嘘つきの病、急加速を用いて

流山忠勝

告白に至るまで


普通のある日、一人の男が親友にこう言った。


「明日、地球が滅亡するらしいぞ!」


翌日、地球は滅亡しなかったが、そう言った男は死んだ。心臓発作だったらしい。




数日後、親友は家族にこう言った。


「いやー、実はお金が足りなくてさ。え?何に使う?もちろん、勉強だよ!」


翌日、親友は血を吐いて死んだ。遺品の財布には、キャバクラの人気女性の名刺が入っていたらしい。




葬儀が終わった後、家族はご近所さんにこう言った。


「悲しみ?いや、もうありませんよ。そろそろ、前を向かなくてはいけないので…」と、それぞれが言葉に違いはあるものの、大方似たようなことを話した。しかし、言葉には濁りがあった。


その翌日、家族は全員死んでいた。原因は不明。一家心中が疑われたらしい。




こんな感じで、突然全国的に謎の死者が日本で相次ぐようになった。警察は事件性ありとして調査したが、全く証拠も論拠も見つからなかった。


しかも被害者の多くは、大企業の社長や有名な人達が占めていたので、お茶の間は話題に尽きなかった。


日本はそりゃあもうバタバタ人が死んでいった。やがて、様々なインフラが麻痺していき、食料の危機にも陥り、大混乱が広がっていった。




やがて、一人の天才医学者が弟子たちと共にこう言った。


「原因はこのウイルスだ!このウイルスに感染したものは、嘘をつくと死亡する!」


その頃にはすでに日本の人口は、十分の一ほどの人口になっていた。


政府はこれを急いで発表したが、そう簡単には人口の減少は収まらなかった。


なにしろ、人間は嘘をつく生き物だ。ましてや日本人ともなれば、交渉、世間話、ジョークなどでよく嘘をついてばかりいるものであるから、人はどんどん死んでいく。


謎が解明されても、民族レベルで染みついてしまっている特性というものは、服に着いた墨汁と同じくらい取れないものである。


よって、原因が分かっても、嘘をついて死ぬ人間は日々生まれてしまっていた。






午後4時頃、ある高校生男女二人組が帰路についていた。


「ねぇ、知ってる?」


「何が?」


「隣のクラスの山岸くんの死因」


「あーあれね」


「テスト点数。それを偽って言ったんだって」


「マジか。それだけで死んだの?」


「本当に嘘を言ったら死ぬのかって、言ってたらしいよ。信じられなかったみたい。プロパガンダが、うんたらかんたらとか…」


「あー、なるほどなぁ。でも、ちょっと分かるわ」


「そうなの?」


「俺の両親さ。二人とも浮気しててな。浮気してるかしてないかで話し合った翌日に死んだんよ。第一発見者は俺」


「…聞いていいの?この話」


「いや、いいよ、いいよ。嘘じゃないんだし。結構扱いとかも、ひどかったしさあ、今は、おじいちゃん家で住めているからオールオッケーだ」


「そう…まあ、私のところも、両親が本音で話すようになってさ…感染したかどうかは分からないけど、二人とも前よりも明るくなったかも」


「いいね。やっぱ、一度は腹を割って話し合わないとだな。嘘を言ってばかりじゃ、疲れもするし」


「うん…あっそうだ。ところでなんだけどさ」


「ん?何?」


一呼吸。


「…あんたってさ、やたらと昔から私に構ってくるけど…私のことが好きなの?」


沈黙、その数秒後。


「どっちだと思う?」


「何その曖昧な言い方…」


「いや、あのえっと。正直に言ったら死ぬんじゃないかなと思ってしまいまして…」


「じゃあ、正直に言え。アホズラ」


「アホズラ…?」


「いいから!?」


「じゃあ、結婚してください」


「飛ばし過ぎだわ!??」


「いや、嘘をついたら死ぬし…」


「本心それなの!?段階は!?ねぇ!」


「それに、いいじゃんか。最近、早くに結婚する人多くなったし」


「…あー、それもそうか。」


この世界では、以前よりも正直者は増えたらしい。


二人は何気ない道を通り、家へ帰った。


4年後、彼は妻となった元同級生の体に、清廉潔白な長男を想像した。


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