戦士の大振りは、身軽な武闘家クラスの拳道に、かずりもしない。


 「無理を言うな。当たってやる義理はないぞ」


 そして、大剣の大振りの連続でスタミナの尽きて鈍ったところに、拳道の蹴りがみぞおちに入り、大剣戦士は前のめりの態勢になる。グハッと苦しがる大剣戦士。


 後は、拳道は止めの「溜め」の態勢に入り、大剣戦士が態勢を立ち直すところに、力を込めた鉄拳を打ち込む。


 「ぬううううう…でりゃあ!」


 グバキッ!


 起き上がりに顔面に拳を受けた大剣戦士は激しくノックアウトされて、デュエルは拳道の勝利となった。


 …このゲームのデュエルは、デスペナはなく、終了時に双方HP、MPが回復する。無論EXPも入らない、模擬試合的な色合いが強い。


 …デュエルに敗北した大剣戦士は、逃げるように退散した。


 「デュエルというのも、なかなか面白い物だな。今度、低LVプレイヤーのランクで闘技場に出てみるか」


 「駄目よ、それじゃあ、あなたの無双になっちゃうでしょう。あの大剣戦士も見た感じ中堅どころよ。あなたは、鍛えてもっと上のレベルで挑むべきだわ」


 デュエルに意欲を見せる拳道に、それに注釈をつけるカレン。ともあれ、拳道の初デュエルは勝利に終わり、酒場で飲み直す二人だった…。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る