第6話 執事の忠誠

一方、俺は執事のアルバートと話していた。50代の厳格だが有能な執事で、父の信頼も厚い。


「カイム様、ご提案の『魔力耕起具』についてですが、領内の鍛冶屋と魔導具師を招集いたしました。明日の午後に、最初の打ち合わせを開催いたします」


「ありがとう、アルバート。必要な材料のリストはあるか?」

「はい、こちらにまとめております」


彼が差し出した羊皮紙を受け取り、俺は目を通した。必要な魔石の種類、金属の分量、見積もり費用…すべてが詳細に記されていた。


「予算は父上が認めてくれた額内か?」

「はい、公爵様から最初の試作に必要な資金の使用を許可されました。ただし、効果が確認できるまで大規模な投資は控えるようお言葉がありました」


「了解した。では明日、皆の前で詳しく説明しよう」


アルバートは一瞬躊躇い、それから低声で言った。


「カイム様、お言葉ですが…この計画、本当に成功するおつもりですか? これまで誰も試みたことのない試みです」


俺は彼を見上げ、確信に満ちた笑みを浮かべた。


「成功すると信じている。なぜなら、失敗する選択肢は考えていないからだ」


その言葉に、アルバートは目を見開いた。そしてゆっくりと頭を下げた。


「…かしこまりました。全力でお手伝いいたします」


その瞬間、微かな何かを感じた。絆のような、目に見えないつながりのようなものだ。アルバートの忠誠心が、俺の特別な力を少しだけ活性化させたようだった。


「よろしく頼む、アルバート」

「はい、カイム様」


彼が去った後、俺は広大な庭園を歩きながら考えた。


「まずは農業改革から始める。食料問題を解決し、領地の基盤を固める。それから教育制度の改革、魔導技術の研究…」


道順は見えている。ゲーム内でカイムが犯した過ちをすべて把握している。孤立せず、個人の力に頼らず、組織としての力を最大限に活用する。


「そして、あの力の真価を発揮させるためには…信頼できる仲間が必要だ」


ふと、ゲームのヒロインたちのことを思い出した。ソフィー・サピエンス、アーシャ・アークエイン、エリザ・ブレイド…そして妹のシルヴィア。


「今回は、彼女たちを敵に回さない。むしろ、味方につけるのだ」


遠くの方で、幼い笑い声が聞こえた。振り返ると、シルヴィアが乳母と一緒に花を摘んでいるのが見えた。


彼女は私に気づき、手を振った。


「お兄ちゃん! こっちおいで!」


無意識に、私の口元に笑みが浮かんだ。この温かい日常を守るために――すべてをかける価値がある。


「ああ、今行くよ」


俺は妹のもとへ歩き始めた。長く険しい道のりが待っていることは分かっていた。しかし、今回は一人ではない。


家族がいる。やがては仲間もできる。そして、運命そのものに挑むための力も、少しずつ目覚め始めている。


「さあ、始めよう――第二の人生を」


夕日が庭園を黄金色に染め、遠くの城壁の影が長く伸びていた。すべてが始まったばかりだった。

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転生少年の帝国改革 @stark_

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