雪と風

ふわ骨

雪と風

「ふん、ふふーん。今日のご飯は、なーにかなー」


 雪の質量を持った吹雪の音が外で響く中で、シェルターの中をぐるぐると周り、鼻歌混じりに言うと、セラが私に調子を合わせて言った。

 

「今日のご飯は乾パンだよーん」

「えー、乾パンかー、もう飽きたんだけどー」


 そう言うと、セラはぷくっと頬を膨らませる。

 

「そんなこと言ったって仕方ないでしょー、他に食べるものなんてないんだもーん。というかミナは昨晩つまみ食いしてたじゃん」


 な、なんと、バレていた!


「えっと……そうだっけなー」 

 

 必死にとぼけると、セラが食料庫のドア前を陣取って、腕を組みながら言う。

 

「もう、味わって食べないならもったいないからミナはご飯抜きかなー」 

「うそ、食べた!めっちゃ美味しかったです」


 私は体を乗り出して謝る。

 

「ダメかなー」

「どっちみちそうなんじゃん!ねぇー私が謝ってるんだよ?許してよー」


 顔を下げて、申し訳なさそうに声のトーンを下げてできるだけ可愛く言った。

 こうすればセラはいつも折れてくれる。

 

「……じゃあその分働いてもらうからね」

「えー、やだー」


 私がそう言ってジタバタする。


「だめー、じゃあ今日は、雪かきミナだけで頑張って」

「無理だよ、ねぇ一緒にしよ?」

「ふふ、冗談だって」



 私は歌を口ずさみ、頭にヘルメットを被せて、つなぎを着ようとするが、いつものように着れなくて、セラに助けを求める。


「ねぇー、手伝ってー」

「はいはーい」


 セラは私よりも2つ年上だ。そして、私よりも10cmは背が高い。そんな彼女は私のヘルメットを取って言う。


「バーカ」

「な、なにぃー!?」


 さっさとつなぎを着て、もう1回ヘルメットを被る。そしてドアの前へと歩いていくと、後ろから抱きついてくる。


「ごめん、冗談。でも、危ないから急いじゃダメ」


 声を聞いて、落ち着く。すーはー、すーはー。息を吸って吐く。息を吸って吐く。セラの息遣いと混ざった。


「うん、ごめんなさい、セラ」 


 私たちは落ち着いてから、銀色のくすんだシャベルを手に取って外へと続くドアに手をかける。


 2人でドアを開けると、雪の混じった風が私たちへと痛いほどに吹き付けた。5m離れたら、もう何も見えない。だから、絶対お互いが見えるところに居ないといけない。


 ドア周辺を除雪して、ドアを閉める。すると光は断絶されて、顔がはっきりとは見えなくなる。悲しくなって、除雪中のセラに抱きつく。


「どうしたの?」

「暗くて、怖い」


 私を抱きしめて言う。

 

「そうだね、暗いね、私も怖い。でも車の場所まで頑張ろ?」 

「うん、じゃあ頑張る」


 私は雪を上層と下層の2回に分けて、雪をシャベルに積んで投げた。隣にはセラがいて、セラは1回でシャベルいっぱいに持って、風で帰ってこないように、遠くへと投げる。


***

  

 1時間くらい経った頃、音を立てて風が襲ってきた。それは、雹や霰の混じっていて、1粒1粒が重くて、痛い。


「ミナー?」


 問いかけても、声は聞こえてこなかった。

 周りを見渡すも、姿は見えない。

 

 一面に広がる太ももまである雪の中、私は駆けた。

 ビュー、ビュー、と吹く風の中、私は大きな声で歌った。

 いつまで経っても、ミナは応えてくれなかった。

 雪は私を包んで、風は私を離さなかった。やがて雪は私の体温で溶けて水となり、水は吹き付ける風で氷になる。

 段々と体温が奪われていって、末端から動かなくなっていく。何よりも耳が痛い。縁から蝕んで、それは内部に侵入していく。ギリギリ、と耳鳴りがして、同じ種類の痛みのままに頭へ到着する。

 駆けた足は凍って動かない。喉も凍って声が出なくなっていた。視界に入っていた白い息も段々と見えなくなっていく。

 痛みを耐えていると、頭に雪が積もって重い。瞼が重くなってくる。シェルターでの日々はもうない。私はそれを受け入れた。

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