追放された器用貧乏、実は生産神。万能クラフトで世界を無双する!
@tamacco
第1話 追放された雑用係、実は生産職のスペシャリスト
「悪いがアルト、お前のような『器用貧乏』は、もう俺たちのパーティには必要ないんだ」
宿屋の個室に、幼馴染であり、この国の希望でもある勇者ガイルの声が冷たく響いた。
テーブルを囲んでいるのは、Sランクパーティ『聖剣の翼』のメンバーたち。
勇者のガイル。聖女のリア。賢者のミナ。重戦士のダグ。
そして、冒険者としての適性職を持たず、荷物持ち兼雑用係として同行していた俺、アルトだ。
「……必要ない、か。いきなりだな」
俺は努めて冷静な声を出しながら、ガイルの顔を見た。
長い付き合いだ。彼の瞳を見れば、それが一時的な感情で言っているのではなく、前々から決めていたことだとすぐに分かった。
「ああ。魔王軍の幹部クラスと戦うことが増えてきた今、お前のような半端な戦力外がいると、足手まといなんだよ」
ガイルがテーブルに足を投げ出しながら言う。
その横で、賢者のミナが呆れたようにため息をついた。
「そういうことよ、アルト。貴方の剣術は素人に毛が生えた程度。魔法も生活魔法レベル。正直、貴方を守りながら戦う私達の負担も考えて欲しいわ」
「俺らSランクだぜ? いつまでも一般人が混ざってていい場所じゃねえんだよなあ」
重戦士のダグもニタニタと笑いながら追随する。
唯一、聖女のリアだけは少し気まずそうに目を伏せていたが、反対の声を上げることはなかった。
俺は小さく息を吐いた。
確かに、俺には戦闘の才能はない。
ステータスも低いし、派手な攻撃スキルも持っていない。
だが、このパーティがここまで成り上がれたのは、戦闘以外の部分――兵站や装備の管理を、俺が死ぬ気で支えてきたからだという自負はあった。
「俺がいなくなって、装備のメンテナンスはどうするんだ? ガイルの聖剣は毎日研ぎ直さないと切れ味が落ちるし、ミナの杖だって魔力伝導率の調整が必要だろ」
「はっ、その程度のこと、街の鍛冶屋に頼めばいいだろ」
ガイルは鼻で笑った。
「ポーションの補充は? 市販品じゃ回復量が足りないから、俺が採取した素材で特製ポーションを調合してたはずだ」
「それこそ錬金術師ギルドで買えば済む話だ。金なら唸るほどあるんだからな」
ミナが金貨の詰まった袋をジャラつかせる。
「食事はどうする。ダンジョン内での栄養管理や、ステータスバフのかかる料理を作っていたのは俺だぞ」
「お前の料理も飽きたんだよ。これからは高級保存食を持っていくから問題ねえ」
ダグが面倒くさそうに手を振った。
何を言っても無駄だった。
彼らは気づいていない。
街の鍛冶屋では、聖剣のような伝説級の武器をまともに扱えないことを。
市販のポーションでは、即効性と回復量が段違いに低いことを。
そして、俺の作る料理が、ただ美味しいだけでなく、食べた者の魔力や体力を底上げする特殊な効果を持っていたことを。
彼らにとって俺は、ただ便利で、少し小器用なだけの、代わりの利く存在でしかなかったのだ。
「分かった。……抜けるよ」
これ以上しがについても、互いに惨めになるだけだ。
俺は立ち上がり、自分の荷物をまとめた背嚢(リュック)を手に取った。
「ああ、そうだ。アルト、お前が管理していた『アイテムボックス』の中身、全部置いていけよ? あれは俺たちの共有財産だからな」
「……分かってるよ」
俺は腰につけていた大容量のマジックバッグをテーブルに置いた。
中には、希少な鉱石や、ダンジョンで手に入れたレア素材、予備の装備品がぎっしりと詰まっている。
すべて俺が採取し、整理し、管理してきたものだが、彼らに言わせれば「パーティの戦利品」なのだろう。
手元に残ったのは、自分用の着替えと、わずかな路銀。
それに、誰も欲しがらなかったボロボロの鉄剣と、携帯用の簡易生産キットだけ。
まさに身一つだ。
「今まで世話になったな、ガイル。……元気でやれよ」
「おう。お前も、田舎に帰って畑でも耕してろよ。それがお似合いだ」
最後に見送る言葉もなく、嘲笑だけを背に受けて、俺は宿屋の部屋を出た。
◇
宿を出ると、外はすっかり夜だった。
王都の繁華街は冒険者たちで賑わっていたが、今の俺にはその喧騒がひどく遠くに感じられた。
幼い頃、「一緒に世界一の冒険者になろう」と誓い合った約束は、一方的な解雇通告であっけなく終わった。
「……さて、これからどうするか」
当面の宿を探さなければならないが、高級宿に泊まる金はない。
俺は路地裏にある、一泊銅貨数枚の安宿を目指して歩き出した。
悔しくないと言えば嘘になる。
歯を食いしばり、必死についていった日々。
戦闘では役に立てない分、皆が寝静まった後に剣を研ぎ、ポーションを煮込み、服のほころびを縫った。
