SST3
渋谷かな
第1話 ただ兄に会うために・・・・・・。
世界スターシアの中心にある、星見の塔、最上階。
「アナスタシア!? アナスタシアなのかい!?」
カードの封印から解かれた、霧状の元魔王ソヴ―ル・ルミナリウスは震えていた。
「返して!? 私をお兄ちゃんの元へ!? 助けてー! お兄ちゃん!」
悪魔バエルにカードに閉じ込められて誘拐されてきたシエル。
「アナスタシア様。こちらは、あなた様のおじい様のソヴ―ル様です。」
「知らない!? 私の家族はお兄ちゃんだけだもん! それとも、私は霧の末裔か!?」
魔王ソヴ―ルは、長い間カードに封印されていたので、思うように体を維持できていない。
「それでも構わない。私には分かる。分かるぞ。魔界の王族、ルミナリウスの血を継ぐものだ。」
煙から涙の様なものが光る。
「帰して! 私をお兄ちゃんの元へ! 帰しなさい!」
「おお! この気象の荒さは、正しくご主人様と同じ気性! 本物のアナスタシア様です!」
従者の小悪魔のミニ・デビルも感動の再会に大喜びである。
「アナスタシアよ。兄の元へ帰るためにも、力が必要ではないか?」
「力?」
「そうだ。これからアルクは大変な運命と戦うことになるだろう。その時に、おまえが力になってやるのだ。」
「私が、お兄ちゃんの力に?」
元魔王ソヴ―ルは、孫のアナスタシアに提案する。
「そうだ。まずは魔界を治めよ。」
「魔界!?」
「これからの運命と戦うためには、必ず七人の悪魔騎士の力が必要になる。そうでなければ、兄を助けることはできない・・・・・・死ぬことになるだろう。」
「お兄ちゃんが死ぬ!? ダメよ!? そんなことは!?」
力とは、強いだけではなく、仲間の数にもよる。
「本当に、それが、魔界を治めることがお兄ちゃんのためになるのね?」
「そうだ。国王や魔界などの呼び方は、時の権力者が都合の良いように決めただけだ。魔界は悪ではない。我がルミナリウスこそが、本当の光なのだ!」
誰が決めたのだろう? いつから決まったのだろう?
「分かったわ。あなたの言うとおりにする。」
(お兄ちゃんに会うためだもの!)
「ありがとう。我が孫よ。」
シエルの動機は不純で、全ては兄アルクに会うためだった。
「どうやら、私の意思もここまでの様だ。アナスタシア。可愛い私の孫よ。私の力を授けよう。」
「キャア!?」
元魔王ソヴ―ルがカードになり、シエルの体に入っていく。
(なんだろう? 分かる? この人が、どれだけ私を心配していたのかが!? 私に会えて嬉しかったのが!?)
(アナスタシア。気を付けるんだよ。本当に悪い奴は人間じゃない。本当に悪い奴は・・・・・・。)
話の途中で元魔王ソヴ―ルの意思は消えてしまった。
「いざ! 行かん! 魔界へ!」
元々、勝気な性格のシエルは、魔王の力を手に入れて、魔界へ向かう。
魔界。
(どうしよう!? 魔界に行くと言ったけど、危ない所だったら!?)
シエルは、儒者のミニ・デビルと共に魔界への続く道を進む。
(ビビるな! 私! これも大好きなお兄ちゃんに会うためだ!)
弱気な心を、好きな兄で埋めて吹き飛ばす。
「アナスタシア様。もうすぐ魔界ですよ。アハッ!」
ミニ・デビルは陽気に道案内をする。
「ええー!? ここが魔界!?」
シエルたちは魔界にたどり着いた。
「地上と変わらないじゃない!?」
魔界は空気が澄み、きれいな水が流れ、色鮮やかなお花畑、小鳥の様な小動物もたくさんいた。
「はい。それも、あなたの祖父にあたるソヴ―ル様が、狂気! 邪悪! 虚偽! 陰謀! 混沌としていた魔界を統一したおかげです。」
元魔王のソヴ―ルは偉大な人物であった。
「おおっ!? 力が全てっぽい魔界で、光を名乗り、貴族名なのも納得できるわ!?」
魔界の王族ルミナリウス家。
「さらに魔力で人口太陽、人口月を作り、日の光が当たらなかった魔界にも生物が宿るようになり、食料も増え豊かになったので、魔界の魔物も人間界に行って、悪さをすることがなくなりました。」
「分かった。早く行こう。」
「ええー!? ここ私の一番の見せ場なんですけど!?」
「却下。話が長い。こっちでいいのよね。置いていくわよ。」
「待ってください!? 置いていかないで!?」
(早く魔界を治めて、お兄ちゃんに会いに行くんだ!)
