人類が滅んだ世界で恐竜人間とセカンドライフ

雨宮 徹

第1話 今日は人類記念日

 この世に10進法はない。人類は絶滅したからだ。どうやら、快適すぎて子孫を残すのを忘れたらしい。きっと、ジャパニーズカルチャー、こたつ布団が世界に広まり、快適すぎたんだろう。俺たち恐竜人間は、そう解釈している。古代文献は、なぜ? を教えてくれない。過去を振り返っても仕方がないわけで、絶滅の理由なんて、こんな適当でいいだろう。



 そんなことよりも、目の前の冷たい棺をどうするかが問題だ。中には古代人、つまり、人類がいる。おそらく、彼も絶滅の理由は知らないに違いない。そんなことはどうでもいい。俺の知的欲求が満たされれば。



 棺には彼の名前が書かれていたはずだが、残念ながら長年の劣化で読み取れない。とりあえず、タロウともでも呼ぼう。ニホンジンの中では、一般的な名前だったらしい。俺、ヴェロキラプトル種の「キョウミ・シンシン」なんて名前よりだいぶマシだ。シンシンなんて、まるでパンダの名前のようだが、親からもらった大切な名前だ。



 なんにせよ、この棺をぶち壊して、今日の研究日誌をつける必要がある。どうするか。



「シンシン先生、どうします? コールドスリープを溶かすのは難題ですよ?」



 隣でプテラノドン種のソラ・トブは難しそうな顔をしている。確かに、俺たちには溶かすのに必要な器具を用意する予算がない。



「助手よ、原始的にいくぞ」



「原始的に……ですか?」



 近くにあった長い古代棒を手に取ると、ガツンと食らわせる。想像通り、俺たちと人類を隔てていた余計なものは吹っ飛んだ。バーン!



 数分後、仮名タロウは、ブルブルと震えながら、氷の棺から出てくる。おお、これは歴史的瞬間!



「なんだここ? つうか、寒っ!」



「聞いたか、ソラ・トブ! 古代人が発した言葉だ。これは、何かの呪文に違いない。録音しているか?」



「録音してます。それに当たり前ですよ。彼はコールドスリープから目覚めたばかりですから、寒いはずです」



「静かに! これは古代の教訓だ! 寒さを極限まで高め、彼らはこたつ布団を求め、二度とそこから出られなくなり、絶滅したに違いない! ああ、なんと哲学的で、ゆるふわな滅亡だ!」



 仮名タロウは、目を擦りながら起き上がり、初めて俺たちの姿を認識した。



「あんた達、ティラノサウルスか!?」



「違う、ヴェロキラプトル種だ。君たちは、恐竜といえば、ティラノサウルスと決めつける。俺たちは、そう単純ではない。人類もニホンジンやアメリカジンがいたのだろう? それと同じさ」



「うーん、確かにそうかもしれない。それで、ここはいつの時代だ?」



「いつの時代か。その問いに答えるのは難しい。ソラ・トブ、今は何年かな?」



「先生、我々に時代という概念はないでしょう?」とソラ・トブ。



「どうやら、恐竜人間は大雑把らしい。だって、プテラノドンは厳密には恐竜じゃないだろ?」



 タロウの言うことはもっもとだ。どうやら、彼は最低限の古代生物への知識は持っているらしい。なんと賢い古代人なんだ!



「さて、タロウよ。これから、君と我々、恐竜人間の素晴らしき共同生活が始まるわけだが、何か一言コメントが欲しい」



「もう一度ゴールドスリープして、悪夢を忘れたいね」



 こうして、シンシン、ソラ・トブ、仮名タロウの奇妙な共同生活が始まるはずだ。たぶん、滅亡に勝る、新たなカオスが。

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人類が滅んだ世界で恐竜人間とセカンドライフ 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993

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