第2話 運命の賭け、代償は幼女

(冷静になれ、俺。俺は男だ! 魔法少女になる訳がねえ! 学校での適性検査も女子しかやってねえんだ。絶対に大丈夫だ!)


辰宮才牙は、目の前のキノコに付きまとわれる日常から解放されることを信じ、腹を括った。

チーポはその覚悟を待っていたかのように、満面の笑みを浮かべる。


「ほな、ええか?」

「ああ……早く終わらせろ」


才牙がそう言い終わるか終わらないかのうちに、キノコの妖精チーポは、両手を広げて大仰なポーズを取った。


「魔法少女変身ビーム!」


そのふざけた掛け声とともに、才牙の全身は、まるで太陽そのものを浴びたかのような、激しい光の柱に包まれた――!

光が収束し、地面に立っていたのは、数秒前の男子高校生ではなかった。

そこにいたのは、見る者全てが息を呑むほどの美しさを纏った、どう見ても10歳ほどの幼い少女だった。


ボロボロのフード付きの調停者(ジャッジ)を思わせる、どこか退廃的で神聖な衣装。光を受けて淡く輝く銀髪は、スラリと伸びた華奢な体躯に流れている。

瞳の色は、澄み切ったスカイブルー。そしてその瞳孔は、異世界の力を証明するかのように五芒星(ペンタグラム)を描いて光っていた。色白で華奢な儚い体つき、スラリと伸びた手足は傷一つない透き通るような肌をしている。


すなわち、**超絶的な美幼女(ビューティフル・ロリ)**の誕生である。


「な! な! なんじゃこりゃー!!!」


自身の体を見下ろし、甲高く幼い声で絶叫する、元・男子高校生、辰宮才牙。

一方、契約の賭けに完勝したキノコの妖精は、鼻高々に胸を張った。


「ワイの勝ちや」


目の前に広がる、自分の手足。細く、華奢で、どう見ても女の子のものだ。しかも、こんなに幼い姿にされてしまった。

辰宮才牙(中身は男子高校生)は、あまりの衝撃と屈辱に、その小さな顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。


「なんで……なんでこんな……」


自分が今まで必死に守り抜こうとしていた**「男のアイデンティティ」**が、一瞬の光とキノコのふざけた掛け声によって、完全に破壊されたのだ。

一方、勝利を確信したキノコの妖精チーポは、下卑た笑いを漏らしながら才牙(幼女)の周囲を飛び回る。


「ゲヘヘ、才牙ちゃーん、約束は守るんやでぇ? 僕と契約して、魔法少女になってよ!」


契約をしなければ、一生付きまとわれる恐怖。しかし、契約をすれば、この**幼女(魔法少女)**の姿で、世界を救うために戦わなければならない。

どちらを選んでも、最悪の未来しかない。

才牙は、その絶望的な状況を前に、ただただ泣き続けるしかなかった。


「頼む! 元に戻してくれー」


幼い声で泣き叫びながら、才牙はチーポに掴みかかろうとする。しかし、華奢な幼女の腕では、空を舞うキノコを捕まえることすらできない。

チーポは、才牙の絶望を面白がるかのように、ニヤニヤと笑った。


「なんや? 元に戻りたいんか? 才牙ちゃん(笑)」

「殺す! お前を殺して俺も死ぬ!」


才牙の殺意に、チーポは慌てたように言葉を挟む。


「まー待つんや才牙。何も戻れへん事はない」

「な!?」


才牙の瞳に、一瞬だけ光が戻る。チーポはその隙を逃さず、悪魔の提案を続けた。


「【アンヴァー】を倒すと、妖精ポイントちゅーもんが手に入る。それを使ってワイが才牙に解除魔法をかけることで、元に戻ることは可能や」


「何で今できないんだよ!?」

「妖精ポイントがないからやな」


絶望的な現実。この幼女の姿から脱出する道は、ただ一つ。


「……つまり、アンヴァーを倒すしかない?」

「せや! そして、良いタイミングや。来るで、才牙!」

「あ?」


チーポの言葉と同時に、街中にけたたましい電子警報が鳴り響いた。


『警報!この地域一体に事件転送傾向が確認されました。アンヴァー襲来の可能性があります。一般市民は速やかにシェルターに避難してください』


才牙の顔が、恐怖と驚愕に引きつる。


「な! アンヴァー警報!!」


常識を覆す**「魔法少女適性」**を持ってしまった男子高校生・辰宮才牙。

彼の運命は、「男に戻る」という目的のために、嫌々ながらも世界を救う戦いに身を投じることで確定した。

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