人間界育ちのシエルは、魔界に興味はなかった。
バン!
「こら! 俺様の領土で何をしている!」
そこに大柄の魔物が現れる。
「化け物!?」
「ギャアアアアアアー! プライド!?」
ビビるシエルと小悪魔。
「その通り! 俺様は傲慢のプライド! この魔界を支配する者だ! ワッハッハー!」
現れたのは、中サイズの巨人の傲慢のプライド。
「ど、どうなっているのよ!? デビちゃん!?」
「魔王ソヴ―ル様がいなくなってから、魔界は元の混沌に戻ってしまって、新興勢力で新悪魔騎士というのが現れて、目下、魔界は内戦状態です!?」
「はあっ!? そういうことは先に行ってよ!?」
「だって、言ったら魔界に来てくれないと思いまして。」
「当たり前でしょうが!」
「アハッ!」
小悪魔に騙されたシエル。正に魔界、正に小悪魔である。
「女か、俺様の取り巻きにしてやるぞ。光栄に思え。」
「誰が、あんたの相手なんかするもんですか!」
傲慢のプライドとシエルの戦いが始まる。
「静まれ! 静まれ! このお方をどなたと心得る! 魔王ソヴ―ル様の孫! アナスタシア・ルミナリウス様であらせられるぞ! 図が高い! 控え! 控えよ!」
(気持ちいい! アハッ!)
調子に乗る小悪魔。
「・・・・・・それで?」
「えっ?」
「死んだ魔王など怖くもないわ! この娘が本当に魔王の血筋なら、俺様の嫁にすれば、それこそ、俺様は名実ともに本当の魔王になれるのだ! ワッハッハー!」
プライドは魔王への道を見つる。
「ちょっと!? 逆に喜んでるじゃない!?」
「デビちゃん、悪くないもん。」
しらばっくれる小悪魔のミニ・デビル。
「俺様の嫁になれ!」
「嫌よ! 誰があんたなんかと結婚するもんですか!」
断固拒否するシエル。
「なら・・・・・・死ね! うおりゃああああああー!」
持ったこん棒で襲い掛かる巨人の傲慢なプライド。
「ヒィエー!!!!!!?」
(さよなら、お兄ちゃん。死んだらあの世で会おうね。)
シエルは、ミンチになることを覚悟した。
ピカーン!
その時、シエルの体内から、魔王ソヴ―ルのカードが光り、ライオンの頭の防具を持った悪魔が現れる。
ガキン!
「なに!? 俺様の一撃を止めただと!?」
悪魔は盾でプライドの攻撃を防いで跳ね返して見せた。
「あ、あなたは?」
「俺はサブナック。魔王ソヴ―ル様に忠誠を誓った者です。ソヴ―ル様の末裔よ。私の盾が、あなた様をお守りいたします。」
「ありがとう。サブナック。」
「俺なんかに礼を言われるのは、ソヴ―ル様に似ていらっしゃる。」
すると防具の悪魔サブナックは、シエルの周りに魔王のオーラとして、敵の攻撃を防ぐ覇気の一部となった。
「デビちゃん。これはどういうこと?」
「はい! ソヴ―ル様は、魔王として72体の悪魔を従えていました。魔王様の意思を引き継いだアナスタシア様は、必然的に、配下の悪魔の力に守られています! ドヤッ!」
「そういうことも、先に言って!」
「すいません・・・・・・。」
声が小さく、姿も小さくなる小悪魔。
「デビちゃん、あいつを倒せる悪魔とかいないの?」
「それよりも、ルミナリウス家に受け継がれる伝説の武器がありますよ!」
「伝説の武器!? どうやって出すの?」
「呼んだら出ますよ。」
「ホンマかい!?」
小悪魔を信用していないシエル。
「いでよ! 伝説の武器!」
ピカーン!
