第1話 ガチャと鑑定

 3歳の誕生日に夢を見た。そこは無機質な空間で異質なものがあった。ガチャポンだ。ああ、これが恐らく神様が言っていたやつだなと思いそれに近づく。目の前に立つと説明書きがあった。




 『一生に一回!ギャンブル能力ガチャ!


 このガチャは、上位存在以外は一人一回までとなっています。何が出てくるかは完全にランダムなのでクレームには対応できません。引き当てた能力は即時反映されますが、その際に出る違和感等は身体がその能力に適応するためのものですので数日経てば元に戻るのでご安心ください。』




 俺は悩んでも仕方ないと思い、ガチャを引いた。俺自身で引き当てた第二の能力は




【魔闘適性】




 これはどうなんだ・・・?この能力の詳細が頭に流れてくるが、簡単にまとめるなら魔法と武器に対して適性を持つ魔法戦士の上位職。うーん、この。俺は使うことがなさそうだと思いながらなかったはずの扉があることに気が付いた。




『出口はこちら』




 今までいたこの場所が『ガチャをしなければ出れない部屋』であったことに驚きを受けつつ俺はそこから出ると目が覚め、俺の首に光の首輪が出現していることに気が付いた。いつも通り洗浄魔法の効果がある水でうがいをし終えると、ドアを3回ノックする音が聞こえた。恐らく起こしに来た使用人だろう。俺は入室を許可し、使用人が入ってきた。




「ッ!.......ミリバーブ様、朝食の準備が整いました」


「あい!いまから、いくねー!」


「かしこまりました。ではご同行させていただきます。.......おい、ご主人様にお伝えしろ、ミリバーブ様に光輪が出たと(小声)」




 彼女はメイドのアイリス。俺の世話役の一人だ。メイドのなかでも地位は上の方なのかよく他のメイドや新人の教育を任されているのを見る。俺は彼女と一緒に食堂に行った。そこにはすでに両親や兄たちが揃っていた。




「ミリバーブ!お前はゴッドトリックを授かるとはな!3兄弟全員がギフトを授かるとは、今鑑定士を呼んだ。これが終わったら居間に来なさい」


「俺と兄上はファミリー・ギフトだったからな!いやー!どんなギフトかワクワクするな!」


「僕らみたいに戦闘向きなギフトではないかもしれないけど、それに合った家に婿入りするかお嫁さんを迎えればいいから落胆することはないよ」


「ふふ、まあ今はご飯を食べましょ?ミリーが物欲しそうに食事を見てるわ」




 和気藹々とした雰囲気で食事は進んだ。正直言葉遣いや作法が年相応になっていることに違和感を覚えつつ美味しい食事を口に運んだ。裕福な家庭に生まれたことに感謝だ。食事を終えるとみんなで居間に向かった。するとそこにはすでに家お抱えの鑑定士であるノーリーが鑑定の準備を整えていた。




「おお、ご主人、ちょうど準備が終わったところです」


「うむ、では頼むぞ」


「はい。では坊ちゃん、この水晶に触れてください」




 ノーリーの指示通りに水晶に触れると前世で言うところのステータスが映し出された




ステータス


 名前:ミリバーブ=アーベル・ニナーナル


 年齢:3


 魔力:あり


 ギフト:【完全翻訳者トランスレーター】Ⅱ 代償:不明


 魔闘 代償:戦闘に対する忌避感の減少(不可視)


  才能:黒魔法◎


     白魔法◎

 

     筆記〇


     戦闘▲




【完全翻訳者トランスレーター】:Ⅰでは生物間の翻訳が可能。Ⅱでは単位の翻訳が可能




 ふむ、魔闘は見えないのか。つまり、この世界の人間のギフトは基本1つ?まあ俺はある種イレギュラーであるし、納得だ。そしてこの才能の欄は多いのか少ないのか……。ふと父親を見ると何かを考えるそぶりをしていた




