奪い愛
芥之相
第1話 政策
人類は増えすぎた。
そんな問題に対して世界が重い腰を上げたのは今から暫く前の事。
2050年、日本。
主要国の首脳が集まるG7会議を、その国に居た人々は単なるイベント事かのように囃し立て、ニュースや新聞等マスメディアを利用し、XやYoutube等を介して持論を持ち掛け、それに対して反論。無意味な討論で溢れる、いつかと似たような海風がネット社会をながれていた。
だが、G7終了後の首脳宣言を受け、その風の流れは一変することとなる。
それどころかその時は、誰も彼もが思考を辞め、一時、凪のような静寂が国を包み込み、刹那的な平和が訪れたらしい。
皮肉な事に、混乱は全ての人間の心を1つにする禍福となりうる。
その宣言は、賛否を許さぬ、物言わぬ悪として、世間の心を1つにした。
だがそれも、ほんの一時的な事に他ならない。
大きな風の流れを変えるのは、圧倒的な力だ。
正義はいつだって、卓越した存在の基に下る。
今回の場合、それは政府に――国に他ならない。
後に国は、それに至った人間を弾圧する事となる。
ある男は、少子高齢化と若者の負担について唱え、姿を消し。
ある女は、その処置における不完全さを生物学的な根拠を基にした寿命の減少率の論文を以て立証した事で、過去全ての経歴を奪われ。
ある子は、その両親が若くして優秀且つその処置における第一人者だったが故に、その第1号に選ばれ、全てを失った。
そうして過ぎていく時は、そんな疑問や犠牲を風化させ、さも、そんな事なんて起きていないかのように、そんな事を口にする事が野暮かのように、当たり前のこととして受け入れられ始めた。
というより。そも、この国は世界が抱える問題とは真逆の立場にあったのだ。
それなのに、何故、あの様な愚策に同意したのか......それは未だ、明らかになっていない。
まぁそれも、先程語ったような卓越した存在が――自国以外の国々が――顔を見合せてきたら。
他の人間なら......俺なら、断れていたのだろうか。
『人口低減令』
それが、G7の指示を受けてこの国が提出する事となる、特別緊急令の名前だ。
名前だけ聞けば、そう残虐な令には聞こえないだろう。
彼らのやり口は昔から変わらない。
耳障り良く、ある程度、ふわっとしたいとさえ伝われば、どうだっていいのだ。
それは、その物事について深く知ろうとしない国民性を利用したものにすぎず。
事実。しばらくの間、当事者たる人間として子を産む立場となる迄、それについて重要視する声は挙げられなかった。
結局。他人の子が去勢されようが、避妊手術を受けようが、他人事の域を越えないからだ。
自分の命は、何に取っても変えられぬ重要事項だ。
だが、ある時期を抜けると、なりを潜めていた批判の声は大きくなった。
それこそ、2070年に起きた、主要国を相手取った集団訴訟だ。
その時代の被害者たる人間――僕の姉である第1号の被験者が声を挙げた事で集まった、処置を受けた20歳以下の若者――の声は、優に億を越えていた。
その結果が告げている。
人口増加に繋がる原因の一端は、今から産まれてくる子供には全くといっていいほど関係が無いのだ。
自制すべきは大人であり、その子では無かったのだ。
それに気が付いた......というより、半ば仕方なく。
日本は『人口低減令』を撤廃。
謝罪と賠償を支払う事を条件に、この件は終わりを迎える。
筈が無かったのだ。
先にもあった通り、処置を受けた若者の多くは、21歳を迎える前に倒れて行った。
原因がその論文通りか、それを引き継いだ人間がいない以上、分からない。
その代償に訪れた、働き手不足という国にとって何よりの枷は、日に日に重くなって足を引っ張る。
結果として迎えた、この国の末路。
2086年、現在の日本。
僕は、とある人間の上に跨っていた。
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