「ありがとう」の一言があれば報われたかもしれないが、それすら稀だった。
(俺は、本当に無力だったのかな……)
安宿の狭く薄暗い部屋に入り、硬いベッドに腰を下ろす。
一人になって、張り詰めていた糸が切れたようだった。
ふと、日課になっていたステータス確認の癖が出る。
自分の能力値を見るのは憂鬱だった。
いつ見ても『器用貧乏』と揶揄されるような、中途半端な数値が並んでいるだけだったからだ。
「ステータス・オープン」
空中に半透明のプレートが現れる。
そこには、見慣れた名前と、見慣れない文字列が表示されていた。
名前:アルト
年齢:18
職業:生産神(未覚醒)→ 生産神(覚醒)
レベル:45
【ユニークスキル】
万能製作(オールクラフト)
・素材解析:Lv.MAX
・構造理解:Lv.MAX
・神の手 :Lv.MAX
【保有スキル】
鍛冶:Lv.99(上限突破)
錬金:Lv.99(上限突破)
料理:Lv.99(上限突破)
細工:Lv.99(上限突破)
縫製:Lv.99(上限突破)
魔道具作成:Lv.99(上限突破)
採取:Lv.99(上限突破)
【称号】
追放されし者
解放された才能
「……は?」
俺は思わず声を上げ、目をこすった。
見間違いではない。
以前まで表示されていたはずの『雑用係』という職業表記が消え、『生産神』という物々しい文字に変わっている。
それに、スキルレベルだ。
一般的に、人のスキルレベルの上限は10と言われている。達人と呼ばれる人間でも20や30だ。
それが、軒並み99。しかも(上限突破)と書かれている。
そして、ウィンドウの下部に小さく点滅するログがあった。
『パーティ【聖剣の翼】からの脱退を確認』
『誓約【勇者の礎】が解除されました』
『抑制されていたスキル経験値が解放されます』
『ユニークスキル【万能製作】が覚醒しました』
「誓約……? 抑制?」
その言葉を見て、俺はかつて聞いた古い伝承を思い出した。
勇者パーティに選ばれた者の支援者は、無意識のうちに自らの才能をリミッターとして勇者に捧げ、その成長を促すという『勇者の礎』の呪い。
まさか、俺はずっとその影響下にいたのか?
俺のスキルが上がらなかったのも、作ったアイテムの効果がいまいち評価されなかったのも、すべてはその力の大部分がガイルたちへ流れていたから?
「だとしたら、今の俺は……」
全力が、出せるということか。
心臓が早鐘を打つ。
信じられない気持ちと、試してみたいという衝動が湧き上がってくる。
俺は震える手で、背嚢から『携帯用簡易生産キット』を取り出した。
これはガイルたちに捨てていけと言われなかった、俺の私物だ。
中には、小型の調合鍋と、道端で採取したまま使っていなかった『薬草(低品質)』が数本入っている。
「……とりあえず、ポーションを作ってみるか」
いつも通り、鍋に水を張り、魔力コンロに火をつける。
薬草を刻み、投入する。
これまでは、ここから魔力を込めてかき混ぜるのに、一晩中つきっきりで調整が必要だった。
それでも出来上がるのは、良くて『中級ポーション』止まり。
だが、今は違った。
薬草を手に取った瞬間、頭の中に情報の奔流が流れ込んできたのだ。
『対象:シズク草(乾燥気味)。最適解出温度87度。魔力浸透率・右回転で45%向上。葉脈の第三節に微細な魔力溜まりあり、これを開放することで効果倍増――』
「なんだ、これ……素材の声が聞こえるみたいだ」
指先が勝手に動く。
まるで何十年もその道を極めた職人のように、淀みなく、洗練された動きで薬草を処理していく。
鍋に投入し、魔力を流し込む。
以前は抵抗を感じた魔力の通り道が、今は恐ろしいほどスムーズだった。
俺の魔力が素材の一つ一つと対話し、そのポテンシャルを無理やり引きずり出していく感覚。
カッ!
数分もしないうちに、鍋の中が黄金色の光を放った。
安宿の部屋がまばゆい光に包まれる。
「うわっ、眩しっ!」
光が収まると、鍋の底には、とろりとした金色の液体が残っていた。
甘く、濃厚な香りが部屋中に漂う。
ただの薬草の煮汁とは明らかに違う、神々しいまでの気配。
俺は恐る恐る、空き瓶にそれを詰めた。
そして、【万能製作】の解析スキルで鑑定する。
アイテム名:神酒のポーション(特級エリクサー)
ランク:UR(ウルトラレア)
品質:最高品質(神業)
効果:
・HP完全回復
・部位欠損の再生
・全状態異常の解除
・最大MPの一時的上昇
・寿命の微増
製作者:アルト
「……はあ!?」
俺は思わず瓶を取り落としそうになった。
特級エリクサー。
それは、国の宝物庫に数本あるかないかと言われる、伝説の霊薬だ。
瀕死の重傷はおろか、失った手足さえも再生させると言われる奇跡の秘薬。
市場に出れば、白金貨数百枚――いや、城が一つ買える値段がつく代物だ。
それが、道端のしなびた薬草から?