「ふむ、ギフトのレベルがⅡ。珍しいな」


「ええ、しかし翻訳でありますからね。家族との会話の経験値が蓄積されていた可能性もあります。しかも幼い時に光輪を与えられた場合、早くレベルが上がることが報告されていますから」


「ああ、しかし代償が不明か。心当たりは?」


「少数ですがあります。特に自身の状況をあまり理解できていない子供に多いですね」


「わかった。では水晶に登録を頼む」


「かしこまりました。・・・・・・完了いたしました。坊ちゃんこれがあなたのステータスカードになります。この向かい合わせの馬の刻印のある水晶ならどこでも現在のステータスが確認可能です。ロックを掛けましたので他者からは見えませんが、なくした場合はすぐにご両親様にお伝えください。再発行いたします。では、私はこれで、失礼いたしました」




 そう言ってノーリーは帰っていった。兄たちは白黒魔法の両方が使えることに大変喜んでいた。なんでも両方が◎なのは珍しいことのようだ。一方両親は何か話していた。聞き耳を立ててみると




「ああ、エルザとデュアンヌを家庭教師にしてギフトについての研究と同時に魔法の訓練も行う」


「本気ですか!?代償が不明なんですよ!?もしひどいものならミリーが……」


「なら何もないところに監禁だな。恐らく翻訳のオンオフは現時点ではできないだろう。だから我が領内最高のギフト研究者であるエルザと多量の知識を持つ魔法士のデュアンヌを呼ぶのだ。それと、婚約者を探さねばならんな、翻訳に両魔法の適性持ちとくれば欲しがる手も多いだろう」




 家庭教師に婚約者と前世では全くと言って縁がなかったものだ。楽しみでもあり、ちょっと怖くもある。兄たちが平然と外の魔物を狩り、それを誇る母。そして軍の演習の名目で盗賊を殺しても淡々としている父。全く違う価値観、自分には合わない価値観。少なくとも今はそうだ。これから来る家庭教師や婚約者候補が自分とは離れた、この世界の価値観であることはほぼ確実だ。そこと折り合いをつけながら歩まなければならない。なぜなら俺は貴族なのだから




〈???side〉




「いやー、まさか魔闘を引き当てるなんてねえw」


「――様、そんなに面白いものなのでしょうか」


「えー、だって今でこそ忌避感があるけど魔闘の影響で結局は戦いの道に進むんだぜ?それまでの葛藤とかそれからの行動の変化とか面白そうじゃん」


「まあこれからの世界情勢的に戦いは避けられませんからね」


「そそ。まあ魔闘を使わないようにしてもいいけどね~。その時はどうせ色々なものを送り込むだけだしー」


(私は知っている。神が賽子を振らないことを。私は知っている。あのギフトを与えた時には中身が決まっていたことを。けれど私は言わない。――様が決めたことだから)




用語


水晶:鑑定士により作られた各人のギフトや才能を他者にも見られるようにしたもの。触れた個所から魔力を読み取り、最新情報を知れる。現在王国に流通している水晶は王侯貴族お抱えの鑑定士サークルが作成したものに王家の紋章を刻印したもの。水晶に一度登録すると同じ紋章が刻印されている水晶ならどれでもステータスを見ることが出来る


魔力:大体の人々に存在する。魔法を使うための燃料であり、その量や質はピンキリである。一部魔力がなしと判別される人間もいるがほとんどないに等しいだけで実際には存在する。魔力を与える魔法も存在する


白黒魔法:白魔法は自己を犠牲とする魔法(例:自身の魔力を使い炎を出す)


     黒魔法は自己を犠牲としない魔法(例:他者から魔力を得て炎を出す)


才能◎:記号はその才能の差を示す。◎,〇,▲,△,無印である。判定はこれまでの統計から導き出されたものであり、鍛錬やメンタルにより変化するものもあるとされる。(例:PTSDになると戦闘〇→▲となる)

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