第4話 「放課後の密着――甘えん坊は、触れて確かめる」

放課後のチャイムが鳴った瞬間、恵風は俺の袖をつまんだ。


「……遥斗」


「ん?」


「今日は……一緒、だよね」


確認するみたいな言い方。

昨日の帰り道が、よほど効いたらしい。


「もちろん」


「……よかった」


その一言で、恵風の肩から力が抜ける。

その様子に、胸の奥がちくりと痛んだ。


教室を出ると、すぐに気配が増えた。


「やっほ~、二人とも」


如月だ。


カバンを肩にかけ、いつも通りの笑顔。

でも、目は完全に“仕事モード”。


「今日は一緒に帰るんでしょ?」


「……え?」


恵風が、小さく声を漏らす。


「昨日、遥斗と約束してたの。ね?」


「っ……あ、ああ」


目配せ。合図。

俺は内心で覚悟を決めた。


「三人で、ってこと?」


「そうそう。たまにはね」


如月は自然に俺の反対側に回り、歩き出す。

その距離感が、絶妙に“恋人未満”。


でも――


校門を出た瞬間、恵風が俺の手を握った。


ぎゅっ。


「……っ」


指と指が、絡む。


今まで何度も隣を歩いてきたのに、

手を繋いだことは、ほとんどなかった。


「め、恵風?」


「……はぐれたら、やだから」


理由になってない。

でも、その声は真剣だった。


如月は一瞬だけ目を細め、それから楽しそうに笑った。


「ふふ。恵風、積極的」


「……だめ?」


「ううん。可愛い」


その“可愛い”が、追撃だって分かってる。

恵風は分かってない。


だから、握る力が、さらに強くなる。


歩きながら、恵風は俺の腕に体を寄せてきた。

肩が触れ、制服越しに体温が伝わる。


……近い。

近すぎる。


「遥斗、あったかい」


「そりゃ……」


「……落ち着く」


その一言で、心臓が跳ねた。


如月が、わざとらしく咳払いをする。


「はいはい。じゃ、ここで寄り道しよっか」


「寄り道?」


「アイス。暑いでしょ?」



コンビニ前。


如月はさっさと三つ買って、俺たちに渡した。


「はい、恵風。溶ける前にね」


「ありがとう」


ベンチに座る。


如月は俺の隣。

恵風は、そのさらに隣――ではなかった。


俺の膝に、恵風が、ちょこんと腰を下ろした。


「……え?」


思考が止まる。


「恵風!?」


「……だめ、かな」


振り向くと、恵風は不安そうに俺を見上げていた。

距離が近い。吐息が触れる。


「最近……遥斗、遠い気がして」


「それは……」


「だから、ここ」


理由が、切実すぎる。


如月は驚いたふりをしながら、

内心では完全に計算している顔だった。


「へえ……恵風、そんなに不安だったんだ」


「……うん」


「そっか」


如月は俺の耳元に、そっと囁く。


「……自覚、ほぼ完成」


俺は、恵風の腰に手を回すか迷って、

結局、支えるだけにした。


強くは触れない。

でも、落とさない。


それだけで、恵風は安心したように目を細める。


「……ねえ、遥斗」


「ん?」


「如月お姉ちゃんと……恋人なの?」


空気が、止まった。


如月が答える前に、俺が口を開く。


「……どう、思う?」


「……」


恵風は少し考えてから、

ぎゅっと俺のシャツを掴んだ。


「……いや」


即答。


「遥斗が、誰かのになるの……想像すると、胸、苦しい」


「……」


「これって……なに?」


その問いは、俺に向けられているようで、

同時に、自分に向けられていた。


如月が、静かに立ち上がる。


「恵風。それはね」


「……」


「“好き”の入り口」


恵風の目が、見開かれた。


「……すき?」


「うん。まだ名前を知らなかっただけ」


恵風は、ゆっくり俺を見上げる。

不安と期待が、同時に揺れている目。


「……遥斗」


「なに」


「……いて?」


ただ、それだけ。


命令でも、お願いでもない。

本音だった。


俺は、ようやく決めた。


恵風の腰に、そっと手を回す。

抱き寄せるほどじゃない。

でも、確かに“選んだ”距離。


「……どこにも行かない」


恵風は、ほっと息をついて、

俺の胸に額を預けた。


如月は、その様子を見て、満足そうに微笑む。


「じゃ、私はここまで……かな?」


「如月?」


「これ以上は、邪魔でしょ」


立ち去り際、如月は俺にだけ聞こえる声で言った。


「――あとは、遥斗次第……だよ」


残されたのは、夕暮れと、密着した体温。


恵風は、まだ自覚の途中。

でももう――離れるつもりは、ない。


その重みを、俺は胸いっぱいに受け止めていた。

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2025年12月17日 10:00
2025年12月17日 16:00
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双子と幼馴染の恋は、だいたい作戦通り しゆう @togetogetogeji

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