カードが光輝き、一本の光の剣が現れる。
「おお! その輝きこそ! 魔界の光とうたわれた、魔王様の剣! ソヴ―ル・ソード!」
「これが!? おじい様の剣!?」
「ま、眩しい!? なんで魔界に、光の剣があるんだ!?」
魔王の剣は、魔界にありながら神々しい平和の光を放っていた。
「益々、気にいった。俺様の妃にしてやろう! うおおおおおおー!」
(ここからどうすればいいの!?)
初めての戦闘、初めての剣に戸惑うシエル。
ピカーン!
その時、カードが光り輝き新しい意思が現れる。
(初めまして。新しい主よ。私は剣技の悪魔アンドラス。怖がらないで。私がサポートします。)
悪魔は、シエルの魔王のオーラの一部となり力を与える。
「よし! やってやる! 私は、おまえなんかと家族になる気はない!」
突進してくるプライドに、魔王オーラで光り輝く魔王の剣で斬りかかる。
「ソヴ―ル・スラッシュー!」
シエルの一振りが巨体のプライドを切り裂く。
「ば、バカな!? この俺様が!? ・・・・・・。」
一閃だった。一撃で傲慢のプライドをシエルが倒したのだった。
「わ、私がやったの!?」
(人を殺してしまったの!? こ、怖い!? 怖いよ!? お兄ちゃん!?)
勝利よりも、自分の行為に恐怖するシエル。
ピカーン!
「嘘っ!?」
その時、プライドの遺体が奇跡の光を放つと、死んだはずのプライドが生き返る。
「ど、ど、ど、どうなっているの!?」
「救済の光です。魔王の剣で斬られたものは、心の汚れを祓われて生まれ変わり魔王様に忠誠を誓うのです。だから魔王様は72体もの悪魔を仲間にすることができたのです。エッヘン!」
「なんですと!? そういうことは早く言ってよね!?」
「聞かれなかったんだもん。アハッ!」
笑って誤魔化す小悪魔。
「お許しください。俺様が、いえ、俺が間違っていました。傲慢だったことを後悔しております。」
「おお!? 本当に別人だわ!?」
悪魔的な心の汚れから救済されたプライド。
「どうか俺も魔王様の配下に加えてください。」
「どうしようかな?」
ピキーン!
「そうだ! お友達になってあげるから、お兄ちゃんを助けてあげて。」
「えっ!? お兄ちゃんですか?」
「そう。ダメで不真面目でダラダラしたお兄ちゃんなの。私が激励しないと何にもできないの。あなたには陰からお兄ちゃんを助けてほしいの。」
兄思いの妹。
「わ、分かりました。」
「ちゃんと怪しまれない様に人間サイズになってね。」
「は、はい。行ってきます。」
戸惑いながらも悪魔プライドは、地上にいる兄アルクの元へ向かった。
「ある意味で、ソヴ―ル様より怖いかも!? 血は争えないな・・・・・・。」
内心凍り付く小悪魔のミニ・デビルであった。
魔王の城。
「大きい!? これがおじい様のお城!?」
「おお! 懐かしの我が城!」
シエルと小悪魔は魔王の城にたどり着いた。
「こらー! ミニ・デビル! おまえの城じゃないだろうが!」
激怒しているヒステリックな女が城のバルコニーに現れた。
「ギャアアアアアアー! ルシファー様!?」
「ルシファー様?」
「はい。ルシファー様は、魔王ソヴ―ル様の悪魔騎士の一人です。魔王様亡き後、魔王城を守っておられます。」
「だから、そういうことは先に言って!」
女の正体は、悪魔騎士の傲慢のルシファーだった。
「ルシファー様。こちらにおわす方は、ソヴ―ル様の孫のアナスタシア・ルミナリウス様です。開門してください。」
「・・・・・・それがどうした?」
「えっ?」
「私が仕えるのは、魔王ソヴ―ル様だけよ! そんな小娘に従う気はない!」
ルシファーは、シエルを新しい魔王とは認めなかった。