しかも、たった数分で?
「これが、【万能製作】の力……」
俺の手が震えた。
今までの苦労は何だったんだと思うほどの、デタラメな性能。
ガイルたちに吸い取られていた力は、これほど巨大だったのか。
「……いや、違うな」
俺は首を振った。
力が戻ってきただけじゃない。
今まで俺が、「才能がない」と言われながらも腐らずに、毎日毎日、来る日も来る日も地味な作業を繰り返してきた。
その膨大な経験と知識が、リミッター解除によって爆発的な化学反応を起こしたのだ。
「俺は、無能じゃなかったんだ」
その事実を噛み締めた瞬間、胸の奥に熱いものがこみ上げてきた。
追放された悔しさ、見下された悲しみ。
それらが全て、これからの希望へと変換されていく。
俺は次に、腰に差していたボロボロの鉄剣を抜いた。
長年の使用で刃こぼれし、錆びついた粗悪品。
だが、今の俺には見える。
鉄の中に眠るわずかな不純物の位置、金属結晶の歪み、そして最適化された魔力回路の描き方が。
「修復(リペア)」
俺が指先で刀身をなぞると、青白い光が走った。
ハンマーも炉も使っていない。
ただ、スキルを発動し、魔力を通しただけ。
パキパキと音を立てて錆が剥がれ落ち、刃こぼれが埋まっていく。
鈍色だった鉄は、月光のような澄んだ輝きを放つ銀色へと変質した。
アイテム名:名工のミスリルソード(改)
ランク:S
品質:極上
効果:
・切れ味増大(大)
・自動修復
・軽量化
※ただの鉄剣が、製作者の魔力変異によりミスリル化しました。
「鉄がミスリルになった……?」
常識外れにも程がある。
錬金術の到達点である『物質変換』を、ただの修理のついでに行ってしまったのだ。
俺は生まれ変わった剣を握りしめた。
手に吸い付くようなフィット感。
軽く振るだけで、空気を切り裂く鋭い音が鳴る。
これなら、今まで俺を馬鹿にしていた魔物だって、一撃で倒せるだろう。
「……すごい」
一人、薄暗い部屋でつぶやく。
これだけの力があれば、何だってできる。
お金を稼ぐことも、自分だけの工房を持つことも、世界中の珍しい素材を集めに行くことも。
もう、誰かの顔色を伺って、自分の価値を証明しようと必死になる必要はない。
俺の作った物が、俺の価値を証明してくれる。
「決めた」
俺は窓を開け、夜風を吸い込んだ。
王都の街並みが眼下に広がっている。
「俺は、生産職(クラフトマン)として生きていく」
冒険者としてモンスターを狩る英雄になれなくてもいい。
俺の作った剣で、俺の作った薬で、俺の作った道具で、世界中を驚かせてやる。
そしていつか、俺を追放したガイルたちが、「あの時アルトを追い出さなければよかった」と後悔するくらい、ビッグになってやるんだ。
「まずは、ギルド登録だな」
この国には、冒険者ギルドとは別に、職人たちが所属する『生産ギルド』が存在する。
そこには、職人たちの腕を格付けする『ギルドランキング』というものがあるらしい。
鍛冶、錬金、料理……それぞれの部門でランキングがあり、総合ランキング上位者は『人間国宝』や『マイスター』として称えられるという。
「目指すなら、頂点だ」
俺のユニークスキル【万能製作】があれば、鍛冶も錬金も料理も、全部門制覇だって夢じゃないかもしれない。
全職カンストの生産神。
その力、存分に使わせてもらおう。
俺は特級エリクサーの瓶をしっかりと握りしめ、新しい明日への期待に胸を膨らませた。
これが、後に世界中の冒険者や王侯貴族を巻き込み、伝説の『生産神』と呼ばれることになる男、アルトの新たな物語の始まりだった。
一方その頃。
王都の高級宿の一室では、勇者ガイルが不機嫌そうに自分の剣を眺めていた。
「おい、なんか剣の輝きが鈍ってないか?」
「気のせいじゃない? それよりガイル、私のローブのほつれ、直ってないんだけど。アルトは何やってたのよ」
「あいつならもう追い出しただろ。……チッ、明日には新しい雑用を雇うか」
彼らはまだ知らない。
失ったものの大きさと、これから訪れる緩やかな、しかし確実な破滅を。
(第1話 おわり)
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