拳法使いのVRMMO外伝-漢は一撃必殺-
夢月 愁
第1話「冒険の始まりと酒場での事」
拳法使いの壮年の男、
外見のいじれないゲームなので、飾り気のない畳の自室で、VRヘッドセットをつけて、アバター名を「拳道」とした彼は、ゲームの初期地点、レバルト王国のミラディの中央公園の噴水前で、華蓮のアバター「カレン」と合流した。
武士、いや拳道は筋骨隆々としたいかつい体躯を初期装備の緑の武闘着に包み、髪は角刈り、男らしい厳めしい顔つきで、あまりゲームをするタイプには見えない。
華蓮、カレンのほうは、OL制服姿の似合いそうな妙齢の美人で、ここでは彼女も初期装備の緑のローブ姿である、フードは外しており、流れるような長い黒髪と、つり気味の目に、高めの鼻筋、厚い紅い唇が、印象的だ。
拳道のクラスは「パワーフィスター」防御姿勢の溜め状態からの一撃が特徴の武闘家クラスで、装備が薄く、被ダメージの多いことから、敬遠されがちなクラスである。ちなみにカレンは普通に「プリースト」だ。
「後方支援は任せて、好きに暴れて頂戴」
PTを組んだカレンは、拳道にそういい、多種様々な冒険者たちでにぎわう、首都ミラディの大通りを通って南門をくぐり、初心者フィールドに出た。二人の冒険が始まろうとしていた…。
☆
上天気の広大な草原で、二人は狩りの態勢に入った。
ゴブリンが向かってくるのを素早く察知した拳道は、早速力の「溜め」にはいった。
「ぬううううう…」
そして、ゴブリンの小刀の一撃を、「溜め」の防御状態の左手で受けると思い切り、右の拳を突き出した。
「でりゃあ!」
…グシャア!!
その「溜めた」右拳の一撃で、ゴブリンは、頭を強打されて、きりもみ状に吹き飛び、HPは0となり、セル状になってかききえた。
「LVUP!」
さっそく二人のLVが上がる。カレンは拳道に「ヒール」をかけて「さあ、どんどんやるわよ」と拳道をけしかけるように狩りの続きを促した。
「ぬううううう…だりゃあ!」
…ゴシャア!!
力のこもった一撃は、ここではそれなりに強いアクティブのゴブリンを一撃確定で倒していった。
…このゲームでは、リアルの強さがある程度反映され、LVやスキルがそれを補正するものであるため、低LVでも、拳道は充分に強かった。
「今日はこの辺にしておくか」
「ええ、そうね」
15体目のゴブリンを倒して早くも10LVとなり、カレンのMP消費がおいつかなくなったあたりで、二人は狩りを切り上げた。
「GPも入ったし、酒場で祝杯はどうかしら?」
「実体のない飲食はあまり好きではないが、酒が飲める店がよいな」
カレンの誘いに、拳道も応える。
…こうして、二人は首都ミラディの、茶色一色の酒場「泥沼亭」に入った。
☆
NPC店員に注文をして、カウンター席でがぶがぶとジョッキでビールを飲む拳道。
「この運動の後の一杯がたまらんわい」
隣の席で対象的に、カレンは冷酒を上品に口にする。
「いい飲みっぷりね。そういうところ、嫌いじゃないわ」
二人は上機嫌だったが、どこにでも、雰囲を壊す者というのはいるもので、店のNPCに、くってかかる青年剣士プレイヤーがでる。
「俺が頼んだものと違うじゃねえか!どこに耳つけてやがる!」
…拳道は、無言で席を立つと、青年剣士プレイヤーに、問うた。
「どうした?注文がちがったのか?」
青年剣士は収まらないようすで「俺はパスタのナポリタンを頼んだのに、ミートソースが出て来たんだよ!」
…どうやら、パスタのソースの種類が違うだけのようで、拳道は、若いこのプレイヤーに聞いた。
「ミートソースは嫌いなのか?」
青年剣士は多少困惑した様子になった。
「いや、嫌いって程じゃないが、注文が違えば、怒るのは当然だろ?」
拳道は、子供を諭すように言う。
「嫌いでないなら、相手の顔も立てて食べてやれ。それが漢というものだ。なんなら、俺のおごりにしてもいい」
青年剣士のプレイヤーは、はっとして周囲を見た。他の客プレイヤーの注目を集めている事甚だしい。そして、自分の行いを恥じたようで、拳道に言う。
「分かった。あんたの顔を立てるよ。でも、何かみっともないから、おごりにはしなくていい」
こうして、酒場は落ち着き、酒場の客は、拳道に拍手をした。
拳道は無言で席に座ると、またビールを飲み直しに入った。
カレンはそれを、少し誇らしげに見ていた…。
…拳道とカレン、二人のVR世界での冒険は、始まったばかりだ。
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