「おまえを殺して、ソヴ―ル様の遺志を継ぐのは、この私だ! とう!」
傲慢のルシファーが背中の羽を羽ばたかせ、華麗に舞い降りる。
「有翼人!?」
「いいえ。ルシファー様は・・・・・・堕天使です。」
「なんですって!?」
悪魔騎士の一人、ルシファーの素性が明かされる。
「哀れなソヴ―ル様。ステラ様を人質に取られていなければ、カードに封印などされなかったでしょうに。」
魔王ソヴ―ルがカードに封印された理由が明かされる。
「お母さん!? 教えて、ルシファー。私のお母さんに何があったの?」
自分の出生や家族のことが知りたいシエル。
「んん? あなたは何も知らないのか? ・・・・・・愚かな。」
ルシファーは、目の前の娘に呆れる。
「教えて! いったい何があったの?」
「知りたければ、私を倒すんだな!」
魔力の籠ったエネルギー破を2、3発放つルシファー。
「キャア!?」
シエルは怯むが、闇のエネルギー破を、防具の悪魔サブナックの盾が防ぐ。
「まさか!? その能力はソヴ―ル様の!?」
「そうよ! 私は、おじい様に力を託されたのよ! どう? 私にはどんな攻撃も効かないわよ! 私は魔王の孫、アナスタシア・ルミナリウスである! 分かったら、早く降参しなさい!」
ルシファーは、シエルが魔王の力を引き継いだことを知る。
「・・・・・・せ、返せ! その力は、私が引き継ぐはずの力だ! 誰が降参なんかするかー!!!!!!」
(なんて強い意思なの!?)
光り輝く剣を鞘から抜く、積年の想いが詰まりすぎていて震えるルシファー。
「確かに、闇属性の攻撃は防がれるでしょうね。ですが、聖剣エクスカリバーは防げまい! でやああああああー!」
ルシファーは聖剣エクスカリバーで斬りかかる。
ズバッ!
聖剣はサブナックの盾を切り裂き、風圧はシエルの頬を少し切り血が滲む。
「これで終わりだー!!!!!!」
攻撃の手を緩めずにとどめを刺そうとするルシファー。
(やられる!?)
死を覚悟するシエル。
ピカーン!
その時、シエルの懐の魔王のカードが光り輝き現れる。
「そ、ソヴ―ル様!?」
光野中から魔王の剣が姿を現す。
(ルシファーよ。もういいだろう。)
「私が一番そばにいたのに! 私が一番、あなたの苦しみを知っているのに!」
ルシファーは振り上げた剣を下ろし、瞳から涙が生まれる。
「あなたを愛していたのに!」
遂には、泣き崩れてしまうしゃがみ込む。
「あなたのいない世界で、一人で生きていくのは辛すぎます・・・・・・。」
(すまない。)
魔王ソヴ―ルの意思もそれ以上、自分を慕い、ついてきてくれたルシファーにかける言葉が見つからなかった。
「私も一緒に行きます! 冥界でも、奈落でも連れて行ってください!」
(約束してくれ。決して、自ら命を絶たないと。そして、アナスタシアを助けてあげてもしい。私が一番信頼している、ルシファーよ。)
「ソヴ―ル様!?」
魔王ソヴ―ルの意思は、言いたいことだけ言うと風の様に去っていった。
「ああ。あなたは残酷なのですね。・・・・・・分かっています。私の思いは叶わないと。」
分かり切っていることだと言い聞かせるルシファー。
「あなた、おじい様のことが好きだったのね?」
「はい。そうです。だから私もソヴ―ル様の後を追って、天界から逃げたのです。」
「ん? んん? おじい様の後を追って天界から逃げたって、どういうこと?」
少しの違和感に耳を疑うシエル。
「ソヴ―ル様は、元は、光の神ルミナリウスなのです。」
つづく。
SST3 渋谷かな @yahoogle
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