われわれはうちゆうじんだ

アオヤ

第1話

 私はいつもの様にベッドにうつ伏せに横たわりながらタブレットでweb小説の執筆をしていた。

ベッドに横たわっているとチョットだけ眠くなって執筆という作業にはむかないんだけど・・・

私はこの瞬間がリラックス出来て大好きだ。

いつもの様にウトウトして来て夢の中なのか現実の世界なのか区別がつかなくなって来た。




 ふっと気が付き執筆を続けようとタブレットを見ると…

『われわれはうちゆうじんだ』

タブレットにこの一行が書かれていた。


 コレはなんだろう?

私が寝ぼけて打ったのか?

いやそんな筈は無い。

私以外の誰かが打ちこんだモノだ。

一体だれがこんなイタズラしたの?

誰かのイタズラに謎が深まるばかりだ。




 不意に私の背中には茶トラの小肥りの猫、ニッツが載ってきた。

『頼むからそこで爪研ぎだけはしないでくれ』

彼は私の顔を見て「ニヤッ」と鳴いた。

「まさかアナタが書いたの?」

私がジッとニッツを見つめると彼は嘘をついているオッサンみたいに挙動不審な行動をする。


 私はニッツを高く抱え上げ扇風機の前に連れて行った。

「我々は宇宙人だ」

扇風機の前で風を浴びながら呪文を唱える様に呟いてみた。

ニッツはそんな私を見て「なんだコイツ?」って言ってる様に思えた。


 「ねぇニッツ、あなたは宇宙人なの? もしかしたらニッツの本当の姿は未確認生物チュパカブラ? ねえ、ニッツは何をする為に地球にやってきたの?」

私はジッとニッツの目を見て問いただすけれどニッツは全く知らんぷりだ。


 「ねえニッツ、私に隠し事なんかしないで、本当の事を教えて」 

今度はニッツをタブレットの前に連れて行った。

そしてタブレットの画面にニッツの肉球を押しつけて文字を打ってみる。

でもダメだった。

ニッツの肉球の一点をタブレットに押しつけるのは難しく、文字なんてまともに打つ事は出来ない。


「いったい誰がこんなイタズラしたの?」

私の頭の中には??????

クエスチョンマークが果てしなく続く。


 ニッツはそんな私を見て呆れた様な顔をした。

『しょうがないな』

私の頭の中にニッツの声が伝わって来た様に感じた。

そしてニッツは私にウィンクをした。

その瞬間、私の周囲がまっ暗になった。


 気がつくと私はタブレットを見ながらうつ伏せで寝ていてタブレットには例の文字が書かれていない。

起き上がろうと頭を上げようとしたら、ニッツが私の頭を踏んづけてきた。

ニッツに押さえつけられて私は起き上がれない。


 その時、部屋の扉が開いて誰かが入って来る気配がした。

この香りはお姉ちゃんだ。

お姉ちゃんは私の頭の上のタブレットを手に取ると何かを打ち込んでいるみたいだった。

そしてタブレットを元の場所に置くと何事も無かった様に部屋を出ていった。

ニッツは私の背中に移動して「ニィッ」と鳴いた。


 自由になった私は起き上がってタブレットを見ると『われわれはうちゆうじんだ』と書かれている。

「お姉ちゃんだったんだ!」

でもなんで・・・?


 私はニッツを両手で顔の前まで持ち上げた。

疑われた事に怒ってるのか、ただ単に嫌だったのか分からないけどニッツは私に猫パンチを食らわしてきた。

 「ニッツ疑ってゴメンね」

私はニッツを撫でながら犯人が分かってホッとした。


 でもちょっと待って。

もしかしてこれ時間が巻き戻ったの?

私はニッツをジッと見つめる。


 ニッツは『知らねえよ』と言ってるみたいにプイッと横を向いて部屋の外に向かって歩きだした。

「待ってニッツ。どこ行くの?」

私はニッツを追って部屋を出たがもうニッツは階段を下まで降りて玄関から外に出ようとしていた。

慌てて私もニッツの後に続き外に出た。

外に出た私はその場に立ち止まり凍りついた。


 「いつも見ている風景と違う」

私の家から出た風景がいつも見ている風景と違っていた。

それはおばあちゃんから聞かされていた様などこかノスタルジックな風景だった。

目の前にはロバに台車を引かせたパン屋さんが停まっている。

そして遠くの方から変なリズムでサックスの音色に鐘と太鼓を合わせた変な曲を奏でた人々が近づいて来る。

「あっ、チンドン屋さんだ」

近くにいた小さな女の子がさけんだ。

チンドン屋って何?

そう思ったけど派手な格好で踊りながら演奏して近づいてくる音楽隊は昔おばあちゃんに聞いたことがある。

新しく開店するお店がその宣伝広告としてその音楽隊をつかうらしい。

チラシを配りながら宣伝活動をするという。

でも、昭和が終わる頃にはもう全く見なくなったっておばあちゃんは言ってた筈だ。


 ここはいったい何処なの?

私の家の近所の様で近所じゃ無い。

チンドン屋が演奏しながら目の前を通り過ぎるとそれを追いかける様にニッツが現れた。

私はニッツを胸に抱いた。

「ねえ、今度出来た万町のスーバー早速行って見ない?」

聞き覚えのある声が後ろからして私は振り返る。

その声はおばあちゃんだった。

でも、おばあちゃんが若い。

私と同じ位の年齢に見える。


それにおばあちゃんが亡くなってもう一年になる。

「いつもニッツに『おばあちゃんに遭いたい』って言ってたから合わせてくれたの?

でもニッツ、おばあちゃん若すぎるよ。なんて声をかけたらいいの?」

私は嬉しさに涙が溢れた。

そしたら涙をながしている私に気がついておばあちゃんの方から声をかけてくれた。

「あらっ、どうしたの? ちんどん屋さん見て感動したの?」

おばあちゃんらしいズレた感覚も懐かしい。

「いえ、ちょっとだけ悩んでいたものですから・・」

「そう、もし私で良かったら相談にのるわよ」

「あの・・・ 私、小説家になりたいんですがうまく行かなくて・・・」

「あらそうなの? アナタ小説書いている時って楽しい?」

「ハイ、自分が出来ない事を小説の中の主人公がスラスラ解決して行く姿を創造するのが楽しいです」

「それなら大丈夫よ。好きな事をする事は時には辛く感じる事も有るかもしれないけれど、続ける事で自信がうまれるわ。だからその自信を糧に頑張るのよ。私が見ててあげるから」

「ハイ、ありがとうございます」

私が笑顔を見せるとおばあちゃんは安心したのか行ってしまった。


 ニッツは『もういいだろ?』と言う様に私の胸の中でニィッと鳴いた。

そして私を見つめまたウィンクをした。

私は一瞬めまいがして辺りがまっ暗に成った様に感じて気を失った。


 次の瞬間、気がつくと私は自分のベッドの上でうつ伏せに寝ていた。

タブレットには『われわれはうちゆうじんだ』という文字が書かれていた。

そして私の背中にはニッツが乗っていて私の顔を見つめ「ニィッ」と鳴いた。


 私はニッツに「ありがとう」と呟いた。



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